■ホルムズ海峡を突破した中国タンカー
封鎖中のはずのホルムズ海峡を、偽装された中国タンカーが通過している。
2月28日、アメリカ軍とイスラエル軍がイランを攻撃。4月7日に2週間の停戦が合意されたが、イランはすぐさまホルムズ海峡を封鎖。世界は原油危機に突入した。
これに対しアメリカは4月13日夕方、今度は自らイランに対し、同海峡を封鎖した。イランの物流を断ち、譲歩を迫る構えだ。アメリカが「逆封鎖」に動く可能性があるとの海外機関による分析を、本サイトでは実際の封鎖に先駆けてお伝えした。4月17日にはイラン側が全面開放を宣言したものの、翌日には撤回。現在も緊迫した状況が続いている。
さて、逆封鎖の発効からわずか20分後、一隻のタンカーが封鎖海域へ向けて動き出している。
米ブルームバーグは4月14日、中国所有のタンカー「MVリッチ・スターリー」号がUAE・シャルジャ沖の停泊地を離れたと報じた。
奇妙なことに、同船が掲げていたのはアフリカ大陸南東部に位置するマラウイの旗だ。海を持たないはずの内陸国の国旗を、なぜ船舶が掲げているのか。
■海峡封鎖初日にアメリカが犯した失態
無関係の旗を掲げた理由は、便宜置籍国を装った偽装工作だ。
イスラエル英字紙のエルサレム・ポストによると、自船の位置や針路などを知らせるAIS(船舶自動識別装置)も11日間にわたって偽の情報を発信していた。
積み荷は約25万バレルのメタノール。石油化学製品の一種で、イランの主力輸出品の一つだ。記録上はUAEで積み込んだことになっているが、実態はほぼイラン産だ。
同船は封鎖に阻まれ一度は引き返したが、未明、再びホルムズ海峡へ舳先を向けると、ついに封鎖を突破する。
海峡の封鎖にあたりアメリカが集結させたのは、2003年のイラク侵攻以来最大の海軍戦力だ。空母打撃群3群、艦艇21隻、航空機100機超、兵員1万人を投入したが、それでもMVリッチ・スターリー号は悠々と海峡を抜けた。
ペンタゴン(米戦争省。旧国防総省)はこの事実を認めておらず、「封鎖初日に海峡を通過した船はゼロ」と主張した。だが英BBCの検証部門であるBBCベリファイおよびエルサレム・ポストは、イラン関連船4隻と制裁対象船3隻の通過を独自に確認していると報じた。
■中国が割引価格で石油を買い集められるワケ
中国は制裁対象国の石油製品を密かに運ぶだけでなく、現在高騰中の原油価格でも漁夫の利を得ている。
以下の構図は、米下院の中国共産党に関する特別委員会が「Crude Intentions」と題した報告書で分析している内容を要約したものだ。タイトルは「原油の思惑」と「露骨な意図」がかかっている。
アメリカやその同盟国は、ロシア・イラン・ベネズエラに対し、タンカーや保険会社、銀行を標的に幾重もの制裁を科してきた。
こうして欧米企業が手を引いた結果、制裁下にある上記3国の原油は買い手を求めて中国に集中するようになった。
商品取引データを分析するケプラー社の2025年のデータを見れば、その集中ぶりは明らかだ。中国はロシア産を日量140万バレル、イラン産を85万バレル、ベネズエラ産を42万バレル輸入している。合計で260万バレルを超え、海上輸入の実に4分の1を制裁対象国からの原油で賄っている計算になる。
買い手が中国しかいなければ、中国が自然と価格決定の主導権を握る。
さらに2025年に入ると、中国は買い叩きの動きを強め、イラン産原油の購入価格を大幅に引き下げた。
国際原油価格の指標であるブレント原油との差額は当初1ドル(約157円。5月6日現在のレート、1ドル157.12円で換算、以下同)前後にすぎなかったが、最大10ドル(約1570円)にまで開いた。ベネズエラ産にいたっては最大21ドル(約3300円)安だ。
独裁政権を締め上げるはずの制裁によって、中国は圧倒的な価格決定権を手にした。
■石油備蓄を減らす日本、増やす中国
割安な価格で流れ込む原油を背景に、中国は国家的な「保険」を強化している。有事に備えるための、大規模な石油備蓄だ。同報告書によるとその量は、今年3月時点で約12億バレル。海上輸入のおよそ109日分に相当し、過去最高を更新した。
