プロ野球・読売巨人軍は26日、阿部慎之助氏の辞任に伴い、今シーズンは橋上秀樹氏を監督代行とすることを発表した。ジャーナリストの春川正明さんは「阿部慎之助を助ける、そして不祥事からジャイアンツを救うという点で、次期監督に最もふさわしい大物OBがいる」という――。

■辞任会見で読み上げられた長女のコメント
「伝統ある巨人軍の監督の名を汚してしまい、とても深く、謝罪したい気持ちでいっぱいです」
読売ジャイアンツの阿部慎之助監督(47)は、5月25日に自宅内で長女(18)に暴行した疑いで逮捕された。すぐに釈放されたが、翌日には記者会見を開き辞任を表明した。シーズン途中での監督の退任は球団史上初めてだ。
球団の発表によると、阿部前監督は、都内の自宅で姉妹がけんかを始めたため、それを止めようとした際に長女から言い返されたことに腹を立てて、長女の襟元をつかみ、投げ飛ばして倒すなどの暴行を加えたという。長女にけがはなかった。
かつて読売ジャイアンツの球団で働いていた筆者にも、知り合いなどから何件か連絡が入った。SNSで流れている憶測に基づくと思われる酷い暴行の内容を前提としての話も流れていたが、辞任会見では以下の長女のコメントが代読され事実関係が訂正された。
「暴力に関しましては、殴る蹴るなどといった事実はございませんでした。報道では殴られたなどとありますが、私の過度な状況説明によって報道内容が事実と異なってしまったことについては明確にお伝えさせていただければと思っております。
 父とのこのような大がかりなけんかは初めてのことであり、チャットGPTに相談した結果、匿名で相談できる児童相談所というものがありますよというような形の説明書きがなされ、お電話をさせていただきました。
(中略)
私のことを心配してくださる方もたくさんいらっしゃるとは思いますが、この点につきましては大丈夫ですので、ご心配のほどありがとうございます。このような大ごとに発展してしまったこと、私が言うのもなんですが、非常に恥ずかしく思っています。」
■では次期監督は誰なのか
衝撃的な出来事が突然起きたわけだが、球団と親会社である読売新聞の不祥事対応は流石だったと思う。
多くのファンに支えられている人気商売であるため、辞任は避けられないと判断したのだろう。辞任の発表は早く、そしてうまかった。
辞任会見を逮捕の翌日午前中に開いたことで、12時のニュースに間に合うだけでなく、民放各局のワイドショーや新聞の夕刊でも報じられるようにした。さらに長女の手紙を読み上げることで、SNSでの間違った情報を訂正すると共に、家族内では解決済みだということを世の中にアピールできた。
球団の山口寿一オーナーは、元々は読売新聞の司法担当の記者で球界の暴力団対策で名をあげた危機管理のプロである。更に球団の法務担当も代々、新聞社の司法担当記者の経験者が務めるなど、危機管理には力を入れてきた。
阿部監督の辞任を受けて今シーズンは橋上秀樹オフェンスチーフコーチが監督代行を務めるが、ジャイアンツでのプレー経験が無い監督は球団史上初で非常事態だ。
川上哲治、長嶋茂雄、藤田元司、王貞治、原辰徳、堀内恒夫、高橋由伸、そして阿部慎之助。
日本で最も歴史が長い伝統球団であるジャイアンツの監督は、生え抜きの四番打者もしくはエースが代々務めてきた。では、次の監督は誰なのか。筆者の予想では、ズバリ松井秀喜さんだと思う。
■長嶋さんとの生前の約束
「たいへんありがたいお話ですが、私は可愛い2人の後輩の邪魔はしたくないのです」
かつて、松井秀喜さんが「将来、ジャイアンツの監督にならないのですか?」と問われた時、こう答えたという話を聞いた。
可愛い2人の後輩とは、かつてジャイアンツの監督を務めた高橋由伸と阿部慎之助だという。
「2人はいずれジャイアンツの監督になる時があるでしょうから、そのタイミングを私が邪魔をしたくないのです」
2024年春に阿部慎之助監督が誕生した際に宮崎キャンプに取材に行った。その場には阿部監督誕生に合わせて6年ぶりに臨時コーチとしてアメリカからやって来た松井秀喜さんの姿もあった。また、今年の春に宮崎キャンプを取材した際には、侍ジャパンの指導で来ていた松井秀喜さんにジャイアンツの監督をやらないのかと聞いてみたが、いつものニコニコした笑顔で否定も肯定もしなかった。
松井秀喜さんにとって最も絆が深かったのは長嶋茂雄さんだ。長嶋さんが昨年亡くなった際に、アメリカから駆け付けた松井秀喜さんは「長嶋さんと生前に約束したこともあります」という話をした。「約束」の中身については明らかにしていないが、将来、ジャイアンツの監督になることではないかという声が当時も多く聞かれた。
■可愛がっている阿部慎之助を助けるため
中日スポーツ(2025年8月30日配信)によると、長嶋さんが亡くなった後の高橋由伸さんとのトークショーで松井秀喜さんはこう語っている。
「僕自身、ジャイアンツというのは常に心の中にあります。それは信じてください、みなさん。ジャイアンツは今でも大好きです。気になります。
ジャイアンツとどう関わってくるか、将来のことは分かりません。ただ、ジャイアンツをよくしたいという気持ちは自分自身持っています」
これを受けて、「もしも松井監督が誕生して力を貸して欲しいと言われたら」と質問された高橋由伸さんはこう語った。
「そうなれば、何でも出来ることをお手伝いさせていただこうと思います。そうなった時は僕は松井さんを応援すると思います」
三井不動産や読売新聞グループ本社などは、2032年度までに東京の築地市場の跡地に約5万人を収容する屋根付きの新スタジアムを建設するという計画を発表している。その新スタジアムのオープニングに合わせて、松井監督が誕生するのではという期待交じりのファンの声もあるが、今回の阿部監督の突然の退任で、そのタイミングが早まる可能性が出てきたのではないかと感じる。
来シーズンからの次期監督を巡っては既に何人かの大物OBらの名前が挙がっているが、可愛がっている阿部慎之助を助けるために、不祥事からジャイアンツを救うために、松井秀喜さんが決断するのではないか。
■決めるのはオーナー
プロ野球の場合、監督の最終人事権は通常は球団オーナーにある。球団社長やGM(ゼネラル・マネージャー)らが次期監督候補を選んでオーナーの最終判断を仰ぐという場合が多いが、オーナー自らが人選したり、下から上がって来た人選をオーナーが変更したりという場合もあるのだ。
日本のプロ野球の場合はメジャーリーグと違って、監督の条件の一つとして、監督が観客を呼べる人気があるかどうかも重視される。
ちなみにメジャーリーグでは監督選びに観客動員力は求められておらず、サンフランシスコ・ジャイアンツの新監督は、なんとプロ経験の無い大学野球の監督が選ばれた。メジャーリーグ史上初めてのことだ。
■巨人以外のユニフォームを着るつもりはない
筆者が読売ジャイアンツの球団幹部と会いジャイアンツに誘われた際に、最初に聞かれた質問はこうだった。

