住宅ローンの返済と投資、どちらを優先すればいいのか。金融投資家の上原千華子さんは「大切なのは、生活防衛資金をしっかり確保すること、使う時期が近いお金は分けておくこと、老後など長期のお金は投資で育てること、この3つの順番だ」という――。

■繰り上げ返済か、積み立て投資か
「住宅ローンの返済はまだ20年以上残っている。教育費もこれから本格化する。それでも、新NISAの積立は続けたい」
そんなジレンマを抱えていませんか。家計に余裕があるわけでもないのに、「今のうちに投資で増やさないと乗り遅れてしまう」と焦りを感じる方もいることでしょう。
繰り上げ返済と新NISAの積立、いったいどちらを優先すればよいのでしょうか。この問いが難しいのは、利回りの比較だけでは決められないからです。家計の状況、これから使うお金、住宅ローン金利、そして「借金があると落ち着かない」「現金が減るのは怖い」といった気持ちまで考える必要があります。
今回は、40代の具体的な家計事例をもとに、「返すお金」と「増やすお金」の順番を一緒に考えていきましょう。
■40代になると固定費が重くのしかかる
住宅ローンを返済しながら投資をするのは、間違いではありません。繰り上げ返済と新NISAの積立投資は、役割がまったく異なります。繰り上げ返済は利息負担を確実に減らす方法です。一方、新NISAの積立は、値動きはあるものの、長期で資産形成を目指すものです。

大切なのは、「どちらが得か」だけで考えないことです。今の家計に無理が生じていないか、近い将来に使う予定のお金まで投資に回していないか、といった視点が必要です。特に40代は、収入が増えて安定してきたように見えても、住宅費・教育費・保険料など、固定費が重くなりやすい時期です。
そこでまず優先したいのは、生活防衛資金として生活費の6カ月~1年分を確保することです。そのうえで、教育費や住宅の修繕など、使う時期がほぼ決まっているお金は、投資とは切り離して考えましょう。
繰り上げ返済は、将来の利息負担を確実に減らせますが、まとまった手元の資金が減ることも忘れてはなりません。その軽減効果は、住宅ローンの金利や残りの返済期間によって変わります。低金利のローンで、教育費や住宅修繕費などこれから使うお金が多い時期であれば、繰り上げ返済を急ぐよりも、まず手元資金をしっかり確保するほうが家計は安定しやすいでしょう。
■手元資金が「生活費1年分」より少ない
たとえば、次のようなご家庭を考えてみましょう。
夫42歳・妻40歳(共働き)

子ども2人(中学1年・小学4年)
世帯年収:約1100万円(夫600万円・妻500万円)

月の手取り:約61万円、ボーナス手取り:年間約120万円

住宅ローン残高:約3200万円(金利0.8%変動・残り22年・月返済13万円)

手元現金:約500万円
[月の支出内訳]

住宅ローン:13万円

管理費・修繕積立金:2万円

食費:8万円

光熱費・通信費:3.5万円

保険料:3万円

教育費:6万円

車関連費:2.5万円

レジャー・日用品:5万円

新NISA積立:3万円
合計:約46万円/月の余剰:約15万円

世帯年収1100万円は「それなりに余裕がありそう」と見られやすい世帯です。毎月の支出を並べると合計約46万円で、月の余剰は約15万円。一見すると問題なさそうに見えます。

しかし、手元の現金は約500万円。約550万円という生活費1年分の目安まで、あと一歩届いていません。ボーナスが出るたびに「繰り上げ返済に回すべきか、投資額を増やすべきか、現金を残すべきか」と迷うのも無理はありません。
■せっかくのボーナス、どちらに使う?
では、ボーナスから資金を拠出する2つのケースを比較してみましょう。
【ケースA】100万円を繰り上げ返済(元利均等返済・期間短縮型)した場合
返済期間は約9カ月短縮され、軽減される総利息は概算で約19万円です。年平均の利回りに換算すると、ローン金利とほぼ同じ約0.8~0.9%程度になります。2026年4月時点の変動金利が0.6~1.0%程度であることを考えると、低金利のローンほど繰り上げ返済による利息削減の効果は限定的といえます。
また、手元から100万円が一気になくなる点も見逃せません。生活費1年分まであと一歩という状況で100万円が減ると、まとまった出費への備えがさらに遠のいてしまいます。
【ケースB】新NISAの積立を月3万円から6万円に増額した場合
ボーナスから計36万円をNISAの増額分として充てる形にします。月6万円×22年間、年利5%で運用できたと仮定すると、積立総額は約1584万円、運用後の想定資産は約2800万円になります。運用成果は変動するものの、長期で考えれば、ケースAの約0.8~0.9%を上回る可能性があります。

