ラーズ・ウルリッヒは難しい問題に直面した。今週セールスフォース・ドットコム社CEOマーク・ベニオフに炉辺談話のゲストとして招待されたときのことだ。ベニオフが音楽関係者をゲストに招くと最後に1曲プレイするのが定番で、これがセールスフォースのソーシャルメディア・チャンネルで公開されることになっている。ところがメタリカのドラマーはアイデアが浮かばなかった。「だって『ドラム・ソロなんて聞きたかねぇよ』って感じだったから。あそこはそういうプレイをする場所じゃないってことだよ」と、ウルリッヒは笑いながらローリングストーン誌に話した。考えあぐねた彼に閃きが降りてきた。
現在、ニューヨーク大学に通っているウルリッヒの息子マイルスとレインは、新型コロナウイルスのパンデミックによる閉鎖で学期末まで自宅に戻っていて、帰省後は(サンフランシスコの)ベイエリアにある自宅のジャムルームで楽器を鳴らしている。そこでウルリッヒは子どもたちに「レコーディングしたくないか?」と聞いてみた。すると、二人きりでベースとドラムをプレイし始めて、30分後に父親を部屋に入れた。
「二人が弾いてみせたのは、ぶっ飛んだブルー・チアーばりのクレイジーなガレージロック風『エリナー・リグビー』だった」と、目を輝かせながら言ってラーズは続けた。「これまでも『エリナー・リグビー』のカバーで素晴らしいバージョンはいくつかあったが、こういうサウンドで、こういうフィールで、こういうエネルギーで、こういう狂気でプレイされたバージョンは前代未聞だって思う。
●【動画を見る】ラーズ・ウルリッヒの息子たちによる爆音カバー
メタリカのドラマーは撮影監督の帽子を被り、息子二人のノイジーなビートルズ・カバーを撮影した。「俺は部屋の片隅に立って撮影しながら『おいおい、マジかよ!』と驚いたね」と、ウルリッヒはその時の状況を説明した。
息子たちがこの曲を選んだ理由も、どうやってあれほど自由奔放な演奏に行き着いたのかも見当がつかないとウルリッヒは言う。そして「息子たちの世代の子どもはマルチインストゥルメンタリストなんだ」と教えてくれた。21歳のマイルスは長年ドラムを学び続ける一方で、クラリネットとギターも演奏していてバークリー音楽大学で2年間学んでいる。「自宅のあちこちにアコースティック・ギターやベースが転がっているから、いつでもギターを持ってジャムできるんだ」とウルリッヒが言うと、「キッチンや居間にギターがあるって最高だよ」とレイン。彼は来週19歳の誕生日を迎えるニューヨーク大の1年生で、カバー動画ではベース担当だが、ベースだけでなくギターも弾く。
彼らが子供の頃、学校に送り迎えする車の中で父親が流した音楽が二人のテイストを作り上げた。車で流れた音楽はAC/DC、ディープ・パープル、ブラック・サバス、ガンズ・アンド・ローゼズ、レイジ・アゲインスト・ザ・マシーン、システム・オブ・ア・ダウン等々。「車に乗ると好きなだけ好きな音楽を聞くことができるし、ドアがロックされているから子どもたちは逃げられない」と言いながらラーズが笑う。しかし、彼は子どもたちが音楽の趣味を広げていった様子に感心したらしい。マイルスはジャズ・フュージョンとプログレを好み、マハヴィシュヌ・オーケストラ、ウェザー・リポート、ハービー・ハンコック、リターン・トゥ・フォーエヴァーのレニー・ホワイトなどが好きで、レインはスタンリー・クラークなどを真剣に聞いていると言う。
「俺が息子たちの年頃だったとき、自分の音楽テイストは文字通り1センチくらいの幅しかなかった。19歳の俺が聞いていたのはブリティッシュ・ヘヴィ・メタルのニュー・ウェイヴばかりだったね。でも息子たちはもっとたくさんのジャンルをカバーしている。それに二人ともレディオヘッドの大ファンだ。アークティック・モンキーズもよく聞いているし、間違いなくノイズロックが大好物だし、ホワイト・ストライプス、ジャック・ホワイト、パンク色の強いものもよく聴いているようだ」とウルリッヒ。
そして、「ジェイムズ(・ヘットフィールド)と俺が19の頃なんて、自分たちが聞いている音楽以外は『はぁ?』って感じで、知りたくもなかったな。聞く音楽の幅が少しずつ広がり始めたのはクリフ・バートンとカーク(・ハメット)と知り合ったあとだったよ」と付け加えた。
ついでにマイルスとレインがメタリカ・ファンかと聞いてみると、ラーズは笑いながら「二人を”ファン”と言えるかはわからないけど、リスペクトはしているようだね。理解しているようだし……その点で十分に”ファン”と言えるんじゃないかな」と答えた。
息子たちの動画でウルリッヒが一番誇らしいのが二人のエネルギーだ。彼は二人の演奏にストゥージーズやMC5のワイルドな奔放さに通じるものを感じ取っており、二人の今後の能力に期待すると言う。そして「彼らの演奏の中にある狂気と予測不能さはどんどん消えていくという感じがするね。