勝ち目の薄かったアンドリュー・ヤンの選挙キャンペーンだが、直前までニューハンプシャー州で勝ち残るのではないかという希望を持たせてくれた。同州の予備選で3位か4位に入り、ネバダ州とサウスカロライナ州やさらにその先まで行ける可能性もあったのだ。
ところが現実に目を向けると、ヤンの大統領選への挑戦は自身がキャンペーンをスタートさせた極寒のニューハンプシャーで、事実上終わった。過去1年半の間、ヤンは他の民主党候補の誰よりも多く同州に足を運び、選挙キャンペーンを繰り広げてきた。
ニューハンプシャー州での投票が締め切られて間もなく、ヤンは大統領候補者争いから退くことを明らかにした。
ヤンが立候補者としての資格を得られたのは、決して単なるラッキーではない。彼は上院議員や州知事、閣僚経験者らよりも長く選挙戦に生き残ったのだ。自分のGmailのアドレス帳に記録されていた連絡先からキャンペーンをスタートさせ、最終的には40万人以上の支持者から4000万ドル(約44億円)の選挙資金を集めた。寄付者の中には、生まれて初めて政治献金を行ったという人もいた。そしてヤンの立候補表明を受けてヤン・ギャングと呼ばれるネット上の草の根運動が立ち上がり、ベテラン候補者たちの支持者とネット上で張り合った。
候補者としてのアンドリュー・ヤンは何を残しただろうか? ヤン自身と、彼をここまで後押しした支援の大きな波は、これからどこへ向かうのか?
ヤンが候補者の中でも特に注目を浴びたのは、彼の振る舞いや話し振りが一般的な政治家らしくなかったからだ。もちろん彼も、「ヒューマニティ第一主義」や「左でも右でもなく前へ」といったスローガンを掲げて活動した。しかし陳腐なキャッチフレーズや言い古された政治的表現を口にすることはなかった。全米中継された討論会の場で彼はいつも居心地が悪そうにしていた。
ヤンは有権者へ向けて「我が国は、この国史上最大の経済とテクノロジーの変革期の3イニング目に入っている」と主張した。2016年にトランプが勝利したのは、米中西部の400万人の仕事がオートメーション化によって奪われた結果だ、と彼は言う。さらに今後数年から数十年の内に、ファストフード、運送業、小売業などでさらに多くの仕事がオートメーション化されることが予想されるにもかかわらず、米国民は全く準備ができていない、と警告した。
「気候変動の事実を伝えたければ、アラスカの氷河で起きていることを見せればよい」とヤンは言う。「テクノロジーとオートメーション化が経済に与える影響を知りたければ、ヤングスタウン、デトロイト、クリーブランドやセントルイスを訪れるべきだ」
「派閥政治とは大きくかけ離れた新たなムーブメント」
彼が最も重視した政策理念は、自由の配当(Freedom Dividend)と名付けた最低所得保障制度で、希望する米国の全ての成人に月1000ドル(約11万円)の収入を保障する政策案だった。最低所得を保障することで、オートメーション化やAIの導入によって仕事を奪われた人々に新たなキャリアへの道を開き、職業の再トレーニングの受講を可能とし、彼らのクリエイティブな側面を引き出し、居住する地域により多くのお金を落とすことにつながるだろう。ヤンはよく、行く先々で地元の成人人口に1000ドルを掛けて地域に新たに落ちる金額を算出し、最低所得保障政策による相乗効果をアピールして回った。
アイオワとニューハンプシャーにおけるヤンのパフォーマンスが迫力不足だったことを考えれば、彼の提唱する自由の分配政策が選挙戦のキーとなる両州の民主党員から共感を得られなかったのもうなずける。しかし彼の選挙事務所が独自に実施した調査によると、ヤンに投票したかどうかは別として、彼の集会の参加者やSNSのフォロワーの間では、間もなくやって来るテクノロジーの変革の大きな波に備えて今から準備を始めるべきだという認識が広まっているという。「テクノロジーに自分の仕事を奪われるかもしれない、などという主張は大胆不敵です。明日は我が身かもしれません。
元キャンペーンスタッフのディラン・エンライトによると、2020年のヤンの選挙キャンペーンが終了するまでに、全米で約350のヤン・ギャングのグループが立ち上がったという。エンライトは後に非営利団体インカム・ムーブメントを設立し、最低所得保障制度の実現を訴えている。ヤン・ギャング・グループのメンバーは、電話やメールや戸別訪問でヤンへの支援を呼びかけた。また、ヤンの「ヒューマニティ第一主義」に基づく地域ボランティア活動も展開した。
「アンドリューにとっては、口火を切って問題提起することが大切なのです。派閥政治とは大きくかけ離れた新たなムーブメントです」と、ヤンの選挙キャンペーンチーフを務めるニック・ライアンは言う。
あらゆる点から考えて、ヤンはスポットライトから遠のく気は無いようだ。ローリングストーン誌が最初に伝えた通り、ヤンは既に2024年の選挙戦を目指している。ニューハンプシャー州での予備選を数日後に控えたある日、ヤンは電話会議でキャンペーンスタッフに語りかけた。「火曜日(予備選の日)に我々が多くの票を獲得し、4年後にもまたこの場に戻ってくる姿を想像してみてください。ニューハンプシャーで土台を築き、次の機会に我々が得る全てのものを加えれば、より良いポジションからゴールを目指せるでしょう。
NPO団体インカム・ムーブメントは、ヤン・ギャングのメンバーやその他の支援者と共に、最低所得保障制度の実現に向けて活動を続けたいと考えている。「米国の有権者と国民は、ひとつのソリューションとして最低所得保障制度への理解を深めつつあります」とキャンペーンチーフのニック・ライアンは言う。
ライアンは、ヤンがこれからどのような活動を展開していくかについて詳しく語らなかったが、間もなく明らかになるだろう。「来週また確認してください」とライアンは言った。

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