職場に一人はいる、やたらと理屈っぽい新入社員。何を頼んでも「なぜやるんですか」「それ、意味ありますか」と問い返してくる姿に、上司は思わず頭を抱える。
生意気と片づけるのは簡単ですが、その”うるさい一言”が組織の常識をひっくり返すことだってあるようです。
 今回取材に応じてくれたのは、中堅の精密機器製造メーカーに勤める伊藤さん(仮名・42歳)。彼が昨年経験した、ある新入社員をめぐる驚きのエピソードを明かしてくれた。

「それ、意味ありますか?」が口癖の新入社員

 伊藤さんが「今年の新人は少し変わっているな」と感じたのは、配属初日のことだったといいます。

「意味ありますか?」を繰り返す“扱いづらい新入社員”の末路。...の画像はこちら >>
 営業部に新卒で入ってきたその社員は、第一印象こそ礼儀正しく、受け答えもはっきりしていたそうです。ところが、いざ業務を指示しはじめると、様子が変わりました。何か仕事を頼むたびに、必ずこう問い返してきたのです。

「それ、意味ありますか?」

 最初は「生意気だな」と感じ、正直腹も立ったと伊藤さんは振り返ります。

「慣例でやっている作業を頼むと、必ず『なぜやるんですか』って聞いてくる。新人のくせに、って思いましたよ。でも無視するわけにもいかないから、最初は『そういうもんだから』って返していたんです」

 しばらくすると、その”口癖”は社内でも話題になりはじめたといいます。「あの新人、また文句言ったらしいよ」「使いづらいよな」といった声もちらほら聞こえてきたそうです。上司としても、早急に指導しなければならないかと頭を悩ませていた時期があったとのことです。


「なぜやるのか」を答えられなかった自分

 転機が訪れたのは、配属から2カ月ほど経ったある日のことでした。

 その新入社員が、またいつものように「これ、何のためにやるんですか」と問いかけてきたといいます。伊藤さんはいつも通り返答しようとして、自分がまともな答えを持っていないということに気づいたそうです。

「“なぜやるのか”を聞かれて、“ずっとそうだから”以上のことを説明できなかったんです。その瞬間、ハッと我に返ったんです。これって、改善の余地があるってことじゃないかと思いはじめました」

 伊藤さんはその日から視点を変え、問い返してくる新入社員を問題児ではなく鏡として見るようにしたといいます。生意気に映っていた言動が、実は組織の盲点をついていたのかもしれないと感じはじめたのです。

 そこで伊藤さんは思い切った行動に出ました。その新入社員を巻き込んで、部署全体の業務を棚卸しするプロジェクトを立ち上げたのです。

「彼に『じゃあ一緒に考えよう』って声をかけたんです。そしたら目を輝かせて……。あのときの顔は今でも覚えています」

20年続いた報告書が”誰にも読まれていない”という衝撃

 業務の棚卸しをはじめてみると、次々と驚くべき事実が浮かび上がってきたといいます。

 なかでも最も衝撃的だったのが、毎週月曜日に全員が1時間かけて作成していた週次報告書の存在でした。20年近く続けてきたその慣例は、誰もが“当然やるもの”と信じて疑わなかったものの、実際に確認してみると、関係者の誰にも読まれていないことが判明したのです。


「廃止しても誰も困りませんでした。それどころか、毎週1時間の作業がごっそりなくなって、チーム全体で喜んでいました。こんなことが本当にあるんだなって、私自身も驚きましたよ」

 このエピソードはたちまち社内に広まり、「あの新入社員がまた何かやった」と他部署にも噂が届きはじめたそうです。やがてその評判は、上層部の耳にも入るようになっていったといいます。

異例のスピード昇格が示したもの

 噂を聞きつけた直属の本部長が動いたのは、それから間もなくのことでした。伊藤さんのもとに「営業部の業務を一度、彼も交えて検証してみてくれ」という提案が届いたのです。

 改めて行われた業務検証の場で、その新入社員は複数の業務について具体的なアイデアや代替案を次々と提示したといいます。現場を熟知しているわけでもない新人が示した提案は、どれも的外れではなく、むしろ現場の人間が見て見ぬふりをしてきた問題に、真正面から切り込むものばかりだったそうです。

「改めて彼の発想の切り口に驚かされました。経験がないからこそ、余計なしがらみなく物事を見られるんでしょうね。これが強みなんだって、そのとき確信しました」

 それから約1年後、その新入社員は異例のスピードでエリアマネージャーへと昇格しました。通常であれば最低でも5年のキャリアが必要とされるそのポストへの就任は、社内でも前代未聞の出来事だったとのことです。


 その後、担当エリアの業績は着実に伸び始めているといいます。「ウチの会社を変えたのは、あの新入社員かもしれないです」と、伊藤さんは苦笑交じりに語ってくれました。

<TEXT/八木正規>

【八木正規】
愛犬と暮らすアラサー派遣社員兼業ライターです。趣味は絵を描くことと、愛犬と行く温泉旅行。将来の夢はペットホテル経営
編集部おすすめ