2021年のフジロックでは初出演にしてGREEN STAGEに立つという、国内R&Bアーティストでは異例の快挙を果たしたSIRUP。2年ぶりの出演となった今回は、3日目にRED MARQUEEへ登場。
入場規制がかかるほどの満員御礼のなか、同ステージを念頭に置いた「踊らせにいく」パフォーマンスに加えて、戦争・差別・インボイス反対を掲げたMCでも大いに沸かせた。洗練されたサウンドで知られるSIRUPは、海外のトップアーティストがそうであるように、社会的メッセージを堂々と発信するスタンスでも支持を集めている。

さらに、SIRUPはいち観客としても2度目のフジロックを満喫し、そこからいろんなことを学んだという。そこで今回は、著書『世界と私のAtоZ』も話題のライターで、SIRUPの活動をサポートしてきた竹田ダニエルによるインタビューを実施。苗場から帰路につく車内で、一緒にフジロックを振り返ってもらった。(構成:上田奈津美)

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竹田:フジロックお疲れ様でした!

SIRUP:お疲れ様でした!

竹田:まず、終わってみての感想をお願いします。


SIRUP:2021年の粛々とした空気の中でステートメントを出したりだとか、賛否両論がある中のフジロック初出場からちょっと空気も変わった今年は、自分としてもそれまでに蓄積してきたチーム力も含めて爆発させたいなというテンションと、新しい空気のフジロックを楽しもうと考えていたので、それを十分出せたし、オーディエンスともシェアできたんじゃないかなと思います。言い方を変えると、本来のSIRUPをちゃんと観てもらえたんじゃないかなと。

SIRUPが振り返るフジロック 戦争・差別・インボイス反対を掲げたMCの真意


竹田:2度目のフジロック出演にあたって、「こういうメッセージを伝えたい」みたいなことは考えていた?

SIRUP:やっぱり前回フジロックに出たことを踏まえて、SIRUPとしての音楽以外の側面、社会的な側面へのメッセージみたいなところをちゃんと言えたらと思っていて。「戦争反対」とか「差別をなくしたい」っていうこと、そういったことがなくなればもっとこういう場を楽しめるというのを伝えられた。まずは第一に、やっぱりフジロックっていう空間、あんな遠いところまでみんな来てくれてありがとうって思うし、来てくれるみんなのことや、ああいった現場を俺は守りたいって思う。それと、自分の制作チームにもフリーランスとして活動している人がたくさんいるので、フリーランスの人が生きづらい世の中になるようなインボイス制度もなくしたいっていう主張は、MCで絶対しようと思っていました。


SIRUP、渾身のフジロックMC

「戦争反対!差別反対!ぜんぶ嫌い!まじで全員が平等にならないと、何の意味もないぞこんな音楽のお祭りも!一個だけ具体的なこと言っていい、インボイス反対。めっちゃフリーランスおんで?あれでしんどくなったら皆のチケット代も爆上がりすんで?」 pic.twitter.com/SW16vsRLdo— 竹田ダニエル (『世界と私のA to Z』6刷突破) (@daniel_takedaa) July 31, 2023
竹田:個人的にも、フジロックは特殊な現場だと思っていて。というのも、アーティスト自身もフェス期間中に観客として楽しめるところ。海外アーティストを含め、自分の観たいアーティストを観られる機会にもなっている。2021年はすべて日本のアーティストでしたが、今年は海外のアーティストも大勢出演しているし、海外からの観客もすごく多い印象を受けました。オーディエンスの反応についてどう思いましたか。


SIRUP:日本人の観客の方でSIRUPの単独ライブには来たことがない人も、フジロックで観てくれている感覚も改めてあったんですけど、やっぱり海外の観客が真ん中の方でめちゃくちゃ楽しそうに踊っている様子を見て、自分もなんかこう、楽しかったというか。自分が今、こうしてダンスミュージックをやってる意義を改めて感じましたね。

