
今季のジェフは違う―。今冬にジェフユナイテッド千葉が敢行した大型補強は、17季ぶりのJ1復帰という悲願達成への本気度が伺える。
開幕してから2試合4得点無失点で首位と理想的な開幕スタートを切れたが、次節の相手は直近5試合5連敗中のモンテディオ山形をホームに迎える。
通算公式戦7勝7分15敗の難敵をここで打ち破ればクラブ史上初の開幕3連勝を達成するため、今季のジェフは違うと結果で証明できる大事な一戦となる。
昨季リーグ戦23得点で得点王に輝いたFW小森飛絢(ひいろ、ベルギー1部シント=トロイデンへ期限付き移籍)不在のチームがなぜここまで力を付けたのか。
開幕いわきFC戦を取材した高橋アオ記者がその理由に迫る。
(文・構成 高橋アオ)
鉄壁の守備陣
特筆すべきはディフェンスラインの層の厚さだろう。今季新加入したDFは植田悠太(J1京都サンガから育成型期限付き移籍)、前貴之、河野貴志、鳥海晃司の4選手であり、どの選手も優れた実力を備えている。
前は昨季レノファ山口で先発37試合に出場した主力右サイドバックであり、優れた戦術理解能力と複数ポジションをこなせるポリバレントな才能に定評がある。
本職の右サイドバックはもちろん、左サイドバック、中盤、センターバックもこなせるマルチロールであり、開幕戦は左サイドバックで粘り強い守備を披露した。
河野も優れたセンターバックであり、ブラウブリッツ秋田の守備の要として2シーズンで77試合に先発出場した。
フィジカルを前面に出したプレーが特徴であり、185センチの高身長を生かした空中戦、球際の強さ、激しさと正確さを備えたスライディングが長けており、試合終了間際のパワープレー要員でも活躍が期待できる。
そしてアカデミー出身の鳥海の復帰が今季の堅守を決定付けた。開幕から2試合フル出場を果たし、ディフェンスリーダーとしてチームをけん引した。
今季J1セレッソ大阪から完全移籍で復帰した鳥海第1節いわき戦では同じくアカデミー出身のDF久保庭良太とセンターバックコンビを組んで相手の猛攻をしのぎ切り、第2節カターレ富山戦では元日本代表DF鈴木大輔と堅牢(けんろう)な守備陣を築いて、自身はヘディングで2得点目を挙げた。
誰とコンビを組んでもパフォーマンスも連係の精度も落ちず、攻守において存在感を見せる規格外のセンターバックは今後も鉄壁の要として君臨するだろう。
気がかりな点はゴールキーパー陣だ。若原智哉、岡本享也、薄井覇斗、ホセ・アウレリオ・スアレスとJ2屈指の選手を獲得するも、昨季第37節V・ファーレン長崎戦で小森のペナルティキックをキャッチした若原が先月16日に右ひざ外側半月板損傷と全治約5カ月の負傷を負った。
順調にいけば若原の復帰は6月中旬から7月上旬だが、昨季徳島ヴォルティスを退団したスペイン人守護神スアレスを緊急補強した。昨季終わりから所属先がなくコンディション面に不安を覚えるものの、状態が上がればJ2屈指のGKであることは間違いない。
若原の復帰、スアレスのコンディション向上で今後J2最高峰のポジション争いが繰り広げられるだろうが、ここまで2試合をクリーンシートに抑えた鈴木椋大(りょうた)の力も大きい。
いい守備からいい攻撃へ。J2トップクラスのGK陣とディフェンスラインがこれまでとは違う鉄壁を形成してJ1復帰を手繰り寄せる。
攻撃はサプライズ補強で改善へ
昨季絶対的エースだった小森の移籍により、攻撃面に一抹の不安を抱えていた千葉。今季はMF横山暁之(あきゆき)、MF髙橋壱晟(いっせい)、FW石川大地、鳥海とバランス良く得点を重ねている。
ストライカーの新加入選手はロアッソ熊本でリーグ戦27試合10得点3アシストのFW石川とブラジル人FWデリキのみと、毎年過酷な競争を強いられるJ1昇格レースを勝ち抜くには前線が少しだけさみしさを覚える補強だった。
夏の移籍市場で補強かと思われた矢先に、本日千葉はサプライズ補強を敢行した。今月14日にJ1清水エスパルスとの今季の契約を継続しないと発表されたブラジル人FWカルリーニョス・ジュニオがジェフに加入したのだ。

