■ショーケースの子犬・子猫に「NO」
「あの窓越しの子犬はいくらですか?(How Much Is That Doggie in the Window?)」
「私はあの犬を買いたいです(I do hope doggie‘s for sale)」
1953年にアメリカの歌手パティ・ペイジが歌い大ヒットした曲『ワン・ワン・ワルツ』は、ペットショップのショーケースに並ぶ愛らしい子犬に心を奪われる心情を描いたものでした。
かつては微笑ましい光景として受け止められていたこの歌詞も、現代では少し違って聞こえるかもしれません。ショーケースの子犬が、どのような環境で生まれ、どのような流通を経てそこにいるのか、私たちは以前より知るようになったからです。
現在、アメリカではこの「窓越しの子犬」という販売形態そのものを「NO」とする、法的な動きが急速に広がっています。複数の州で、犬・猫・ウサギのペットショップでの生体販売が禁止されたのです。欧州では国単位で変革が進んでいます。
一方、日本のペットショップやホームセンターには、依然としてガラス張りのショーケースがずらりと並び、生後間もない子犬や子猫が展示販売されています。
■カリフォルニア州に続きニューヨーク州も
2024年12月、ニューヨーク州で「パピーミル・パイプライン法(Puppy Mill Pipeline Law)」が施行されました。これにより、犬・猫・ウサギのペットショップでの生体販売が禁止されることになりました。これは、カリフォルニア州(2019年)、メリーランド州(2020年)、イリノイ州(2021年)に続く動きで、米国内で着実に広がっている潮流です。
さらに2025年11月には、世界的な観光都市であるラスベガス(ネバダ州)でも、同様の条例が可決されました。動物福祉の観点から「生体販売ビジネス」への厳しい見直しが進んでいるのです。
都市単位での規制強化が相次ぐ事実は、この流れが一過性のものではなく、世界的なコンセンサスとして確立されつつあることを物語っています。
■食品のように陳列販売されるべきではない
欧州の一部の国々では、国単位でさらに踏み込んだ規制が進んでいます。「動物はモノのように陳列販売されるべきではない」という倫理観が、すでに法的基準として定着しつつあります。
イギリスでは2020年に「ルーシー法(Lucy’s Law)」が施行され、生後6カ月未満の子犬・子猫を認定されたブリーダー以外の第三者業者(ペットショップや仲介業者、インターネットを使った販売業者)が販売することを禁止しました。
また、フランスでは2024年に「動物の虐待防止および動物と人間の絆を強化することを目的とした法律(LOI visant à lutter contre la maltraitance animale et conforter le lien entre les animaux et les hommes)」が施行されました。この法には犬・猫の店頭販売禁止のほか、動物の遺棄や虐待への罰則強化などが定められています。
■「子犬工場」への資金供給を断つ
なぜ、各国は販売そのものを禁止するに至ったのでしょうか。その最大の目的は、悪質な繁殖施設、いわゆる「パピーミル(子犬工場)」を根絶することにあります。
利益を最優先し、犬や猫を狭く不衛生なケージに閉じ込め、休みなく繁殖を強いるケースが後を絶ちません。生まれた子犬たちは、健康管理も社会化(親兄弟と過ごし、動物としてのルールを学ぶ期間)も不十分なまま出荷され、仲介業者を通じてペットショップの狭いショーケースに並ぶことになります。
各国の規制の論理は共通しています。「生体を仕入れて売るというペットショップのビジネスモデルが存在する限り、その供給元であるパピーミルはなくならない。そうであるなら、出口であるペットショップでの販売を封じることで、悪質な繁殖業者への資金供給(パイプライン)を断ち切る」というのが、法案の核心です。
生体販売禁止は、ペットショップの廃業を求めるものではありません。フードや用品の販売はこれまでどおり継続できます。重要ポイントは、展示スペースを保護団体のための譲渡会場として提供することが推奨されている点です。きちんとした話し合いのもとで保護犬・保護猫の譲渡先を決めるため、衝動的に飼うことや虐待・遺棄を減らすことができます。
つまり、「命を衝動的に買う場所」から「責任ある家族との出会いの場」へとビジネスの構造を強制的に転換させることで、不幸な動物を減らし、保護犬・保護猫の譲渡率を上げるという二重の改善を狙っています。
■「禁止」より「数値規制」を選んだ日本
一方、日本の現状はどうでしょうか。日本でも動物愛護への関心は年々高まりを見せており、法整備も進んでいます。特に重要なのが、2019年に改正され、順次施行された動物愛護管理法の改正と、それに伴う省令の「数値規制」です。
2021年6月から段階的に施行された環境省令(飼養管理基準の具体化)により、ブリーダーやペットショップに対して、ケージのサイズ、従業員一人当たりの飼育頭数、繁殖制限、運動機会の確保などの具体的な数値基準が設けられました。
これまで「適切に管理すること」といった曖昧な表現だった部分に明確な数値が導入されたことは、日本の動物福祉において間違いなく大きな前進です。
しかしながら、制度は作っただけでは機能せず、監視や指導が必要ですが、自治体の担当職員数は限られているため、登録件数に対して立ち入り検査の頻度が十分でない地域もあります。
