※本稿は、堀江貴文『バカ親につけるクスリ これ以上ニッポンをダメにしないための教育意識改革大全』(主婦の友社)の一部を再編集したものです。
■「人に迷惑をかけること」は何も悪いことではない
オルタナティブスクールのような「従来の学校」とは違う教育現場に期待したいのは、子どもたちの学力のほかに、行動力とコミュニケーション力を伸ばすことだ。これらの力を磨いておくと、自分の手に負えない危機のときには、人に頼れるようになる。
実はこの「人に頼れる力」こそ、今後ますます重要になってくると思うのだが、日本の義務教育はまったく正反対のことを教えてきた。「人に迷惑をかけるな」「人に頼るのは情けないことだ」「とにかく自分の力でなんとかしろ」。今もそうだろう。
だからこそ、子どもが電車内で泣き出せばその親が周囲の乗客から睨まれたり、保育園児が運動場で元気に遊んでいるだけで近隣住民が苦情を言い出したりする。日本で少子化が加速するのも当然だ。
■他人に迷惑をかけない人に社会貢献などできない
従来の学校は、「常識」を植えつけ「従順な働き手」を育てていく中で、異質な存在を排除し皆に「均質であれ」と強要してきた。だからこそ、「人に迷惑をかけるな」と教え、迷惑をかける人を毛嫌いする。
だが人は、子どもも大人も高齢者も、誰にも迷惑をかけずに一生を生きることなんてできない。
人に頼り、迷惑をかけてもいい。いや、もっと言えば、人に頼り、迷惑をかけたほうがいいのだ。そして自分も、誰かに頼られ、迷惑をかけられる。
人間社会は、こうした持ちつ持たれつで成り立っているのだ。そのことを自覚し、受容しなければ、充実した人生など送りようがないし、自分が生きる社会の発展に貢献することもできない。
■学校は「社会性を身につけるため」の場所ではない
従来の学校とは違う教育現場には、従来の学校とは違うロジックと理念がある。だからこそ、従来の学校ではついぞ子どもたちに授けることのなかった、人に頼れる力、その基礎である行動力とコミュニケーション力を、伸ばすこともできるはずだ。
学校は「世の中で必要な知識を学ぶため」にあるわけではないし、「友だちと交流して社会性を身につけるため」にあるわけでもない。
学校以外の場所にも、いくらだって人付き合いの機会はある。同じ地域に住み、同じ年齢というだけで学校というひとつの箱に押し込められ、「みんなで仲良くしよう」という公立校の仕組みのほうが、そもそも不自然だ。
■同世代としかつるまない人が気づかず失っているもの
僕自身、40年以上前に公立小学校に通っていた頃、とにかくその時間が無駄だと感じていた。
そして大人になって振り返ってみても、やはり無意味だと思う。
むしろ、小学校から6年ないし9年間、あるいは高校・大学までの十数年間、同世代の人間とつるみそれを当たり前だと認識することには、悪影響すらある。大人になっても、同世代の人間とばかりつるむようになるからだ。
また、中学や高校の部活動などで、たった1、2歳の年齢差が大きな差異だと勘違いする人々から、「年齢による上下関係は当然だ」という「常識」を叩き込まれていくのも悪影響だ。
そんな人たちは高齢になったとき、今さら若い人たちと仲良くなることができない。同世代の友人が亡くなっていくと、孤独になってしまう。
また、下の世代はどんどん優秀になっていくにもかかわらず、同世代との時代の変化に取り残された関係性にばかり甘んじていては、好奇心も行動力も衰えていく。新しい刺激に身を晒せなくなれば、自分を変革し続ける柔軟性(フレキシビリティ)をも失ってしまう。
好奇心こそが若さの源だ。新しいことに興味を失ってしまえば10代でも老人だし、新しい刺激を求め続けるのならば60歳でも若者だと、僕は考えている。
■ホリエモンが毎日のように食事に出かける理由
僕は毎日のように、年齢も仕事も異なるさまざまな人と食事に出かける。
大事なのは、さまざまな人々と出会い、コミュニケーションを取って行動に移していくこと。そのために子どもの頃から、学校外での出会いこそ広げていくべきだろう。オルタナティブスクールでも、地域社会でもいい。
