台湾メディアの中時新聞網は6日、「台湾の半導体を奪おうとする米国の動きに気をつけよ」とする台湾の元経済部長、尹啓銘氏の論評を掲載した。

論評はまず、トランプ米大統領が3月3日、半導体の受託生産で世界最大手の台湾積体電路製造(TSMC)の魏哲家最高経営責任者(CEO)とホワイトハウスで記者会見を開き、TSMCが今後数年間で米国に1000億ドル(約14兆7000億円)の追加投資を行い、三つの新たな半導体製造工場、二つの先進パッケージング施設のほか、大規模な研究開発センターを建設すると発表したことが台湾で物議を醸したことを受け、魏氏が頼清徳総統と総統府で記者会見を開き、米国への追加投資の理由について、「顧客の要求を満たすためであり、現在の米国の投資計画では不足と判断した」と説明した上で、「CHIPS法に基づく補助金のためではない。

補助金がなくても、私たちは恐れない。私たちが求めるのは公平であることだけだ」と述べたことを取り上げた。

その上で、8月26日にラトニック米商務長官が米CNBCのインタビューで、就任直後に魏氏に直接電話し、米国での投資を大幅に引き上げるよう圧力をかけたと暴露したことを取り上げ、「両氏の発言を突き合わせると、少なくとも1人はうそをついていることになる。ラトニック氏の説明が真実なら、魏氏は脅迫に屈したことになる。TSMCは今のところ66億ドル(約9702億円)の補助金のうち15億ドルしか受け取っていないという。TSMCは今後、残りの51億ドルを手にすることができるのだろうか」とした。

論評は、インテルが8月22日、米国政府が同社の株式の10%を89億ドル(約1兆3083億円)で取得すると発表したこと、この89億ドルはCHIPS法に基づき承認されたもののまだ支払われていない57億ドルの補助金から賄われ、残りの32億ドルはCHIPS法に基づく「セキュア・エンクレーブ」プログラムの下で賄われることに触れ、「つまり、インテルが手にする補助金のほとんどが政府の株式取得によるものであり、ただ飯ではないということだ。ではTSMCもただ飯を食うことが可能なのだろうか」とし、「トランプ政権によるインテルへの出資は、インテルが国家公認の『チャンピオン』であることを示している。さらに、ソフトバンクと米国政府による相次ぐ出資は、インテルの顧客を含む他の投資家の参加を促し、その後の資金調達と受注を促進する可能性がある」とした。

論評は「米国政府は長年、台湾の地政学的リスクをあおり立てると同時に、最先端半導体における台湾依存の危機を強調してきた」とし、ベッセント米財務長官が「1973年の石油危機以来の国家安全保障上のリスク」と誇張したことや、米シンクタンクの戦略国際問題研究所(CSIS)とセキュリティー新興技術センター(CSET)の2人の専門家が「TSMCがアリゾナ工場の建設を加速させたとしても、米国は2030年までに台湾の半導体エコシステムへの依存から脱却して実質的な自立を達成することはできないだろう」との見方を示したこと、人工知能(AI)時代において台湾の「シリコンの盾」は標的となりつつあり、中国は台湾を占領することで、AIの優位性を維持するという米国の希望を打ち砕く可能性があることに触れた。

論評は「彼らの目標は、台湾を世界の半導体サプライチェーンから排除し、最先端チップ製造拠点を国内に確立し、国内のチャンピオン企業を支援することに他ならない」とし、ラトニック氏が4月、台湾からチップ製造を取り戻したいと表明したことを取り上げた。

論評は「TSMCが発表した米国への投資総額は1650億ドル(約24兆2550億円)に達したが、果たしてこれで止まるのだろうか」とし、「TSMCの売り上げのうち北米が70%を占め、主に米国の顧客からのものだ。

ベッセント氏は、TSMCの米国工場は米国の半導体需要の7%を満たすにすぎないとし、TSMCの米国における規模が大きくないことを示唆した。さらに米国は30年までに世界の半導体生産能力の20%を占めることを目指している。インテルが苦戦する中、TSMCはその差を埋める上で重要な役割を担うことになるだろう」とした。

論評は「トランプ氏は、米国に輸入される半導体への100%の関税に加え、通商拡大法232条に基づき、サーバーや携帯電話などの半導体派生製品にも高関税を課すことが可能であり、これにより下流産業は米国への移転を余儀なくされる。実際、台湾企業は米国とメキシコへの配置拡大を急いでいる」とし、「1986年に日本は米国との間で不平等な半導体協定の締結を余儀なくされ、これが日本の半導体産業が衰退する転換点となった。台湾の半導体を破壊しようとする米国の計画に直面して、われわれの政府はただ座して死を待つだけでいいのだろうか」とした。(翻訳・編集/柳川)

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