そして、繁殖回数や頭数管理を帳簿や自己申告に依存せざるを得ない面があり、虚偽記載や記録不備があっても発見しづらいという問題があります。チェックが行き届かなければ悪徳業者の是正にはつながりません。
■ペットビジネスは合法のまま続いている
また、環境省は省令そのものに加えて「動物取扱業における犬猫の飼養管理基準の解釈と運用指針~守るべき基準のポイント~」という文書をだしています。
そこに「やむを得ない場合」などの文言が入ることで、自治体担当者の裁量が広くなり、同じような飼育環境でも「問題なし」「要改善」「許可取り消し相当」と判断が分かれます。このため「悪徳業者をどこまで排除できるか」は地域差が大きく、一掃には至っていないのが実情です。
そして、冷静に立ち止まって考える必要があります。前述した日本のアプローチは、欧米の「販売禁止」とは決定的に異なるという点です。欧米がシステムそのものを否定(=禁止)したのに対し、日本はシステムを維持したまま環境を良くしよう(=管理)としているのです。数値規制をクリアしてさえいれば、大量生産・大量流通、生体の展示販売など、日本のペットビジネスの構造自体は合法のまま続きます。
数値規制により「ケージが数センチ広くなった」「従業員が増えた」ことは動物にとって良いことですが、それは「ショーケースに並べられる」というストレスや、「売れ残った動物はどうなるのか」という在庫リスクの問題を根本的に解決するものではありません。
■「責任あるブリーダー」になるための条件
米国の動物福祉団体や専門家の多くは、責任あるブリーダーの条件として「ペットオークションやペットショップに子犬や子猫を卸さない」ことを挙げています。その理由は明確で、どんな家庭に行くのか分からない流通経路では、命を託すうえでの確認とケアができないからです。
日本においても、血統の保存や健全な育成を願う責任あるブリーダーは、「飼育環境は適切か」「家族全員が飼育に同意しているか」「その犬種・猫種の特性を理解し、最期まで飼える経済力と体力があるか」など対面で飼い主に確認し、双方が納得して初めて譲渡します。そして、譲渡後も生涯にわたってアドバイスを行い、万が一飼えなくなった場合は犬や猫を引き取る覚悟を持っています。
それは「命を商品として大量に回す仕組みから距離を置き、数と利益より、一頭一頭の健康や性格、飼い主との相性を重視する」という価値観をはっきり示したものです。
■「ペット=店で買うもの」とは限らない
法律の違いはあるものの、私たち日本の飼い主が米国の事例から学ぶべきことは明確です。それは、「どこから迎えるか」という選択が、動物たちの未来を決定づける大きな意思表示になるということです。
・衝動買いの連鎖を断つ
ふらりと立ち寄ったペットショップで目が合い、「運命を感じた」として子犬・子猫を連れ帰る。一見ロマンチックですが、この衝動的な行動が大量生産・大量消費のビジネスモデルを助長しています。迎える前には飼育に必要な知識を習得し、生涯責任を持って飼育できるのかを熟考するプロセスが必要です。
・入手ルートを見直す
「子犬や子猫はペットショップで買うもの」という前提を、一度立ち止まって考えてみる時期に来ているのかもしれません。
特定の犬種・猫種を希望する場合は、インターネットなどで見学可能なブリーダーを探し、コンタクトを取る方法があります。子犬や子猫だけでなく親犬・親猫の見学をしたり、飼育環境を確認したり、いろいろな質問をすることは、リスクを減らす上でも極めて重要です。また、定期的に開催されているドッグショーやキャットショーに出向いて、ブリーダーに直接コンタクトを取ることもできます。
■子犬や子猫は「商品」ではなく「命」
・法規制の「その先」を見る
日本の数値規制は、最低限のラインに過ぎません。「法律を守っているから安心」ではなく、「動物福祉=アニマルウェルフェア(感受性を持つ家畜やペットを誕生から死に至るまで、ストレスを最小限に抑え、快適で健康的な環境で飼育するという考え方)を遵守しているか?」という厳しい視点で業者を評価する目を持つ必要があります。
「How Much Is That Doggie in the Window?」
この歌が作られた時代と異なり、現代の私たちはその窓の向こう側に広がる現実を知っています。ニューヨーク州などが選んだ「禁止」の道は、動物を商品として扱うことへの明確なアンチテーゼです。
日本がすぐに同様の法整備に至るかどうかはわかりません。しかし、私たち一人ひとりが「ショーケースの生体販売」への違和感を育てることはできます。
だからこそ、どこから迎えるのか、その背景まで含めて考える視点が、これまで以上に求められています。
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阪根 美果(さかね・みか)
ペットジャーナリスト
世界最大の猫種である「メインクーン」のトップブリーダーでもあり、犬・猫などに関する幅広い知識を持つ。家庭動物管理士・ペット災害危機管理士・動物介護士・動物介護ホーム施設責任者。犬・猫の保護活動にも携わる。ペット専門サイト「ペトハピ」で「ペットの終活」をいち早く紹介。テレビやラジオのコメンテーターとしても活躍している。
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(ペットジャーナリスト 阪根 美果)

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