「原監督の次の監督は誰がいいと思いますか?」

「松井秀喜しか居ないのではないですか」
なぜそう考えるかという理由も含めて、自らの思いを正直に伝えた。そして筆者はジャイアンツ球団で働くことになった。
松井秀喜監督が実現するかは、正直分からない。ましてや、その時期を予想することは難しい。ただ、監督就任のための時期も含めた環境作りは着々と進んでいるように感じる。ある時、松井秀喜さんがポロッと言った言葉が頭から離れない。
「実はこれまでもジャイアンツ以外の球団から監督のオファーをいただいたこともありましたが、お断りしました。生涯、ジャイアンツ以外のユニフォームを着るつもりはありません」

----------

春川 正明(はるかわ・まさあき)

ジャーナリスト・関西大学客員教授

関西大学野球部で外野手として関西学生野球6大学リーグ戦で活躍。大阪生まれ、1985年読売テレビ入社。報道局撮影編集部を経て、「ベルリンの壁崩壊」取材をきっかけに報道記者に。神戸支局長、司法キャップ、大阪府警キャップを歴任し「甲山事件」「西成暴動」など数々の事件、事故、裁判などを取材。阪神大震災発生時の泊りデスク。
1997~2001年NNNロサンゼルス支局長。「ペルーの日本大使公邸人質事件」「スペースシャトル打ち上げ」「イチローのメジャーキャンプ」「コロンバイン高校銃乱射事件」「ガラパゴス諸島タンカー油漏れ事故」「ハワイ潜水艦とえひめ丸衝突事故」などを取材。帰国後はチーフプロデューサー、報道部長、執行役員待遇解説委員長を歴任。2007~19年「情報ライブ ミヤネ屋」でニュース解説としてレギュラー出演。米大統領選挙(4回)、米同時多発テロ、米朝首脳会談、東日本大震災など国内外で現場取材。読売巨人軍・編成本部次長兼国際部長を経て2022月からフリーで活動。ジャーナリストとしてテレビ・ラジオ出演、執筆、講演など幅広く活動。関西大学客員教授。現在の出演番組はRSK山陽放送テレビ「イブニングニュース」、東京MXテレビ「堀潤Live Junction」、RSK山陽放送ラジオ「春川正明の朝から真剣勝負」、「春川正明のニュース直球解説」など。「LINEジャーナリズム賞 24年5月~7月期」受賞。著書『「ミヤネ屋」の秘密 ~大阪発の報道番組が全国人気になった理由~』(講談社+α新書)趣味はメジャーリーグ観戦と宝塚歌劇鑑賞。

----------

(ジャーナリスト・関西大学客員教授 春川 正明)
編集部おすすめ