SIRUPが振り返るフジロック 戦争・差別・インボイス反対を掲げたMCの真意


竹田:セットリストもファンクな曲だったり踊れる曲が多くて、SIRUPの一番有名な曲「LOOP」しか知らない人にとっては意外なセットだったかもしれないし、ファンにとっては「SIRUPは踊らせにくるアーティストだから」っていうこともしっかり感じられた。フルバンドで、演出にもすごくこだわっていましたよね。

SIRUP:RED MARQUEEではLEDスクリーンが使えるということで、今回は映像にもしっかり力を入れました。武道館ライブ(昨年11月)の時にも使った過去の映像とか、新しく作ったものとかを持ってきて、フルバンドでパフォーマンスしました。
弦(ストリングス)も録音したものをツアーからそのまま持ってきたり。集大成に近いセットにしつつ、踊らせにいきたかった。そこはやっぱり、RED MARQUEEに出るというのが念頭にあったという感じですね。

竹田:RED MARQUEEは「踊らせにいく」っていうイメージ?

SIRUP:そうですね。屋内のステージで、ディスコ的な雰囲気をイメージしやすいし、そういう雰囲気を作れたらいいなと思って。

SIRUPが振り返るフジロック 戦争・差別・インボイス反対を掲げたMCの真意


竹田:たしかに。
オーディエンスが各々、自由に踊ってるのもフジロックらしさかなと思うんですよね。2021年のGREEN STAGEでは全体的にゆったりと楽しむ感じだったのに比べて、今回はクラブのノリに近いような感じもあれば、ちょっとゆったりした曲もあって、幅広く楽しめる感じになりましたよね。

SIRUP:なりました!

出演者のパフォーマンスから学んだこと

竹田:他の出演者のステージについても伺いたいです。SIRUPさんは2日目(7月29日)から会場入りして、その日は観客として楽しい、3日目は自分の出番が終わってから散策されたとのことですよね。その辺りについての感想を聞かせてください。

SIRUP:2日目に前乗りして、絶対観たかったのはキャロライン・ポラチェック
これは音楽的な話じゃなくて、もう好きすぎて「推し」みたいな感じ(笑)。マジで神様って感じでした。それから、ルイス・コールも楽しかったです。彼のこともめちゃくちゃ好きで。セッション的なノリがあったりとかして、キャロラインのショーの運びとは全然違う感じで、個人的にはルイスの方がフジっぽいなっていうふうに感じました。あと、長谷川白紙くんもしっかり観ました。彼のステージはRED MARQUEEだったんで、どんな感じかっていう(翌日の出演に向けての)予習も含めて。白紙くんは、もう最高でした。

で、自分のステージが終わった後にリゾを観たんですけど、「セルフラブ」とか「セルフケア」っていう、自分にも通じるメッセージを発信してたりだとか、すごくハッピーな印象で。そういう面があれだけ押し出されると、こんなにハッピーな音楽になるんだなと思いました。プレイもR&Bやソウル、ゴスペルな感じで、自分たちのバンドチームもみんな興奮して、かなり楽しみながら観てました。

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竹田:個人的にも、リゾを3日間の大トリにブッキングしたフジロックってすごいなと思っているんです。次の世代につなげるという意味でも大きくて、普段はリゾを聴かないような客層の人たちも、バンドの演奏だったり歌唱力といった技術で好きになってくれるだろうし。なおかつ、リゾのステージは一貫してすごくインクルーシブだった。クイアのフラッグを持ってきたり、セルフラブについて、日本で社会問題になっているような同性愛や体型の問題に対して、自己肯定感を突きつけるようなパフォーマンスなりメッセージなり、彼女自身の生き方を示してくれていた。それに救われたマイノリティも観客の中にたくさんいたと思う。

SIRUP:うんうん。

竹田:さらに、海外のアーティストが新しい価値観を持ち込んでくれるのってすごく意義があることだと思うんです。というのも、洋楽って「価値観の輸入」の役割も果たすと感じていて、例えば日本のアーティストが発言したらバックラッシュがあるようなことも、海外のアーティストが発言すると受け入れやすかったりすることがある。ポップな感覚として、言葉が直接理解できないからこそ受け入れられるってところも結構あるのかなと。彼女やバンドのパフォーマンスについて、特に印象的だったのは?