カルリーニョスは清水の攻撃をリードしてきた選手であり、一言でいえばスピードとテクニックを兼備したチャンスメイカーだ。
昨季はリーグ戦32試合5得点2アシストとやや物足りない数字に終わったが、2020年シーズンはJ1で29試合10得点3アシスト、2023年シーズンはJ2で36試合15得点3アシストを記録。特に2023年シーズンは左サイドを主戦場にしながら、これだけの結果を挙げた実力は並外れている。
さらに清水加入前はスイス1部ルガーノで2季連続リーグ戦二桁得点を記録するなど、欧州でも活躍した実績を誇る。
左サイドを本業としているが、右サイド、トップ下、シャドー、センターフォワードもこなし、チーム事情や局面に合わせたポジションチェンジも可能なため、千葉にとって僥倖(ぎょうこう)ともいえる補強となった。
前線、中盤は小森以外の主力流出がなかったため、昨季の積み上げ、新戦力の連係向上が噛み合えばJ1昇格レースで先頭をキープできそうだ。
覚悟が違う選手たち
昨季はJ1昇格プレーオフをかけた最終節山形戦で0-4と大敗し、目前でJ1復帰を逃してしまった。サポーターたちは戻るべき場所に戻れなかったやるせなさ、悔しさは筆舌し難いものがある。17年の間、本来いるべき場所の扉は固く閉ざされている。
何度も、何度もその扉をこじ開ける寸前までいったが、あと一歩のところで跳ね返されてきた。イビチャ・オシム監督が見せた鮮やかなサッカー、過酷な戦いを乗り越えて2度のカップ戦王者に輝いた偉業、血湧き肉躍るほどの華やかさと激しさがあった戻るべきあの場所は近いようで果てしなく遠かった。
ジェフがJ1にいる時代を知らないサポーターも増えつつあり、J1復帰を夢見ながらも天国へ渡ったファンもいる。
これまでとは覚悟が違う―。昨季最終節の敗戦のような屈辱を二度と繰り返さない。髙橋は「まず勝負の試合で勝てるチームじゃなきゃいけない。僕らは周りから大事なときに勝てないチームだとよく言われています。それを払拭したいというのがまず一番にあります。ディフェンスの選手なので、守備で失点を減らすことができれば勝ち、引き分けにできる試合が多くあると思うから、そこが一番の今年のテーマ」と言葉に力を込めていた。

これまで勝負の試合で勝ち切れなかった試合を勝ち切る。泥臭く守り、球際や走りで競り勝ち、いい守備からいい攻撃へつなげるサッカーは今季始まってまだ2試合であるが、選手たちはピッチで熱く体現している。
今季エースナンバーである背番号10を選んだ横山も「いままでジェフで10番を背負ってきた人たちは、それぞれの10番らしさを表現していたと思います。辛抱強さとか我慢強さ、はい上がる力みたいなものは、ジェフとして表現しないといけない。

背番号10、髙橋が粘り勝った開幕戦に続き、第2節富山戦は相手を圧倒する形で10季ぶりの開幕連勝を果たした。昨年6月に左アキレス腱断裂の大ケガを負った鈴木主将は、8カ月にも及ぶリハビリ生活を乗り越え、先発した第2節の完封勝利に大きく貢献した。
浅野凜太郎記者が背番号13を取材した際に覚悟の違いを見せつけられたという。

鈴木は「ケガしている間、ずっとサポーターの目線で試合を観られました。自分はアウェイにも帯同していて、移動で隣の席にサポーターがいたり、同じホテルに泊まったり、同じ風呂に入っていたんです。
そういうときに、『(復帰を)待っています』と直接声を掛けてもらっていました。お金を払ってアウェイまで来てくれる人の気持ちとか、サポーターがどれだけ熱い気持ちで応援しているのか近くで見てきて分かったので、すごく勇気をもらえた。だからこそ、『そこ(ピッチ)に絶対戻るんだ』と思ってやってきましたし、みんなからの『復帰を待っているよ』という声でリハビリを頑張れました」と、サポーターのために奮闘した。
言葉だけじゃない。覚悟、決意がプレーに表れているからこそ、泥臭く、激しく戦う原動力になっているのだろう。補強もほぼ完璧な形で用意ができた今季だからこそ、これまでとは違い結果を追い求めなければならない。
機は熟した。17季ぶりのJ1復帰を果たさなければいけない。これまで悔し涙を流してきたサポーターが流す落涙をうれし涙へと変えるために、まずは難敵山形を粉砕して史上初の開幕3連勝を飾る。