12月17日、WONK擁するレーベル「EPISTROPH」によるイベント『EPISTROPH SESSIONS』が東京・人見記念講堂で開催された。

【画像を見る】「EPISTROPH SESSIONS」ライブ写真(全31点:記事未掲載カット多数)

これまでに『WONKs Playhouse』として幅広いゲストを迎えたイベントを過去3回行い(2020年はコロナ禍の影響により中止)、堀込泰行、iri、m-floChara、冨田ラボ、Vaundy、さらには楽曲でコラボレーションをしている香取慎吾といった多彩な面々が参加してきたが、今年は初めてレーベル名を掲げる形での開催となった。
年代やジャンル、オーバーグラウンドとアンダーグラウンドを繋ぐハブとしてのレーベルの価値を証明するとともに、WONKにとっては「原点回帰」的な側面の強かった2022年を締め括る一夜にもなったはずだ。

WONK擁するレーベルの一大企画、セッションの喜びに満ちた「EPISTROPH SESSIONS」を総括

社長(SOIL &”PIMP”SESSIONS)(Photo by 木原隆裕)

WONK擁するレーベルの一大企画、セッションの喜びに満ちた「EPISTROPH SESSIONS」を総括

kiki vivi lily(Photo by Kosuke Ito)

WONK擁するレーベルの一大企画、セッションの喜びに満ちた「EPISTROPH SESSIONS」を総括

kiki vivi lily(Photo by Kosuke Ito)

会場内に入ると、ドラムセット3台がずらりと横に並び、頭上にミラーボールが輝くインパクト大のステージがまず目に飛び込んでくる。そのステージ後方に設置されたブースでの社長(SOIL &”PIMP”SESSIONS)によるDJプレイを経て、ライブはkiki vivi lilyからスタート。「AM0:52」で甘さとエモーションの同居した歌声を聴かせると、「Blue in Green」ではサックスのMELRAWと掛け合いを見せ、ライブアレンジされた「Waste No Time」ではバンドメンバーによるソロ回しから手拍子でオーディエンスとの一体感を生み出していく。最後に「80denier」をしっとりと届け、イベントのトップバッターを堂々務め上げた。

WONK擁するレーベルの一大企画、セッションの喜びに満ちた「EPISTROPH SESSIONS」を総括

MELRAW(Photo by Kosuke Ito)

WONK擁するレーベルの一大企画、セッションの喜びに満ちた「EPISTROPH SESSIONS」を総括

MELRAW(Photo by Kosuke Ito)

不穏なSEが場内に流れる中、次のバンドメンバーがステージ上に揃うと、最後に勢いよくステージに飛び出してきたのはMELRAW。小川翔によるヘヴィなギターが印象的な「OBSCURE」、途中までは7拍子で進み、途中からやはり歪んだギターとともにハードロック的な展開に突入する「With You」の2曲は、もともとBzファンで自らもギタリストであるMELRAWのロックマインドを強く感じさせるもの。ピンスポットを浴びながら優美なサックスソロを聴かせ、途中から小川がフュージョン風のギターソロを聴かせる「The Lights」では、最後にステージに寝転がりながらサックスを吹く熱演ぶりだ。途中のメンバー紹介では、小川を指して「俺とはゆずかBzの関係」と話したが、このハードなステージから連想するのはやはりBz。「WONKs Playhouse」時代も含め、一アーティストとして出演したのは今年が初めてということもあり、「EPISTROPH」の看板を背負っての気合い入りまくりのステージは何とも痛快だった。

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「Table Beats Session」(Photo by Kosuke Ito)

ここでバンドの演奏は一休み。DJブースにPhennel Koliander、dhrma、Ballheadの3人のビートメーカーが登場して、「Table Beats Session」がスタートした。
これは彼らがJazzy Sport Kyotoで不定期配信しているビートライブプログラム「Table Beats」のリアル版といった感じで、3人はSP-404を使い、それぞれ体を揺らしながらヒップホップを軸にドープなビートを次々と繰り出して、ホール内を深夜のクラブへと塗り替えた。2000年代初頭からクラブジャズとライブシーンを繋ぐ存在だったソイルの社長、同じく2000年代初頭からヒップホップを軸に幅広いダンスミュージックを世に送り出したJazzy Sport。2010年代から活動し、ジャズとヒップホップのクロスオーバーをこの国のオーバーグラウンドにまで広めたWONKのイベントにこの両者が関わるということ自体、非常に意味があることだと言える。