SIRUP:フルートのソロの間の掛け声がめちゃくちゃ強烈だった。「Bitch!」と言ってたんですけど、それがもうやっぱり最高の瞬間でしたね。

竹田:ところどころふざけられるくらいの余裕もすごいし、ずっと楽しめるよね。

SIRUP:うん、めちゃくちゃ良かった。あとはファンが掲げるフラッグに反応したり、サインしたりもそうだし、リゾは最初から自分たちのチームを前面に出していて、「リゾだぞ!」っていうよりは「リゾチームだぞ!」っていう見せ方をしていましたよね。そこもめちゃくちゃ良かった。チームに対してリスペクトを感じたし……。

竹田:ミュージシャンやダンサーに毎回フォーカスを当てて、ズームインしたりね。メディテーションを促す場面もありましたよね?

SIRUP:たしかに、「Bad Bitch Meditation」みたいな感じでね。個人的には、お客さんが自然にそれ(瞑想的な動き)をやってたのが面白かったというか。あとは映像の演出。LEDに、まるでネオンがあるかのような映像演出の展開がめちゃくちゃ良かったですね。あれは自分でもやりたいです。

竹田:リゾ自身のステージ上での動きと連動した映像演出もオシャレでしたよね。

SIRUP:そうそう。本当は自分もやりたかったんですけど、カメラを借りられない都合で諦めざるをえなかった。RED MARQUEEでもアーティストの表情をしっかり見たい人もいるやろうし。フロントのパフォーマンスの熱量は表情でもっと伝わるから、やっぱりああいうのをガンガン取り入れていきたいなと思いましたね。

竹田:リゾはアーティストとして「どういう影響を社会に与えたいのか」についてのメッセージをはっきり持ってる人だなってすごく思ったし、(「ジャパン」ではなく)「日本」と何度も言ったり、すごく肯定的なメッセージだったりを発信していた。ステージが始まるイントロでの、すごく長いセルフラブのメッセージにあった「自分を愛せなかったら誰も愛せない」というのをずっと伝えようとしていて。

SIRUP:最初にそれが入っているのが、個人的には斬新やなと思った。最後にそういうメッセージが出るのって結構多いじゃないですか。「まずそこから始まるんだよ、このステージは」っていう現場作りをしていたところもすごく良かったです。

竹田:あと、カーディ・Bとの曲「Rumors」の中に「ロックンロールは黒人によって作られた」っていうフレーズがあるんだけど、そのフレーズに合うようにミッシー・エリオットのメッセージを表示したり、たくさんの黒人アーティストの名前をバーって出したり、リゾへの応援メッセージだったりをテキストメッセージみたいに表示したりだとか、現代のSNSに近い……。

SIRUP:メールっぽい感じ。カーディ・Bがビデオ通話越しにラップしているのを使ったりね。あそこもめちゃくちゃ良かった。

竹田:この間、SIRUPが別のフェスに出たときのバックステージで、こういうふうに海外アーティストが来てくれることによって、日本人アーティストでは観られないようなステージと接することで、自分たちの音楽にも影響を与えると言ってましたよね。

SIRUP:そうですね。そのことについて、さっきもちょうどメンバーで喋ってたところで。あれだけデカい音を出せるんだと思ったし、自分たちが目指しているのもそういうところだから、ああいうパフォーマンスができるんだって再認識した。あと、YouTubeで見るのもいいけど、実際に体感するのってめちゃくちゃ大事。例えば日本でヒップホップ/R&Bをバンドでやるとして、それが個性になればいいけど、そのサウンドを実体験として聴いてないとあの感じは身体に入ってこないと思うので。そういう影響っていうのは日本のミュージシャンにとってもめちゃ大事だなと思いましたね。

※編注:日本時間8月2日、リゾの元ダンサー3名が、彼女とリゾの制作会社が敵対的な職場環境を作り出し、セクハラ/宗教的・人種的ハラスメント等を受けてきたとして提訴したことがに明らかに。元ダンサーたちはボディポジティビティを掲げてきたリゾに体型のことで罵倒される、性的なことを強制されるなどのパワハラ/侮辱行為があったと告発している。本記事のインタビューはフジロック3日目・7月30日深夜に実施。

フジロックが「特別」だと感じる理由

竹田:各地でツアーやフェスに出たりしている中で、「フジロックはここが特別」と感じるところはありますか?