さらに言えば、オンラインでの人付き合いも積極的にしていくべきだ。オンラインでなら、外国に住む人と仲良くなることもできるし、年の離れた友人だってできる。むしろ学校の外で自由な友人関係を築いたり、オンラインゲーム上の友だちができたりするほうが、新時代を生き抜く頭脳を育むことにつながるだろう。
■ホリエモンの人間関係を変えた大学時代のヒッチハイク
とはいえ僕も学生時代は、学校で出会った同世代の友人たちとばかり付き合っていた。
そんな世界から飛び出すきっかけは、東京大学(東大)在学中に訪れた。
大学時代、僕は東大の駒場寮に住んでいた。ルームメイトだった中谷くんがある日、「大阪ミナミ名物の串カツを、今から食べに行こう」と誘ってきた。しかし時間はもう夜中で、新幹線に乗るようなお金もない。
「どうやって行くの?」と聞いたら、中谷くんは「お金なんかなくたって、ヒッチハイクでどこにでも行けるよ」と答えたのだ。
高校時代からヒッチハイクで全国を旅してきたという彼は、「いきなり路上でヒッチハイクしてもうまくいくわけがない。目的地へ向かう車と出合える確率の高い場所で車を探すのがコツなんだ」と教えてくれた。
そんな彼に連れられて、寮の他の友だちも誘い、僕たちは夜中に駒場寮を出発した。そうして東名高速港北パーキングエリアに行き、大阪方面に行きそうな長距離トラックのドライバーさんを狙った。
僕たちは手分けして声を掛けて回った。当然「乗せてください」と言っても、断られまくる。「いちいち落ち込まない!」と中谷くんに励まされ、声をかけ続けた。すると10人を超えたあたりで、乗せてくれるドライバーさんと出会えた。
港北パーキングエリアを出てからは、いくつかの車をヒッチハイクで乗り継がせてもらい、着々と大阪までの距離を詰めていった。ものすごく楽しかった。翌朝、僕たちは本当に、お金を1円も使わず、駒場から大阪ミナミの串カツ屋にたどり着いたのだ。
■ヒッチハイクで知った人間の多様さ
金がない学生だって、勢いとノリのいい行動で長距離旅行はできることを知った。「やればできる」を体感できた、大学時代の忘れがたい成功体験だ。
それ以来、僕の趣味にヒッチハイクが加わった。気が向いたときに、お金をほとんど持たずに出かけ、パーキングエリアを攻める戦法でヒッチハイクを重ねた。そうして僕は、ヒッチハイクで北海道以外の全国各地を制覇できた。好きなときに、好きな場所に、1円も使わず出かけられる、フリーパスの国内旅行だ。サイフが空でも、勇気ひとつでどこにでも行ける圧倒的な自由を感じた。
さらにこのヒッチハイクでは、長距離トラックのドライバーさんというそれまでの人生では出会ったことのなかった人たちとの交流を通して、社会性を学べたと思う。知らないおじさんに「一緒に乗せてほしい」と頼む大胆さを身につけることができた。
■学生のうちから大人とどんどん交流すべき
また、だいぶ年上の男性と打ち解ける話術が身につき、起業後に年長の投資家や大企業の重役と会うとき、物怖じしない度胸が鍛えられた。
ヒッチハイクは、僕の起業を成功につなげた、大事な原体験のひとつとなった。
ヒッチハイクに限らなくてよい。社会経験の未熟な若者は、学生のうちからさまざまな大人とどんどん交流する機会を持ち、ビジネス感覚や生きた情報を仕入れるべきだ。
そうして身につける力こそが、同世代の友だちと交流するだけでは得られない、究極の「コミュ力(コミュニケーション力)」だし、「社会に出て役立つ人間力」だと思う。
----------
堀江 貴文(ほりえ・たかふみ)
実業家
1972年、福岡県生まれ。ロケットエンジンの開発や、スマホアプリのプロデュース、また予防医療普及協会理事として予防医療を啓蒙するなど、幅広い分野で活動中。また、会員制サロン「堀江貴文イノベーション大学校(HIU)」では、1500名近い会員とともに多彩なプロジェクトを展開。『ゼロ』『本音で生きる』『多動力』『東京改造計画』『将来の夢なんか、いま叶えろ。』など著書多数。
----------
(実業家 堀江 貴文)