
今月9日に開催されたJ2第4節北海道コンサドーレ札幌vsジェフユナイテッド千葉の一戦で会場が凍り付くシーンがあった。
試合終了間際の後半47分に千葉FW呉屋大翔がチーム3得点目を決めると、歓喜を爆発させて客席に駆け寄ろうとした瞬間、ピッチから落下してしまった。
試合会場の大和ハウスプレミストドームでは同様の事案が今回を合わせて3度発生しており、責任の所在が問われている。
そこで同会場の指定管理者である株式会社札幌ドームに取材し、同事案に迫った。
(取材・構成 高橋アオ)
約3メートル弱のコンクリート床へ落下
札幌が本拠地とする大和ハウスプレミストドームのピッチはホバリングステージとなっており、野外で育成した天然芝フィールドを会場の屋内へ移動して試合開催をする。
ホバリングステージとコンクリートの床は約3メートル弱の高低差があり、今回落下防止用の柵を乗り越えた呉屋はコンクリートの床へと落下してしまった。
ホバリングステージとコンクリートの床の高低差は約3メートル弱過去に2009年J2第1節ベガルタ仙台戦で先制点を挙げた仙台MF菅井直樹が喜びのあまりステージ上の防止柵を飛び越えて落下し、2019年J1第3節ではチーム3得点目を決めた札幌FWアンデルソン・ロペスがサポーターと歓喜を分かち合おうと防止柵を乗り越えてステージ上から落ちてしまった。
ステージ上から落下した選手たちは幸運にも無事であり、呉屋も自身のXに「無事です」と投稿して多くのサポーターは安堵(あんど)した。

会場には落下防止用の柵が設置されているものの、これまで3度同様のインシデントが発生しているため、安全上の観点からいえば十分な対策が取られていると言い難い状況だ。
そしてこの事案は責任の所在がどこにあるのか。
同施設は札幌市が所有しており、施設の管理は同市と道内財界各社が第三セクター方式で出資する株式会社札幌ドームが指定管理者として運営管理業務を札幌市から委託されている。
そこで同施設を管理している株式会社札幌ドームと同施設を本拠地とする北海道コンサドーレ札幌を取材した。
株式会社札幌ドームは協議中のためと一点張り
まず大和ハウスプレミストドームの指定管理者である株式会社札幌ドームに「過去に北海道コンサドーレ札幌から落下防止対策の要望を受けたか」と問い合わせると、同社関係者からは「現在弊社とコンサドーレさんとの間で対応について協議しているので」と歯切れの悪い回答が返ってきた。
同社関係者に質問した内容を一部箇条書きすると、
・呉屋選手の落下事案の受け止め
・安全防止対策に不備があると思うが、そこの認識について
・施設の安全管理上インシデントと思えるが、謝罪声明を出す意思はあるか
などの質問を投げかけたが、「協議中のため」の一点張りだった。

また「施設の安全対策としてコンクリート床にウレタンやマットを敷くなど、御社に安全対策を実施する決定権があると思いますが」と質問すると、「設置する、設置しない含めて我々の方で決定権があるというわけではなくて、いろいろなイベントをする中で、コンサドーレさんだけでなく、各主催者様との協議を行います」との回答を得た。
工事現場などの高所作業時(高さ6.75メートル以上の高所作業、および建設業などの高所作業において、高さ2メートル以上の箇所で作業床が設けられない場合)はフルハーネス(フルハーネス型墜落制止用器具)の着用義務が労働安全衛生法によって規定されている。
落下防止用の柵を設置しているとはいえ、3度発生している事案に何らかの対策を実施しなければならない。
高低差約3メートル弱からコンクリート床に落下すれば、当たり所が悪ければ脊椎損傷により下半身まひ、脳挫傷などによる障害、最悪死亡する可能性もある事案だ。
今回の落下事案は安全管理上の重大なインシデントと思えるが、事案についての声明を今月11日21時時点で同社はリリースしていない状況だ。

また同会場を本拠地とする北海道コンサドーレ札幌は「前回のロペス選手が落ちたときに、選手たちに(会場の)構造を各選手に認識してもらう形でもう一度周知を徹底しています」と回答した。
ただアンデルソン・ロペスがステージ上から落下した際に、株式会社札幌ドームに落下防止対策の要望を出したかと問い合わせると、「当時の担当者と連絡がつきません」と返答した。クラブとしてはこの事案について指定管理者である同社と協議した上で対応する考えだという。
この事案に動くべきチェアマンが動いていない
野々村芳和(よしかづ)Jリーグチェアマンがこの事案について何も発信していない点も言及したい。
野々村チェアマンは現職就任前はクラブを運営する株式会社コンサドーレで代表取締役社長を務めていた。当然2019年のロペスが落下した事案の当事者であり、同会場の構造も熟知している。

約3メートル弱の高低差があるコンクリート床に選手が落下すれば最悪死亡事故も想定されうるインシデントが発生したにもかかわらず、野々村チェアマンやJリーグは今月11日21時時点で、この事案に関する声明などをリリースしていない。
選手の生命がかかわる事案であるため、チェアマンとして選手を守るような立ち振る舞いを見せてほしいところだが、現在そのような動向は確認できていない。
無事だから良かったでは済まされない。