
[総理大臣杯1回戦中京大(東海1部)2-1流通経済大(関東1部)、4日、宮城・みやぎ生協めぐみ野サッカー場Cグラウンド]
中京大が2-1で流通経済大を下して初戦を突破した。この日先発出場したJ1ヴィッセル神戸アカデミー出身のMF押富大輝主将(4年)とGK田村聡佑(2年)のコンビが奮闘して大学サッカーの名門を撃破へと導いた。
神戸アカデミーコンビが躍動した。中盤で豊富な運動量と優れた足元の技術で攻守に存在感を出した押富主将、守護神として流通経済大の強烈な攻撃をセーブし続けた田村が存在感を見せた。
この日勝利に大きく貢献した中京大MF押富主将(左)とGK田村中京大の闘将がゲームをコントロール
押富主将は「リーグ戦では最近あまりいい結果が出せていなくて、苦しい時間が続いていました。チームとして『チャレンジャー精神を持って一戦一戦、戦っていこう』という中でスカウティングをしながらうまく追加点も取れて、いい形で勝利できたと思います」と胸を張った。
試合序盤に流通経済大の猛攻に押される展開もあった。激しいプレッシャーと鋭いショートカウンターを立て続けに受けたが、田村が好セーブで決定機を阻止。中盤にボールが渡れば押富主将がゲームをコントロールするようにコーチングをかけてパスを散らしながらチームを落ち着かせた。
神戸U-18時代も主将を務めた中京大の背番号6は進路選択をする中で右ひじを骨折。コロナ禍の影響も重なって大学チームへの練習参加に行けない中で、3年の春先から熱心に声をかけてくれた中京大へ進学した。
「当時はすごくメンタル的にも厳しい、苦しい日々が続きました。声をかけてくれた中京大は練習からすごく質が高かったです。神戸時代はアンカーで守備の部分で潰したり、ボールを持って散らすプレーが得意でしたけど、中京大に入ってからは前の推進力やフィジカル面がすごく上がりました」と中京大の指導を受けて万能型ボランチへと成長を遂げた。
この日もドリブルで相手をすり抜けるようにゴール前までボールを運び、決定機にも顔を出すなど神戸アカデミー時代に見られなかったプレーを披露し、ピンチになれば持ち前のキャプテンシーを見せて中京大の闘将がチームをけん引した。

昨夏の総理大臣杯は負傷により欠場するなど悔しい日々を過ごしてきたが、総理大臣杯でチームを白星へと導いた。
「去年はタレントも多かった中で『自分たちは行けるだろ』という気持ちもあったんですけど、あと一歩届かなくて。東海地方で活躍するために『練習の中で強度を高めていこう』と選手の中でも話し合いました。地道ではありますけど、毎日の練習で100%、120%の力で出し切るところをチームの共通認識として捉えてやり続けた結果が今回の勝利につながったと思います」と主将は自信に満ちた表情を浮かべていた。
日本代表守護神を彷彿させるGK
この日素早いステップと予備動作で際どいシュートをセーブし続けた田村は、神戸で守護神を務める神戸GK前川黛也を彷彿とさせるプレーを見せてチームを窮地(きゅうち)から救った。
「前川選手を意識してやっています。アカデミーでやっていたときも、何回かトップの練習に参加させてもらったとき『こういう選手を目指したい』と思いました。そのタイミングで前川選手も日本代表に入って、目標の選手だという思いが強くあります」

チームでは前川と同じいじられキャラの田村。プレーだけでなく、キャラクターも似ていることから「そうなんですよ。そこも被っていますね(笑)」と照れ笑いを浮かべていた。

この日9本の被シュートを受け続け、ペナルティエリア内に何度も敵の侵入を許したが、持ち前の反応の良さで試合終了間際まで無失点をキープ。最少失点に食い止めた守護神は「東海では感じられない力強さとスピーディーな選手がいっぱいいましたけど、自分が最後の砦としてゴールを守ってチームを救うことが結果的にできました。
中京大は自身の課題であったビルドアップ向上のために進学したという。技術が優れた選手が集う同大でパススキルは徐々に成長しつつある。神戸アカデミー、同大の先輩である押富主将とは仲が良く、「存在が大きかったですね。自分を表現しやすいです」と感謝している。
押富主将も「神戸の後輩が活躍してくれることはすごくうれしいです。僕は田村と中学校から一緒なので、中高と一緒にやってきた中で頼もしくなっていると年々感じています。きょうの試合は出てないんですけど、神戸アカデミーの後輩の荒井貫太(3年)もいます。彼らが活躍してくれることは自分自身にとてもうれしい気持ちでいっぱいです」と後輩を労っている。
先輩は大学ラストイヤーであり、今季は花を持たせるために後輩も奮闘している。
「優勝することが一番だと思いますし、先輩に花を持たせたいと常に思っています」と同大初の総理大臣杯制覇を掲げた。
二人の神戸愛
押富主将と田村は神戸に特別な感情を抱いている。

昨年2月に神戸とJ3松本山雅FCとのJリーグプレシーズンマッチ2023直後に行われた松本とのトレーニングマッチに押富主将は練習生として試合に出場した。観衆が集まるノエビアスタジアム神戸で泉、山内とともにプレーできた記憶はかけがえのない経験となっている。
「あの試合をしたときにプロで活躍したいと強く感じました。柊椰くんも翔くんも神戸時代良くしてくれた先輩だったので、先輩に追いつきたい気持ちがすごく強いです。難しい日々が続いていく中、二人が活躍してる姿を見て悔しい気持ちと同時にもっとやらないといけないと感じています」
昨季は練習生としてキャンプに帯同して元スペイン代表MFアンドレス・イニエスタ(現・UAE2部エミレーツ・クラブ)、元日本代表FW大迫勇也、同DF酒井高徳からプロの振る舞いを学んだ。
「一つ一つの技術の質と相手を見てサッカーをするプレーがすごくうまいですし、そこの部分を付けていかないといけないと感じました。イニエスタ選手、大迫選手、酒井選手と、一人一人の選手たちの普段の意識、サッカーのときの意識が高かったです。練習が終わってからも自分の足りない部分のフィジカル面を強化したりとベテランの選手があれだけ頑張っているので、若手選手はやらないといけない環境ができていました」とプロを目指す押富主将にとってこの経験は一つの指標となっている。

今季は神戸の練習に参加していないが、プロクラブ入団に向けて自身を日々研さんしている。
「課題として得点力があります。最後の質が自分の課題なので結果、数字を出さないと評価されない。
そして憧れの神戸にいつか入団することも夢見ている。地元の少年団から神戸アカデミーへ入団した押富主将は基礎技術や、サッカー選手としての振舞い方を学んだ。
「神戸アカデミーは自分を変えてくれた存在だと思っています。小さいときからお世話になったクラブなので、神戸のために頑張りたい気持ちをずっと持っています」と神戸帰還を掲げた。
田村も2年後に神戸入団を目指している。復帰は簡単ではないが、大学屈指のゴールキーパーとなって古巣へ返り咲く青写真を描こうとしている。
「1番そこ(神戸)を目指しています。どうなるか分からないんですけど、そこに向けていい準備をして、2年後か、その後でも神戸に戻れたらと思っています。まだ足りない部分も大きいので、もっと自分の課題に向き合ってこれから成長して頑張りたいです」と成長を誓った。

可愛い子には旅をさせよという諺(ことわざ)がある。神戸を離れて愛知県で実力を磨く神戸アカデミー出身コンビはときにはたくまく、ときには華麗に活躍して全国大会で印象的な活躍を見せた。
(撮影、取材・文 高橋アオ)