
移籍市場が開いている期間中にSNSやサポーターが集う居酒屋でたまに見かける光景がある。
「あれ?うちA契約枠が埋まっているはずなのになんで補強ができるの?」
A契約とは日本サッカー協会(JFA)『プロサッカー選手の契約、登録および移籍に関する規則』に定められたプロサッカー選手の契約形態であり、リーグ戦、スーパーカップ、リーグカップ、天皇杯などの公式戦(代表AマッチやAFCチャンピオンズリーグなどの国際大会を含む)で規定の出場時間を超えた選手が結べる契約だ。
実はこの契約はサポーター、ファンと関係者間での認知が大きく異なっている。この認知の差を埋めるべく、A契約とB契約に迫る。
(文・構成 高橋アオ)
意外とB契約は多い
「そもそもABC契約とはなんぞや」と思う読者も多いだろう。まずはC契約から説明する。
C契約は日本国内のサッカークラブとプロ契約を結ぶ際に、最初に結ぶ契約形態だ。これは上記した公式戦にJ1所属クラブで450分、J2で900分、J3とJFLで1350分の出場時間を超えるとA契約、B契約に契約が移行する。
またC契約の期間は3年間と規定されており、期間後はA契約、B契約に移行する。
この始まりの契約といわれるC契約は国内でプロキャリアを始める選手は誰もが通る道であり、年俸460万円以内でスタートする。
プロ契約を結ぶJリーガーはC契約からプロキャリアをスタートするさて「A契約枠が埋まっているはずなのに、なぜ我がチームは補強できるのか」という疑問を抱くサポーターが多くいるが、実はファンが思っているよりA契約選手は少なく、B契約選手が多い実情がある。次にB契約を説明する。
B契約はC契約の出場時間、契約期間を超過した選手が結べる契約だ。A契約との違いは年俸がC契約と同じく報酬の年額が460万円以内と設定されており、選手登録の制限数がない。
A契約は年俸の制限がなく(A契約を初めて結んだ選手に限り初年度は年額670万円の制限がかかる)、Jリーグ2025年シーズンは1クラブ最大27人までA契約選手を登録できると規定(FIFAクラブワールドカップに出場するJ1浦和は最大30人)している。
次にこのA契約とB契約におけるサポーターと関係者の認知の差に触れる。
サポーターと関係者の“認知の差”
サポーターやファンは「この選手は出場時間が超えたからA契約だな」「この選手は4年目だからA契約だよね」とC契約の制限を超えた選手は自動的にA契約選手になると思い込みがちだ。
しかし、一度立ち止まってほしい。C契約の制限を超えた選手はA契約またはB契約を結ばなければならない。つまりC契約からA契約とB契約への移行条件が同じなのだ。
そのためサポーターやファンがA契約だと思っている選手が、実はB契約である可能性がある。誰がA契約でB契約であるのかは当事者と一部の関係者しか知らない暗黙知であるため、応援しているクラブのA契約選手数はサポーターがどう頑張っても知り得ない情報なのだ。
この認知の差によって生まれた悲劇をフィクションで説明する。例えばとあるJリーガーが出身中学の同窓会に招待された。このフィクションに出てくるJリーガーはB契約選手とする。
同窓生「おー、久しぶり!お前Jリーガーになったのか。すごいな!?」
選手「ありがとう!もっとすごい選手になるよ」
同窓生「Jリーガーか。夢があっていいなー。
選手「ははは、そんなことないよ。もっと頑張るよ」(俺よりもらっている。夢がないな)
※(このやり取りはフィクションです)

といった具合にプロ選手であっても年俸460万円以下のJリーガーは意外といる。そのため選手登録制限がなく、年俸も低いB契約選手はクラブにとって非常にありがたい契約だが、選手にとっては非常にきびしい契約形態だ。
B契約の実情と廃止へ
このB契約は契約トラブルが発生しやすい契約形態といわれることがある。前述したようにC契約の制限を超過した場合、A契約と同条件で契約を結べるからだ。具体例をフィクションで説明する。
強化部「きみは今季30試合に出場して、献身的に攻撃と守備に参加してくれた。平均走行距離もリーグトップ10に入っていた」
選手「ありがとうございます」(お、評価が高いぞ!?)
強化部「年俸も100万円増額することに決めたよ」
選手「ありがとうございます!!!」(これは来季A契約だな)
強化部「だからうちと契約を更新して来シーズンはクラブの顔になってくれ!」
選手「ありがとうございます!」(やったー)

というやり取りがあるとする。ただふたを開ければB契約での提示だった。
選手「B契約」
代理人「なにがクラブの顔だよ!!ふざけるな!!」
※(このやり取りはフィクションです)
といったやり取りがサポーターが知り得ない舞台裏で起きているかもしれない。実際にJ1、J2クラブであっても出場時間が短い選手の契約更新や、下部リーグからステップアップ移籍した選手がB契約で加入するケースもあるという。
B契約はA契約と比べて年俸の制限があり、選手登録数の制約がないため、クラブの事情によってB契約からA契約に移行できない選手も多くいると複数関係者が話していた。このAとBの壁は大きすぎる格差となっており、選手の不満の種になっているようだ。
ただこの状況は改善する傾向にあるという。昨年9月24日に実施された2024年度第8回Jリーグ理事会でプロ契約におけるABC区分の撤廃が決議され、2026-27年シーズンから現行のABC区分のプロ契約を撤廃して、新たなプロ契約形態に移行する案を会見議事録上に公開した。
A契約とB契約の格差はなくなりつつあるようだ。ただ現行のプロ契約形態を変更するには今後多くの調整が見込まれるため、どうなるかは不透明だ。サポーターの知り得ないところで苦労している選手たちが幸せになる結果になってほしい。