ただし、これはあくまで長期で順調に運用できた場合の試算です。相場が大きく下がる時期に教育費や修繕費が重なれば、資産を取り崩すタイミングを誤るリスクがあります。
■優先順位は生活費1年分→守るお金
数字だけを見れば、ケースBに軍配が上がります。しかし、手元資金が生活費1年分(約550万円)にあと少し届かない今の状態でNISAを増額するのは、少し早い判断かもしれません。
この家庭におすすめしたい順番は、まず手元資金を生活費1年分まで積み上げることです。次に、教育費のピーク(高校・大学入学)に備えた「守るお金」を別枠で確保します。そのうえで、余裕が生まれたところで新NISAの増額や繰り上げ返済を検討する、という流れです。
収入があるから大丈夫ではなく、「どのお金を先に守るか」という視点が大事になってきます。
住宅ローン返済中に、新NISAを続けるべきかどうか迷った時には、次の3つの基準で判断するとよいでしょう。
■生活資金を取り崩せないピンチに陥る
1.まずは生活防衛資金があるか
最優先すべきなのは、病気・転職・収入減・住宅修繕など、いざというときに備える現金です。目安は世帯の状況によりますが、まずは生活費の6カ月~1年分を確保したいところです。
この現金が少ないうちは、繰り上げ返済も投資も急ぐ必要はありません。
まずは手元の現預金を厚くしましょう。住宅ローンがあっても、新NISAを続けていても、いざというときの現金があれば、不安は最小限に抑えられます。
2.使う時期が決まっているお金があるか
教育費・住宅修繕・車の買い替えなど、10年以内あるいは使う時期がほぼ見えているお金は、値動きのある商品に寄せすぎないことが大切です。相場がよい時期には、投資だけでうまくいくと感じやすいものです。しかし、換金が必要なタイミングで相場が下がってしまうと、取り崩しをためらってしまうでしょう。
使い道と時期が決まっているお金は、あくまで「守るお金」として、投資とは切り離して管理しておきましょう。
■柔軟に繰り上げ返済する選択肢もある
3.住宅ローン金利と心理的な安心感
住宅ローンの借入金利が低ければ、急いで繰り上げ返済をしなくてよい、という考え方もあります。金融庁「NISA早わかりブック」によると、長期積立・分散投資を20年続けた場合、あくまでも過去のデータに基づくシミュレーションではありますが、年間の投資収益率は約2~8%程度と言われています。このように長期の投資リターンが、ローン金利を上回る可能性もあります。
ただ、お金の判断は数字の損得だけでは決まりません。借入残高が大きいと不安に思う方もいれば、手元の現金が減るほうが怖いという方もいます。利回りの比較だけでは、お金の不安は解消できないのです。
自分が何に不安を感じているのかを整理したうえで、総合的に判断することが大切です。
繰り上げ返済も「やる・やらない」の二択ではありません。手元資金を残しながら、ボーナスの一部を充てるといった選択肢もあります。家計の状況と気持ちの両方を踏まえて判断したいところです。
■正解はひとつではないが、順番はある
住宅ローンがあるから投資してはいけない、というわけではありません。逆に、新NISAを優先すれば安心というものでもありません。大切なのは、生活防衛資金をしっかり確保すること、使う時期が近いお金は分けておくこと、老後など長期のお金は投資で育てること。この3つの順番を意識するだけで、家計の見え方は変わってきます。
40代は、収入が安定して見える一方で、住宅費・教育費などの支出が重なりやすい時期でもあります。「返すお金」と「増やすお金」の順番を、いま一度整理してみましょう。
家計に合ったペースで、無理なく続けられる形を選ぶこと。それが、住宅ローンがあってもぶれない資産形成の土台になります。
正解はひとつではありませんが、順番には基本がある。その基本を大切に、一歩ずつ進んでいきましょう。

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上原 千華子(うえはら・ちかこ)

金融教育家

金融教育家。欧米投資銀行勤務歴17年、個人投資家歴26年。証券外務員一種、最新の心理学NLPを使ったマネークリニック®認定トレーナー。2018年、ウェルス・マインド・アプローチ創業。資産運用講座を実施し、2022年より「3ヶ月マネー実践講座」を提供開始。ライフプランから資産運用までマンツーマン指導。著書に『「お金の不安」をやわらげる科学的な方法 ファイナンシャル・セラピー』(日本能率協会マネジメントセンター)がある。

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(金融教育家 上原 千華子)
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