※本稿は、泉貴人『水族館のひみつ 海洋生物学者が教える水族館のきらめき』(中公新書ラクレ)の一部を再編集したものです。
■長崎県の海は「生物豊かな海」
九十九島水族館海きらら「九州四天王・西の雄」
クラゲの専門家なので、長崎で最も推す水族館はこちらとなる。ペンギンマニアなら長崎ペンギン水族館となるのだろうが、そこはご容赦願いたい。
日本を代表する多島海である「西海国立公園九十九島」。この島々の一角に、九十九島パールシーリゾートという公園があり、その中心部に立つのがこの「九十九島水族館海きらら」。
ここのウリは地域密着型展示。九十九島の海で確認された生物だけを展示するというこだわりである。地元だけ? と侮るなかれ、長崎県は海岸線の長さが北海道に次いで日本で2番目に長く、実に様々な地形を擁するうえ、黒潮の分流である対馬暖流が流れ込む、生物豊かな海なのだ。
■日本で最も多くのクラゲが確認されている
その影響を一番受けるのがクラゲであり、九十九島周辺では日本中で最も多くのクラゲが確認されている。当然、水族館もクラゲを一つの推しにしている。
さらに、カブトガニの展示も見もの。長崎周辺には“生きた化石”カブトガニが棲息する干潟があり、水族館でも調査をしている。そのため、ほかでは見たことがないような、馬鹿でかいカブトガニの成体を展示しているのだ。
水族館のほかにも、九十九島パールシーリゾートでは遊覧船で九十九島のクルージングができるし、多数のレストランや土産物店もある。水族館だけ見て撤退するのはもったいない、ぜひ周りも楽しんでな!
アクセス:JR九州佐世保線佐世保駅から路線バスに乗り、「パールシーリゾート・九十九島水族館」で下車、徒歩すぐ。
所在地:長崎県佐世保市鹿子前町1008
TEL:0956-28-4187
■タチウオを綺麗に維持して飼育するのは至難の業
大分マリーンパレス水族館「うみたまご」「九州四天王・東の雄」
筆者が水族館制覇の旅を始める少し前、ここがリニューアルされて「うみたまご」の愛称がついた。この水族館は、すべてに卵の意匠を凝らしている。
この水族館の大回遊水槽は非常に面白い。2階と1階で2回楽しめるのだが、まず上階では足元に掘り込まれるようなアクリルガラスを使い、海の深さを見せつける。そして、1階では水槽の下部に部屋「うみたまホール」がつくられており、今度は見上げるようなアングルとなる。同じ水槽をここまでいろいろな角度から見せる例はなかなかないので、実に新鮮。
そして、タチウオの展示も外せない。瀬戸内海沿岸のスーパーではよく売られているタチウオだが、体は傷つきやすく、特にその太刀のような銀の表皮が剝げやすいことで有名。当然水槽の壁面でも傷つくので、綺麗に維持して飼育するのは至難の業だ。この水族館ではタチウオをウリにしており、暗い水槽の中でタチウオの群れが銀ピカの妖しい姿を見せてくれる。
■テッポウウオやデンキウナギが芸をする
ショーに関してはセイウチやイルカの出てくる海獣系のものはもちろんだが、昔懐かしい魚のパフォーマンスにも注目してもらいたい。テッポウウオやデンキウナギが性質を活かした芸をする。京急油壺マリンパークが閉館し、江の島水族館も新館になったときに魚のショーがなくなってしまったため、今残っていること自体とても貴重である。
さらに、屋外にある巨大な半水面水槽「別府湾プール」。この水槽、目の前の別府湾と一体化するような意匠で造られており、晴れた日には中を泳ぐマアジなどの魚の体表が輝く。何だろう、豊かな瀬戸内海の海をそのまま見ているような、そんな雰囲気を醸し出している。全体的に、不思議と安らぐ水族館だね。
アクセス:JR九州日豊本線の大分駅からバスに乗り、「高崎山自然動物園前」で下車、徒歩すぐ。
所在地:大分県大分市大字神崎字ウト3078-22
TEL:097-534-1010
■新種として発見された「エイ」がいる
いおワールド かごしま水族館「九州四天王・南の雄」
火山灰噴き出す桜島を望む鹿児島の埠頭に、三角屋根(というには形状が独特だが)の水族館がある。これがいおワールドかごしま水族館だ。鹿児島県の海域も東京都に負けず劣らず広く、鹿児島湾(錦江(きんこう)湾)から東シナ海や太平洋、そして奄美大島、果ては与論島にまで及ぶ広大な薩南諸島の海域を誇る。よって、展示生物も相当に手広い。