かつて石油の純輸出国だった中国は、工業化の加速で1993年に純輸入国へ転じた。いまや原油の約70%を海外に頼る。
中国指導部はエネルギーの安全保障を「大国間競争における喫緊の課題」と位置づけてきた。習近平国家主席はこの認識を加速し、「最悪のシナリオ」に備えよ、エネルギーの「飯碗(生命線)」を他国に委ねるなと号令を発した。
2004年に「石油封鎖に耐える」目的で着工された重層的な備蓄システムの拡充を、中国はいま加速させている。中国共産党に関する特別委員会が推計した原油在庫量は、2021年末の約9億7900万バレルから、現在では約12億バレルへと増加している。3月26日から段階的に石油備蓄を放出し始めた日本に対し、中国は備蓄を増やしている構図だ。
■イラン産原油を調達する中国の偽装工作
世界が喫緊に必要としている原油が、こうして割安な価格で中国へ流れ込んでいる。備蓄される12億バレルの原油は、制裁下でいかにして輸入されてきたのか。
中国は、海上に張り巡らされた精巧な偽装ネットワークを駆使し、制裁下のイラン産原油を大量に調達してきた。
中国の税関記録上、2022年以降イランからの原油輸入はゼロ。だが2025年、「マレーシア産」と申告された輸入量は日量130万バレルにのぼると、エルサレム・ポストは伝える。おかしなことに、マレーシアの原油生産量の2倍超を輸入していることになる。
この矛盾を引き起こしているのが、「影の船団」だ。
ホルムズ海峡をめぐる攻防によって、石油の流れと同時に、国際通貨の力学にも変動が生じ始めた。
覇権通貨であるドルの切り崩しを、中国は長年狙ってきた。ホルムズ海峡封鎖による石油危機の今、同国はその攻勢を強めている。
その象徴となるのが、イラン当局の決済手段の変更だ。石油輸送の要衝であるホルムズ海峡の通航料を、人民元建てで徴収し始めた。カタール国営衛星テレビ局のアルジャジーラが報じた。
海運専門紙ロイズ・リストによれば、3月25日の時点で少なくとも2隻が支払いを完了。中国商務省もSNSの投稿でこの動きを事実上認めている。
■ホルムズ海峡で存在感を増す「人民元」
石油取引を人民元で決済する「ペトロユアン(石油人民元)」について、イランの駐ジンバブエ大使館も4月初旬、「世界の石油市場に(人民元決済を)加える時が来た」とSNSで宣言した。
米ハーバード大学のケネス・ロゴフ教授(IMF元チーフエコノミスト)は、「イランはアメリカに一矢報いつつ、米制裁を回避するとともに、BRICS諸国の貿易を元建てに移行させている同盟国・中国を取り込もうとしている」と分析する。
イラン側としては、元建て取引を通じて制裁を迂回し、貿易コストの削減が可能だ。
習近平国家主席は2024年の幹部向け演説で、人民元が国際商取引の共通通貨となり「グローバルな準備通貨としての地位」を獲得するとの期待を語っていた。
ホルムズ海峡での人民元決済によって、中国はその構想を一歩、現実に近づけた。
■危機に乗じて荒稼ぎする「中国の太陽光パネル」
中国はイラン戦争を通じて、通貨面に加え、製品の輸出でも利を得た。世界がエネルギー危機に揺れるなか、過剰供給による不採算に喘いでいた中国の再生可能エネルギー産業は、空前の商機を迎えている。
中国は3月、発電容量にして68ギガワット(GW)相当の太陽光パネル、セル、ウエハーを輸出した。ひと月でスペイン全土の太陽光発電容量に匹敵する量を送り出した計算だ。英気候変動専門メディアのクライメート・ホーム・ニュースが、英独立系エネルギーシンクタンクのエンバーの分析として報じた。
68GW相当という輸出量は前月比で2倍超に当たり、従来の最高記録を49%上回った。増加分の4分の3をアジアとアフリカ向けが占めており、特にアジア向けは前月比2倍の39GW相当にまで伸びた。