SIRUP:やっぱりシンプルに、フジロックは日本で一番デカいフェスって感じがする。山の中っていうのもあるし、独特なムード、クローズドな感じもある。それから人選の面白さ。日本のミュージシャンもそうだけど海外アーティストもめちゃくちゃ出演していて、いろんなジャンルをしっかりピックアップしている。あとは、他のフェスより純粋に音楽を楽しみに来てるファンが多いっていうイメージがある。フジロックが提案したアーティストを許容して、存分に楽しむぞっていう気概があるように感じるんです。

竹田:たしかに。同じRED MARQUEEというステージに、きゃりーぱみゅぱみゅからジョン・キャロル・カービー、FKJ、それからSIRUPと、色々なジャンルのアーティストがパフォーマンスしているし、移動する途中で脇目にライブを見たりすることで、知らなかったアーティストと出会うきっかけにもなる。「人気だから観る」っていうだけではなく「出してる音が良いから観てみよう」みたいな。

SIRUP:あとは連日、深夜までずっとやってるのでテントに泊まったりしてる人もいるし、朝まで無料で遊べるエリアもある。そこには出演しているミュージシャンもいっぱいいて、他のミュージシャンと会えるチャンスも用意してるってことも、夜中に遊んでいて思いましたね。

SIRUPが振り返るフジロック 戦争・差別・インボイス反対を掲げたMCの真意


SIRUPが振り返るフジロック 戦争・差別・インボイス反対を掲げたMCの真意


竹田:これは良し悪しの話ではないですけど、都市型のフェスに比べて、やっぱり音楽が主役だなというのをすごく実感しました。私はアメリカのフェスもたくさん見てきたけど、コーチェラのようなメインストリームのフェスもそうだし、小規模なフェスであっても、可愛い衣装を着ていくとか写真目的で参加している人が多いんですよね。それが音楽を聴きに行く目的になるのならそれはそれで良いことだけど、フジロックに参戦する人が「音楽ガチ勢」って言われる理由がすごくわかった気がする。

SIRUP:うん。自分は(観客として)半日もいなかったけど、それでも3万歩ぐらい歩いてたし、やっぱり体力と熱意がないと、あそこまで……まず会場に行くっていうところまで辿り着けないし、苗場に来て楽しむっていうのはやっぱり、かなりの熱がありますよね。

竹田:まだいつになるかはわからないけど、次にフジロック出演するときに向けて、何か目標はありますか?

SIRUP:でっかい音を出したいですね。シンプルに、もっとでっかい音を出したい。あと、リゾを見てから、チームとしての動き方について考えたいと思った。さっきもみんなで話してたんですけど、同じ方向は向いてるけど「まだまだいけるぞ」って感じがしたので、それを次回のフジロックで体現したいなと思います。あと、自分のメッセージをちゃんと許容してくれる人たちも多いなって感じたので、いつも言っていることですが、そういった発信も続けていけたらなって思ってます。

竹田:特にリゾで感じたのは、やっぱりテーマ性。日本のアーティストの単独ライブを観に行くと、自分たちのファンとの歴史を大切にしていて、恒例でやってることがあったり、良い意味で信頼関係が築かれているけれど、フジロックだと全然やり方が違うアーティストもいっぱい出演するし、音の出し方もそれぞれ違うし、チームとしてのやり方もみんな違う。ある種の交換留学、異文化交流のような感じがあって、アーティストもオーディエンスもそういうところから学べることがあると思うので、次回のフジロックも楽しみですね。

SIRUPが振り返るフジロック 戦争・差別・インボイス反対を掲げたMCの真意