メイン水槽はエスカレーターを上ってすぐの黒潮大水槽。ジンベエザメがいることで有名だが、他のサメやエイにも注目してもらいたい。こここそ、20世紀から飼われていたのちに新種として発表された、モノノケトンガリサカタザメ(エイ)がいる水槽なのだ。
■本物のマングローブが育つコーナー
マングローブのコーナーでは、天井から差し込む天然光によって本物のマングローブが育つ。塩水に漬かりながら育つ熱帯林であるマングローブ場は、サンゴ礁と並ぶ南海特有の環境であり、根元の干潟にはシオマネキやトビハゼなどの生き物が隠れながら暮らしている。水族館で観察できるところは少なく、貴重だよ。
クラゲや深海の展示にも力を入れており、中でも深海生物であるサツマハオリムシが見もの。
アクセス:JR九州鹿児島中央駅から市電に乗り、「水族館口」で下車、海側に徒歩8分ほど。桜島フェリー乗り場が目印。
所在地:鹿児島県鹿児島市本港新町3-1
TEL:099-226-2233
■ジンベエザメに2種のマンタ…
沖縄美ら海水族館「南国にそびえる水の宮殿」
最後はやはり、ここの紹介。沖縄本島の本部町(もとぶちょう)でかつて、万博の一種である沖縄国際海洋博覧会が開かれた。それを記念して設置された海洋博公園、その園内にある水族館が、2002年にリニューアルされて生まれたのが沖縄美ら海水族館。入り口近くにあるジンベエザメのモニュメントが有名だが、海側から見るとまさに“宮殿”のような意匠をしている。
あまりにも有名すぎる日本最大の魚類飼育水槽、約7500トンを誇る「黒潮の海」。ジンベエザメもさることながら、2種のマンタが混泳する水槽も日本でここだけ。かつてオニイトマキエイと呼ばれていた種の一部がナンヨウマンタという別種に分かれた。
「サンゴの海」水槽では、魚はもちろんであるが、サンゴ自体にも注目してほしい。沖縄らしく、擬サンゴを使わない本物のサンゴ水槽だ。天気のいい日は水面によって太陽光が揺らめき、ダイバーの特権である海中のサンゴを見ることができる。
■新種のイソギンチャクを見てほしい
そして、かつては多くの人がスルーしてしまっていた深海コーナーも、当然おススメだ。何せ、泉が新種にしたチュラウミカワリギンチャク、リンゴカワリギンチャク、リュウグウノゴテンが揃い踏みで展示されているのだから! イソギンチャク以外にも、このコーナーだけで中堅水族館が一つ内包されるレベルの規模があるうえ、沖縄の深海のレア種が満載だ。特に、深海コーナーで大水槽を持っている水族館は少ない。無人潜水艇まで動員して採集してきたレアものの深海魚を、ぜひ堪能してくれ。
浅場のコーナーで際限なく時間を使ってしまい、深海展示を見る時間がない、なんてことのないように。建物を出る直前まで、興味深い展示の嵐なのだから。
アクセス:那覇空港から高速バスに乗り、「記念公園前」で下車、海洋博公園内を徒歩10分ほど。ジンベエザメのモニュメントが見えたらその下が入り口。
所在地:沖縄県国頭郡本部町石川424 国営沖縄記念公園(海洋博公園)内
TEL:0980-48-3748
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泉 貴人(いずみ・たかと)
海洋生物学者
1991年、千葉県船橋市生まれ。福山大学生命工学部・海洋生物科学科講師、海洋系統分類学研究室主宰。東京大学理学部生物学科在籍時に、新種であるテンプライソギンチャクを命名したことをきっかけに分類学の道を志す。2020年に同大大学院理学系研究科博士課程を修了。日本学術振興会・特別研究員(琉球大学)を経て、2022年より現職。イソギンチャクの新種発見数、日本人歴代トップ(24種)。東京大学落語研究会で磨いた話術を活かして、YouTubeチャンネル「水族館マスター・クラゲさんラボ」にて精力的にアウトリーチ活動を行う。X(旧Twitter)では「Dr.クラゲさん」(@DrKuragesan)として発信。
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(海洋生物学者 泉 貴人)