急増の背景には、4月1日に輸出税還付が終了する前に駆け込み輸出しようとした中国メーカーの動き(これによりパネルコストが9%上昇)もあるが、そこへイラン戦争による石油エネルギー価格の高騰が拍車をかけた形だ。需要は世界規模で広がっており、3月に中国製太陽光パネルの輸入で過去最高を記録した国は、世界50カ国に及ぶ。さらに別の60カ国でも過去半年の最高水準を記録したと、クライメート・ホーム・ニュースは報じる。
エンバーのシニアアナリスト、ユアン・グラハム氏は輸出量を、「文字通り桁外れに巨大だ」と形容。同氏は、「大きな部分を占めているのはエネルギー危機への対応だ」と指摘した。戦争による不安を、中国が強かに商機に変えた構図だ。
■アメリカの同盟国が割を食っている現実
中国が危機を商機とするその一方、アメリカに由来する海峡封鎖に最も苦しんでいるのは誰か。アメリカがライバルと位置づける中国ではなく、同盟国であるはずの日本と韓国が割を食っている。
2月28日のアメリカ・イスラエルによるイラン攻撃に端を発し、イランとアメリカの双方がホルムズ海峡の封鎖で応じた。米下院の中国共産党に関する特別委員会の報告書によると、タンカー通航量は数日で約70%減少した。
保険各社が戦争リスクによる補償を打ち切ったことで、通航はさらに困難な状況となった。ブレント原油は、1バレル71ドル(約1万1000円)から一時は約120ドル(約1万9000円)に急騰したと報告書は指摘する。現在では約110ドル(約1万7000円)の水準で推移している。
国際エネルギー機関(IEA)は、世界消費の約4日分にあたる史上最大の4億バレルを緊急放出した。それでも足りない。日本と韓国は手元の燃料を「あと数週間分」と数える事態に追い込まれ、南アジアの一部では燃料の配給制が始まった。
■イラン攻撃発表15分前に起きた巨額取引
アジア各国が供給確保に奔走するなか、中国は潤沢な石油備蓄を擁するほか、産業基盤は国産エネルギーを中心に駆動しており、影響は軽微だ。
CNNは、中国の製造業が2026年第1四半期も堅調な成長を続けていると指摘。新車販売ではすでに半数以上をEV・ハイブリッド車が占めている。ロジウム・グループが2025年に発表した調査では、EVが普及しなかった場合のシナリオと比較して、石油需要は日量100万バレル超も縮小したと指摘されている。
このようにそもそも中国は、石油への依存自体を急速に減らしつつあった。コロンビア大学グローバルエネルギー政策センターのエリカ・ダウンズ上席研究員は、米CNNの取材で、中国が実際にエネルギーショックを乗り切っていることから、同国がエネルギー安全保障のために行ってきた取り組みの正当性がある意味で証明された、と評している。
皮肉にも、その「正当性」を自らの軍事行動で証明したのは、対立するアメリカであった。
さて、アメリカ内部でも、この戦争から利益を得た「誰か」の存在が報じられている。
トランプ大統領のイラン政策発表の直前に繰り返された、巨額の先物取引。偶然で片づけるには、あまりに正確なタイミングだった。
3月23日、トランプ大統領がSNS「Truth Social」でイラン攻撃延期を表明するわずか15分前に、原油・株式先物で数十億ドル規模の取引があった。4月7日の停戦発表前にも、同様の取引が繰り返されている。
■イラン戦争を金儲けの道具にしている
民主党のエリザベス・ウォーレン上院議員は、「この不審な石油取引は、インサイダーが市場を操作した悪質な事例だと思われる」と批判した。ホワイトハウスは、機密情報を利用した取引を禁じる内部メモを配布した。政権内部でも、イラン攻撃に乗じた疑惑が無視できなくなっている。
疑惑を受け、米商品先物取引委員会(CFTC)が本格調査に乗り出した。ブルームバーグによると、CMEグループとインターコンチネンタル取引所(ICE)の両取引所に対し、各取引の執行者を特定できる識別コード「Tag 50」のデータ提出を要請済みだ。巨額の注文を出した「誰か」の身元を突き止めようとしている。
米ビジネスニュース専門局のCNBCが独占入手したSEC(米証券取引委員会)・CFTC(米商品先物取引委員会)宛の書簡で、民主党のサム・リッカルド下院議員はさらに踏み込んだ。原油やS&P500先物に見られる「巧みなタイミングの大口取引」が、証券取引法、商品取引所法、STOCK法(政府関係者の非公開情報取引を禁じる法律)に違反する疑いがあるというのだ。