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WONK(Photo by Kosuke Ito)

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長塚健斗(WONK)(Photo by Kosuke Ito)

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井上幹(WONK)(Photo by Kosuke Ito)

続いて登場したWONKのこの日のモードは非常に明確で、2015年発表のデビュー作『From the Inheritance』から「Feelin You(Y.N.K)」と「ido」、同じく2016年に発表され、WONKの存在をシーンに知らしめた『Sphere』から、ゲストとして迎えられたトランぺッター・Patriq Moodyをフィーチャーした「RdNet」という初期曲3曲を披露。コロナ禍の混沌を映し出すかのようなSF大作『EYES』を経て、最新作『artless』では原点となる「4人での演奏」に回帰した今年のWONKのモードを象徴する選曲であり、とりわけ荒田洸が水を得た魚のように硬軟自在のプレイを繰り出していたのがとても印象的。「RdNet」の後半ではメンバー全員で熱量の高いセッションが繰り広げられたが、この日の会場である人見記念講堂が大学内の施設であることを思うと、もともと大学のサークルを通じて出会った彼らは、当時からこんな風に日々セッションを繰り返していたのかもしれない。

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荒田洸(WONK)(Photo by 木原隆裕)

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江﨑文武(WONK)(Photo by 木原隆裕)

豪華ゲスト陣を交えたセッションパート

ここからはWONKの4人とMELRAW、小川翔、コーラスでkiki vivi lilyも加えた7人をホストバンドに、曲ごとにゲストを迎えてのセッションパートへ。まずは今年、江﨑文武とともに『Forbes JAPAN』の「世界を変える30歳未満の30人」に選ばれているReiが登場。黄色のストラトキャスターで「My Name is Rei」のリフを奏で、巧みなMCを交えながらその場の空気を一瞬で自分のものにする統率力に痺れる。「BLACK BANANA」では途中からセッションに突入して、メンバーそれぞれがソロを聴かせつつ、Reiは座り込みながらエモーショナルにチョーキングを響かせたり、MELRAWと掛け合いをしたりといきなりのハイテンションなパーティーモード。Reiもこの日のメンバーに負けず劣らずセッション経験豊富ということもあり、早くもクライマックスのような盛り上がりを見せた。

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ReiとMELRAWの掛け合い(Photo by 木原隆裕)

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江﨑文武の演奏を見つめるRei(Photo by 木原隆裕)

続いてステージに現れたのは、ウッドベースを弾きながら歌うスタイルが特徴の石川紅奈。
ピアニスト・壺阪健登とのユニット「soraya」として今年4月に発表したファーストシングル「ひとり」を温もりのある声で歌い上げた。こうやって新しい才能と出会えるショーケース的な側面も楽しい。続いては先日King Gnuとして念願の東京ドーム公演を終えたばかりの新井和輝が登場。彼もまた学生時代からジャズのセッションを繰り返してきたベーシストであり、ともにセッションイベントを開催している荒田をはじめ、WONKメンバーやMELRAWとは旧知の仲。MELRAWが「俺と和輝的にちょっと懐かしい曲」と言って始まったのはビートルズの「Black Bird」で、おそらく過去にこの曲でのセッション経験があるのだろう。新井がエフェクティブなベースソロを披露する際に、そのときだけ同じベーシストの井上幹が見に来るというシーンは何とも微笑ましく、その後の荒田とのリズム隊でのセッションはかなりの高揚感を感じさせるものだった。

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石川紅奈(soraya)(Photo by 木原隆裕)

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新井和輝(King Gnu、写真左)(Photo by 木原隆裕)

