13日開かれた、厚生労働大臣の諮問機関の会議=中医協(中央社会保険医療協議会)。そこで、iPS細胞を使った再生医療製品に公的な医療保険が適用されることが了承されました。
世界初となるiPS細胞を使った医療製品の実用化は、再生医療にどんな未来をもたらすのか?医療ジャーナリストの村上和巳さんへの取材を交えて解説します。
iPS細胞 誕生から20年の時を経て世界初の実用化
iPS細胞は、筋肉や神経などあらゆる細胞に変化することができるいわゆる「万能細胞」です。京都大学の山中伸弥教授が2012年、ノーベル生理学・医学賞を受賞したことでもよく知られています。
山中教授がマウスでiPS細胞の作製に成功したのは、2006年。今回20年の時を経て、世界で初めての実用化にこぎつけました。
保険適用となるパーキンソン病治療薬「アムシェプリ」とは?
今回、中医協の場で保険適用が了承されたのは、 パーキンソン病治療薬 「アムシェプリ」。
パーキンソン病は、脳のドーパミンを作る神経細胞が減ることで運動能力などが低下する病気で、手足などのふるえ、動作が遅く・少なくなるなどの症状がみられます。厚労省によると、患者数は国内で約25万人いるとされています。
これまでも不足したドーパミンを薬で補う治療が行われてきましたが、長期服用で効果が薄れることがわかっていて、課題となっていました。
ドーパミンを生み出すもととなる細胞をiPS細胞から作製
これに対し、アムシェプリは、ドーパミンを生み出すもととなる細胞をiPS細胞から作製し、患者の脳に注射して移植することで、ドーパミン量を増やすというものです。
「有効であれば運動症状が改善できる可能性」
新たな治療法について、村上さんは医療界での受け止め方について、「これまでiPS細胞は、色々な基礎研究レベルでは語られてきましたが、ようやく実用化されるということで期待は高まっていると思います」と説明しました。
そのうえで、これまでの治療で使っていた薬剤にプラスして使っていくことで、「(患者にとって)有効であれば運動症状が改善できる可能性がある」と話しました。
薬価は『約5500万円』背景には再生医療製品特有の事情が…
気になる薬価は、1人あたり約5500万円。
多くの方がびっくりするような金額かもしれませんが、この金額になる背景には、再生医療製品特有の事情があります。
アムシェプリは普段、私たちが使っているような化学物質で作った飲み薬などと違い、生きた細胞を使います。このため、少し温度が変わっただけで品質が変わってしまうという問題があります。
(村上さん)「そのためのきちんとした設備をお金をかけて作らなければならない、そしてそれを扱える専門人材を作らなければならないというところで、どうしてもコストが高くなってしまうというところが一つあります」
「あともう一つは、患者数が少ないので、あまり安い価格にしてしまうと製薬企業が採算性の問題から、供給を継続することが難しくなるということもあります」
ただ、保険適用により高額療養費制度を使うことができるため、実際の負担額は異なります。
例えば70歳以上で年収370万円未満の方は、月2万2,000円で使うことができます。もちろん年収が高いほど、費用負担は多くなりますが、制度には年収のほか、回数による負担軽減や年間上限もあります。
パーキンソン病であれば誰でもというわけでは…投与される患者の要件は?
では実際に対象となるのはどのような患者なのでしょうか。パーキンソン病患者であれば全員使えるということではありません。
対象となるのは、
▼罹患期間5年以上、
▼既存の薬物療法で効果が十分でない―などの条件を満たした患者です。
アムシェプリを製造・販売する住友ファーマでは、2026年~29年の移植患者は35例に限り、その後順次拡大させたい考えです。住友ファーマは「年内には1例目の処方を目指したい」としています。
厚労省の資料によりますと、ピーク時であっても年間投与患者数は133人と予測。
これについて村上さんは、「全く新しい製品なので、当然ながらできる施設も限られますし、医師も慎重に対象を判断すると思うので、当面はこれより少ないと思います」と指摘しました。
背景にはアムシェプリがたどる“承認”の道すじが…"仮免許”
背景にはアムシェプリがたどる“承認”の道すじがあります。
実はアムシェプリが得た承認は、従来の薬剤の承認制度とは異なる「条件及び期限付き承認制度」。再生医療製品の早期実用化のため2014年に導入された新たな承認制度で、いわば仮免許のようなものです。
従来では、
【臨床研究 ⇒ 治験(有効性・安全性の確認) ⇒ 承認 ⇒ 市販】
という流れをたどるものの…
アムシェプリは、
【臨床研究 ⇒ 治験 ⇒ 条件・期限付き承認(仮免許) ⇒ 市販 ⇒ 本承認 ⇒ 市販】
という道すじをたどります。
仮免許機関は7年となります。
“仮免許”→本承認 過去の事例はゼロ
これまでにも仮免許を得た製品はありましたが、 その後の「本承認」となった製品は1つもありません。
村上さんも「本承認に至るまで有効性を示すというのは非常に難しい部分がある」と指摘します。
(村上さん)「普通は患者さんの個人差や病状の差を埋めるために、ある程度多くの患者さんを組み込んで臨床試験をするのが一般的なのですが、この製品に関しては大体35例で本承認の結果を出すように厚労省と取り決めがされています。このうち例えば4、5人が効果が悪くなったら、有効性の高い人がいたとしても、平均をするとそれほど有効性は高くないといった結果になり得る可能性があります」
とにかく一筋縄ではいかない?
しかも投与できる患者要件には、「既存の治療で症状のコントロールが十分に得られない人」というものがあります。村上さんは、こうした要件も結果を出す際の高いハードルになると予想しています。
(村上さん)「とにかく一筋縄ではいかないと思います。 治療では、効く人、効きやすい人、効きにくい人というのが当然出てくる。効きやすい人を35例選ぶ、それで結果を出していくという作業になるので、これから手探りで臨床試験を進めていかなければならない」
保険適用を了承した中医協でも、出席した委員からは、製品の有効性や安全性について、しっかりフォローアップを行うほか、患者に対して丁寧に説明するよう求める意見が相次ぎました。
誕生から20年 日本発・関西発のiPS細胞 希望の光となるか
山中教授がマウスでiPS細胞の作製に成功してから20年。
時を経たいま、iPS細胞を活用した新たな治療法の開発は、糖尿病や心疾患などさまざまな疾患で進んでいます。
患者にとって希望の光となるのか。日本発、関西発の技術への注目が集まっています。

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