次代の覇権争いを展開する米中。日々激しさを増しているが、電気自動車(EV)、太陽光パネル、風力発電、ドローン、自律型ロボット、造船、高速鉄道、原発開発など産業技術分野について、中国の勢いが多くの分野で米国を凌駕している。
その起爆剤となったのは2015年5月に習近平政権が打ち出した産業政策「中国製造2025」だ。EVや造船、電力設備、高速鉄道、医薬品、ロボット宇宙、航空など10の重点分野を定め、国を挙げた長期計画の下で技術や生産力の向上に努めてきた。この結果、米国は中国が4分野で「世界的なリーダー」になったと認め、危機感を高めている。
太陽光ではパネルから部品、素材まで世界の過半のシェアを握り、医薬品原料の3割は中国。ロボット分野も飛躍的に進歩し、製造業の工場現場の自動化が進み、人手不足を補っている。4月19日に北京で開催されたハーフマラソン大会で自律型ヒト型ロボットが完走し注目された。
半導体分野でも「自力更生」を旗印に、技術革新が進展
弱みとされた半導体分野でも技術革新が進んでいる。シャオミ(小米)は回路線幅3ナノ(ナノは10億分の1)メートルの先端半導体を開発し、ファーウェイ(華為技術)も半導体や基本ソフト(OS)で自前のものに切り替えを進める。米政府は輸出規制などで締め付けを図るが、「自力更生」を旗印にした中国企業の独自技術開発を促す結果となっている。
中国勢は24年の炭化ケイ素(SiC)パワー半導体の販売額で上位10社中3社を占め、シェアを伸ばした。
シャオミは世界のスマホ市場でアップルと韓国サムスン電子に次ぐ3位で、独自半導体を武器に2社を追撃。26年から5年間で研究開発費に直近5年の2倍に当たる2000億元(約4兆円)を投じる。スマホ依存の経営から脱するためEVに参入。
日本の国立大学85校の運営費交付金が24年に約1兆700億円に減額されたが、中国の研究資金は膨大で、ファーウェイ1社だけで 2兆円を超えている。
中国国家統計局によると、中国全体の研究開発投資は23年に約3兆3000億元(約66兆円)に達した。国内総生産(GDP)に対する比率は約2.65%で余力がある。
直近10年間で中国の産業競争力が急速に高まり、国内外で販売された中国製品から生まれる膨大な産業データを活用して「製造強国」の地位を確立した。
過当競争が起きているように見えるが、長期的には市場が産業内における経営資源を優位企業に集中させる。技術革新と産業の高度化が加速し、産業全体が健全で持続可能な発展軌道に乗ることになろう。
熾烈な競争の中からイノベーションが生まれ、製品力アップの源泉に
中国企業の躍進を支えているのは巨大な国内市場だ。14億人の人口を背景にした規模の経済は今後も拡大するとみられている。さらに、中国企業の速いスピードとイノベーション力の高さが挙げられる。
この傾向は家電製品やスマホ、PC製品など他の分野にも広がっている。国内市場だけでなくASEAN(東南アジア諸国連合)などグローバルサウス地域にも拡大し、欧州や日本にも浸透する勢いだ。中国企業の競争力向上が評価され、株式も上昇している。現在の株価は23年初に比べ、シャオミが3倍超、BYDも2倍に。テンセント(腾讯控股)も5割超アップしている。中国発の生成AI・ディープシークの登場も中国企業躍進の象徴となっている。
中国ではショート動画「TikTok」を運営するバイトダンス、大人気ゲーム「原神」を開発したmiHoYoなど、有力ハイテク企業が次々に地歩を固めている。中国企業は国外でのゲーム事業などでも進展しており、中国音像・デジタル出版協会によると、24年の中国国外での中国ゲーム企業の売上高は185億5700万ドル(約2兆7000億円)に達している。
有力ハイテク企業としてはデリバリーの「美団」、配車の「適適」、自動運転の「バイドゥ」、決済サービス「アリペイ」を運営する「アント」などが挙げられる。
こうした中、米中双方が5月12日に115%の関税引き下げで合意した。米中対立が和らぐ可能性が出てきたことも、中国企業にとっては明るい材料だ。中国企業の進撃は続くことになろう。