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新井和輝の演奏を見つめる井上幹とMELRAW(Photo by 木原隆裕)

新井がステージに残ったまま、次に登場したのは黒田卓也。マイルス・デイヴィスの「Blue In Green」をトランペットとピアノトリオというこの日最小の編成で披露し、このときばかりは小さなジャズクラブのような雰囲気で、黒田のプレイを心行くまで堪能できた。そんな雰囲気から一転、「さっき成田に着いた」と紹介されたのは、ホセ・ジェイムズに扮して「ニセ・ジェイムズ」を名乗る長塚健斗で、ホセのカバー「Promise In Love」を歌唱。長塚にとってのホセ・ジェイムズはボーカリストとして多大な影響を受けた憧れの存在であり、彼のバンドメンバーでもある黒田と共演できた喜びと興奮を語る姿は無邪気な一ファンのよう。長塚にとっても、やはりこの日は原点確認の一日だ。

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黒田卓也(Photo by 木原隆裕)

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ニセ・ジェイムズ(長塚健斗)と黒田卓也が握手(Photo by 木原隆裕)

ニセ・ジェイムズよりも派手な衣装のマハラージャンが登場すると、ここからは再びパーティーモード。
「貞☆子」ではステージの上を飛び回り、「セーラ☆ムン太郎」ではギターを弾きながらソウルフルな歌声を聴かせ、場内を華やかに盛り上げる。2010年代の終わりに突如現れ、そのファンキーで洗練された音楽性と極上のポップさですぐに人気者になったマハラージャンの存在は、WONKをはじめとした同時代のバンドたちが2010年代の日本でジャズ、R&B、ヒップホップをオーバーグラウンド化させた(King Gnuもその立役者のひとつ)、その先で登場した才能と言えるが、それとは逆に90年代から同様の背景で良質な日本語のポップスを作り続けてきた先人が、次に登場したKIRINJIだと言える。kiki vivi lilyもボーカルを担当した「『あの娘は誰?』とか言わせたい」、ギターとベースのユニゾンが楽しい最新曲「Rainy Runway」、ともに貫禄のステージだった。

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マハラージャン(Photo by 木原隆裕)

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KIRINJI(Photo by 木原隆裕)

最後はこのイベントの定番曲である「Cyberspace Love」で、ゲストも含めた参加者が全員ステージに上がっての大セッション大会に突入。ヒューマンビートボクサーのBATACO、EPISTROPHの新しいロゴをデザインした佐藤卓も、シークレットゲストとしてここから参加。様々な組み合わせで、それぞれが個性豊かなプレイを聴かせてくれているので、このレポートを読んで興味を持った方はぜひ12月24日いっぱいまで視聴可能なアーカイブ映像を観てもらいたいのだが、ここでは各パートに指示を出しながら20人以上でのセッションを統率し、最後の大合唱へと導いたMELRAWにこの日のMVPを贈りたい。そして、そのMELRAWをはじめとしたレーベルの所属アーティスト個々の色を打ち出しつつ、シーンや人を繋ぐレーベルとしての色も打ち出したことに加え、何よりWONKにとってはセッションの喜びという原点を年の最後にもう一度、十分過ぎるほどに体感したことにはとても意味があったように思う。『artless』を起点とする第二章がどんな方向へと向かうのかはまだはっきりとはわからないが、この日はきっと彼らにとって大きなヒントになったはずだ。

WONK擁するレーベルの一大企画、セッションの喜びに満ちた「EPISTROPH SESSIONS」を総括

BATACO(Photo by Kosuke Ito)

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佐藤卓(写真左から2番目)(Photo by Kosuke Ito)

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パトリック・ムーディー(Photo by 木原隆裕)

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ドラムバトル(Photo by Kosuke Ito)

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「EPISTROPH SESSIONS」のフィナーレ(Photo by Kosuke Ito)

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EPISTROPH SESSIONS
2022年12月25(日)00:00までアーカイブ配信中
※購入は12月24日(土)21:00まで
視聴チケット価格:¥3,300~
詳細:https://eplus.jp/sf/detail/3746710002
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