同議員は原油先物だけでなく、政治・経済的事象の結果に賭けるオンライン市場「予測市場」や関税発表前の株式オプションでも同様の動きがあると警告している。
アメリカとイスラエルが仕掛けた、イラン攻撃。原油高に世界が苛まれる一方、当のアメリカに住む何者かが巨万の富を得た形だ。
■“勝ち組”の中国も無傷ではない
もっとも、アメリカや中国がこの危機を無傷で乗り切ったわけではない。
アメリカでもガソリン価格が上昇し、トランプ政権への批判が殺到。制裁原油の備蓄と通航料の人民元決済で「漁夫の利」を得たはずの中国にも、同じく原油価格高騰の波が襲う。
石油の約70%を輸入に頼る中国。ジェット燃料の急騰で航空券の値上げや欠航が相次ぎ、輸送コストが上昇。世界的な商品価格の高騰により、工場出荷価格が押し上げていると米CNNは伝える。
当局はガソリン・軽油の価格統制に乗り出し、国有精製企業には商業用石油備蓄の放出まで認めた。
中国は通貨面でもなお、脆さを抱えている。アルジャジーラによれば、2025年のIMFの統計でドルは世界の外貨準備の57%を占める。人民元はわずか2%にすぎず、「石油人民元」の拡大を狙うとはいえ、現状では桁が違う。
貿易決済でも同様だ。S&Pグローバルの集計では、国際貿易決済に占める人民元の比率は2024年時点で3.7%。2012年の1%未満からは伸びたが、基軸通貨との差は歴然だ。
フランスの大手投資銀行ナティクシスのアジア太平洋地域チーフエコノミストであるアリシア・ガルシア=エレーロ氏は、アルジャジーラの取材に応じ、エネルギー取引での人民元の使用は、「世界の脱ドル化を実現するものとは言い切れない」と指摘する。ドル体制の本丸はびくともしていない、という見立てだ。
ただし、こうした弱みがあるからといって、中国の優位性を全くもって無視できるわけではない。ドルの覇権には届かずとも、中国が人民元の足場をじわりと広げ続けるシナリオも予想される。
■なぜトランプの戦争で日本が苦しむのか
中国は今年に入り、グリーン技術の輸出を軒並み急増させた。
CNNは中国政府の公式データを基に、第1四半期のEV輸出は前年同期比78%増だと報道。リチウム電池は同50%増、風力タービン関連も同45%増だという。ホルムズ海峡封鎖による混乱も追い風として、グリーンエネルギーで攻勢をかける。
当然、石油不足の代替エネルギーとなっていることを考慮すれば、輸出攻勢は何ら非難されるべきものではない。石油に代わる再生可能エネルギーの活用は、時代の流れに沿ったものでもある。
ただし、国際制裁をかいくぐるようにして行われる割引価格での原油輸入は、決して褒められたものではない。
情勢全体を見渡せば、アメリカが始めた戦争は、対立する大国である中国に想定外の利益を与えた。一方で苦しんでいるのは、日本や韓国などアメリカの同盟国だ。
アメリカのトランプ大統領は「力の誇示」を掲げたが、結果として敵対する中国を太らせ、味方の同盟国を最も深く傷つけ、自国内にも正体不明の受益者を生みつつある。
2026年の春に始まった世界的混乱に、まだ幕引きは見えない。
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青葉 やまと(あおば・やまと)
フリーライター・翻訳者
1982年生まれ。関西学院大学を卒業後、都内IT企業でエンジニアとして活動。6年間の業界経験ののち、2010年から文筆業に転身。技術知識を生かした技術翻訳ほか、IT・国際情勢などニュース記事の執筆を手がける。ウェブサイト『ニューズウィーク日本版』などで執筆中。
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(フリーライター・翻訳者 青葉 やまと)

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