[総理大臣杯2回戦早稲田大(関東2部)2-1慶應義塾大(関東2部)、6日、宮城・セイホクパーク石巻フットボール場]
試合前日に開催されたFIFAワールドカップアジア最終予選中国代表戦を視聴していたJ1川崎フロンターレ来季加入内定の早稲田大DF神橋良汰(4年、川崎U-18)は、かつてともに川崎アカデミーで戦った後輩の活躍に刺激を受けていた。中国戦で日本代表初出場を飾ったDF高井幸大(こうた)は神橋の2学年後輩であり、ディフェンスラインで共闘した間柄だ。
早慶戦を控える早稲田の背番号4にとって後輩の代表デビューは大きな発奮材料となった。
「自分がフロンターレアカデミーのときはでちょうど2学年下に高井がいたんですけど、一緒にやっていた年下の選手がいまA代表でやっている。10代でA代表のピッチに(高井が)立ったことは自分も刺激になります」と明かした。この日行われた総理大臣杯2回戦慶應義塾大戦で神橋は先発し、宿敵から激しい攻撃を受けるも身体を張った守備で相手のチャンスをことごとく潰して最少失点勝利に貢献した。
川崎に来季加入が決まった神橋はプレシーズンのチームキャンプに帯同せず、獲得内定を前提とした練習に参加することなく古巣からオファーを受けたという。「(川崎の)キャンプは行ってなくて、練習参加も行かずに(オファーを)頂きました。(オファーを受けたときは)素直にうれしかったです。自分が早稲田に来た理由は4年後にフロンターレに戻るところを軸に大学を選びしました。4年間地道に取り組み続けた結果というか、報われたかなと思いました」と吐露した。
身長193センチの上背を活かした空中戦の強さと球際の強さは別格であり、利き足の左足から繰り出されるロングフィードは高精度かつある特徴を持っている。過去に神橋と対戦した選手が「(ロングフィードを)打ってくる間がつかみにくい」というほど、レフティー特有のセンスを生かした相手の虚を突くタイミングで放たれるパスは強力無比の威力を誇る。
早稲田大で成長を遂げた逸材を川崎が見逃すはずがなく、プレシーズン中に行われた早稲田大の遠征やデンソーカップチャレンジサッカー福島大会にスカウトが派遣されてオファーに至ったという。
大学最高峰の左利きセンターバックの川崎帰還は多くのサポーターから歓迎されている。そのポテンシャルの高さと攻守のクオリティは川崎の未来を照らす可能性が秘められている。
神橋は「左足のキックとヘディングは自分の武器としています。ビルドアップの部分、チャンスメイクと、攻守ともに左足のキックは(サポーターに)見せていきたいですね。きょうは結果が出せませんでしたけど、セットプレーからもチャンスがあれば点を取りたいと思っています。守備で跳ね返す部分と得点の部分でヘディングは(ファンに)注目してほしいと思います」と川崎サポーターに向けて自身の特徴をアピールした。
来季は刺激を受けた後輩との共闘をサポーターからも期待されているが、当人は一切浮かれた様子がない。
「高井と来年チームメイトになるかはまだわからないですけど、自分も練習参加に行ったときは彼ともよくコミュニケーションを取りました。彼も成長しているので、自分も彼に負けないように大学でしっかり結果を残していきたいと思っています」と、大学ラストシーズンでさらなる成長を遂げようと黙々と研さんしている。
フロンターレに相応しい圧倒的な存在に
これまで川崎はアカデミー卒団後に大学で成長した選手を獲得している。MF脇坂泰斗、MF三笘薫(プレミアリーグ・ブライトン)を始め、2021年シーズンに桐蔭横浜大からGK早坂勇希を獲得してから、FW山田新、MF山内日向汰(ひなた)と3季連続でこの流れが続き、今季は神橋がその系譜に名を連ねた。川崎に復帰した選手たちの共通点は“大学サッカー屈指の存在”であり、上記した選手はリーグ戦、全国大会で圧倒的な活躍を披露し、山田と山内は桐蔭横浜大を全日本大学選手権(インカレ)制覇に導いている。
神橋もその系譜に名を連ねた以上、さらなる成長をクラブから求められている。
「フロンターレのフロントの方にも『大学では圧倒的な存在にならなきゃいけない』と言われています。自分もそこに対してしっかりとアプローチしていきたいです。大学では林(義規)総監督がおっしゃってましたけど、『リーグ再開後には9連勝をする』、『(リーグ)後期を全勝する』ところは自分も強く共感しました。きょうもキャプテンマークを巻きましたけど、後ろからキャプテンシーを示してチームをまとめてやっていきたいと思います」と川崎に相応しい圧倒的な存在になると誓った。
この日行われた早慶戦は2-1で勝利して早稲田大の準々決勝進出に背番号4は大きく貢献したが、表情を曇らせていた。なぜなら試合開始早々の前半4分にカウンターから慶應義塾大FW香山達明(4年、埼玉・慶應義塾志木高)に頭で先制点を奪われるなど、宿敵にチャンスを多く作らせてしまったからだ。
「慶応なので負けてはいけない相手でした。トーナメントですからチームとしても一戦必勝と、この大会の初めにも言っていました。まずは勝つことができて本当に良かったと思いますけど、僕らが定期戦で4-0で勝ったという過信が試合の入りに出てしまいました。甘さや隙が出てしまって相手に先制を許したところは、最終ラインとして責任を感じています。
(個人の出来も)きょうはまったく良くなかったです。
個人として目指す目標は大学サッカー屈指のセンターバックであるだけに、自己評価が非常にきびしい。ただ川崎に相応しい存在になるために壁を乗り越えて他の追随を許さない傑出したディフェンダーへと一歩ずつ歩みを進めている。
早稲田大は現在関東大学2部で8位と1部昇格圏内の2位慶応義塾大と勝点が8点差離れている。高い目標を掲げる神橋は個人の成長とともに、残り9試合で白星を重ねて、チームの3季ぶり1部復帰を目指している。
「慶應に直近で2連勝できたことは間違いなく自信を持っていいと思います。ただきょうの入りみたいに自分たちが思っていなくてもどこかで過信、甘さが出てしまうと思います。隙を取り除く作業はこのリーグ中断期間に取り組まなければいけない部分です。自分もチームに対して強く要求していきたいと思います。リーグに関しては林総監督がおっしゃった『再開9連勝、全勝する』は間違いなく自分たちが昇格する上で必要なことです。いまは慶応が(順位で)上にいますけど、いい流れで再開に持っていけたらと思います」とチームともに成長を遂げて1部復帰にけん引する構えだ。
準々決勝は9日午後2時に宮城・セイホクパーク石巻フットボール場で総理大臣杯3度優勝の筑波大と対戦する。神橋は「相手にとって不足がないですし、素晴らしい相手なのでしっかりと叩くいい準備をしたいです」と闘志を燃やす。川崎に相応しい大学屈指のセンターバックになるために、筑波大で実力を証明する。
(撮影・取材 高橋アオ)