稲葉浩志が『tiny desk concerts JAPAN』に登場。本日9月30日、NHK総合(23:00~23:29放送)とNHK WORLD JAPAN(国際放送)で放送される。
『tiny desk concerts』とは、アメリカの公共放送NPR(National Public Radio)が2008年にインターネットでスタートさせた音楽コンテンツ。アーティストたちは文字通り「NPRオフィスの小さな机」でパフォーマンスをし、その斬新なコンセプトから生まれたオーガニックなサウンドと親密な雰囲気で瞬く間に全米の人気コンテンツに成長。パンデミックを経てその人気が全世界に飛び火すると、今やそのラインナップにはテイラー・スウィフトからBTSに至る世界のビッグネームがずらりと並び、日本のアーティストにとっても憧れのプラットフォームとなっている。
そのNPRからライセンス供与を受け、NHKが日本のアーティストで制作をスタートさせたのが『tiny desk concerts JAPAN』。NHK総合/NHK WORLD JAPANで3月に放送された日本版の初回には、日産スタジアムで行われた先日のライブも記憶に新しい藤井 風が登場し、そのパフォーマンスは国内外から大きな注目を集め、YouTubeのNPR公式チャンネルで公開されたパフォーマンス動画はすでに1000万回再生を突破した。その後、5月から国際放送でレギュラー放送がスタートすると、KIRINJI、君島大空、yama、チャラン・ポ・ランタンと、それぞれ独自の個性を持つアーティストが出演し、評判を呼んできた。
そして、9月から『tiny desk concerts JAPAN』がNHK総合でのレギュラー放送を開始するにあたり、最初の出演者となったのが稲葉浩志。言わずと知れた日本を代表するトップアーティスト・Bzのボーカリストであり、デビュー35周年を過ぎた今も止まることなく走り続け、ソロとしても今年リリースの最新作『只者』まで6枚のアルバムを発表。9月23日に還暦の誕生日を迎えた今も衰えることを知らないパワフルな歌声を聴かせ、リスナーとアーティスト双方からのリスペクトを受け続けている。
また、『tiny desk concerts JAPAN』には「日本のアーティストを世界に発信する」という目的もあり、その意味でも稲葉の起用はぴったりだ。Bzとしては2007年に日本・アジア圏のミュージシャンとして初めてハリウッド・ロック・ウォークに殿堂入りを果たし、エアロスミスやリンキン・パークといった海外の大物ミュージシャンとも交流。その実績は申し分なく、記念すべき『tiny desk concerts JAPAN』のNHK総合初回放送にこれ以上の人選はないと言っていいだろう。
では、ここからは実際の収録の模様をレポートしていこう。
※以下、ネタバレあり
【#tinydeskconcertsJAPAN 】
総合で放送開始!
レギュラー初回アーティストは…
#稲葉浩志
日本音楽界のレジェンド 降臨。
唯一無二のヴォーカルを届ける
9/30(月)23:00~NHK総合
9/30(月)0:10~他 NHK WORLD‐JAPAN※日曜深夜https://t.co/DOgC22tej5 pic.twitter.com/aGI5xb0I9b— NHK MUSIC (@nhk_musicjp) September 23, 2024
舞台はNHKエンターテインメント番組のフロアの一角に作られた、幅3メートル×奥行き3.4メートルの小さなスペース。収録開始の時間が近づくにつれて徐々にオーディエンス(NHK職員)が集まり、最終的にその数はざっと見で150人くらいはいただろうか。収録の前には番組のチーフ・プロデューサーから「私たちは『tiny desk concerts』を『ライブ・ドキュメント』と呼んでいます。ここで起きる一部始終を撮って、世界で放送しています。ということはつまり、観客のみなさんも出演者ということになります」との言葉が伝えられた。
いよいよ収録の時間となり、稲葉とサポートメンバーの登場に拍手と歓声が起こると、簡単なサウンドチェックを済ませ、再びチーフ・プロデューサーからの挨拶が。「この番組はすでに国際放送で放送させてもらっているのですが、9月からは総合テレビでスタートします。その第一回目に、このスーパースターが来てくださいました。しかも、この番組のためだけにアレンジを組み立ててくれた、スペシャルなセットリストです」「それでは改めて、スタートをコールしたいと思います。『tiny desk concerts JAPAN』、稲葉浩志!」。
1曲目を飾ったのは、1997年発表の初のソロアルバム『マグマ』に収録されている「眠れないのは誰のせい」。稲葉は6月から8月まで全国ツアー「Koshi Inaba LIVE 2024 ~enⅣ~」を行っていて、この日のサポートであるDURAN(Gt)、徳永暁人(Ba)、サム・ポマンティ(Key)、シェーン・ガラース(Dr)の4人はツアーにも参加していたメンバー(なお、DURANは藤井 風の回にも参加しているので、早くも『tiny desk』2度目の出演となった)。しかし、「眠れないのは誰のせい」は「enⅣ」では一度も演奏されておらず、まさに『tiny desk』のためのスペシャルな一曲だと言えよう。
徳永の弾くウッドベースのループを基調としたリズムに乗って、稲葉は両手を胸の前で組んで歌い始める。『tiny desk』の音響面の一番の特徴は「マイクを使わない」ということであり、生声での歌唱、モニターも一切なしという環境は当然通常のライブとは大きく異なるもの。最初はそのフィーリングを確認するように歌い、その意味でももともと音数の少ない「眠れないのは誰のせい」は意味のある選曲だったのだろう。徐々にファルセットも絡めながらより自由に歌われたその歌声は、決してパワフルなだけではなく、非常に繊細でありながら、その上でやはりずしりとした太さと芯を感じさせる。この歌声を生で、数メートルの距離で聴くことができるというのは、なんとも贅沢な体験だ。
「こんな素敵な時間が待っているとは」
2曲目も同じく『マグマ』に収録の「くちびる」で、原曲はワウギターの効いたロックナンバーだが、この日はエレピとともにしっとりとしたアレンジで聴かせ、サビ前の吐息が生々しくセクシー。「オフィスでやるということで、昨日下見に来たんですけど……ガチオフィスですね。こんなにNHKの人に見られることもないので、圧倒的な圧を感じます(笑)」と和やかなトークを交えつつ、3曲目はミドルバラードの「BLEED」。稲葉はアコギを弾き、DURANもテレキャスターを指で弾いている。
【#tinydeskconcertsJAPAN 】
━━━━━━━━━━━━━━
総合テレビ レギュラー初回に
日本音楽界のレジェンド #稲葉浩志 登場
最強のツアーメンバーを率いての
パフォーマンスをお楽しみに!
9/30(月)23:00~NHK総合https://t.co/xwzMz8Mv3a#TinyDesk
くちびる 一部を先行公開 pic.twitter.com/aFKCfUZV5r— NHK MUSIC (@nhk_musicjp) September 27, 2024
イントロで稲葉がブルースハープを演奏した「ブラックホール」は、自らを「何者でもない普通の人=只者」と自覚し、自身の内面と向き合って制作された『只者』を象徴する一曲。”暗闇を見つめた 穴があくほど””本当のところ私は 何にでもなれたはずなんだよ ただ迷子になったそれだけのこと”と、目を瞑り、手を組んで歌う姿はまさに自らの内側をジッと見つめているかのようであり、息をするのも忘れるような緊迫した空気が流れる。しかし、曲のラストでは一気にテンポアップし、場内には手拍子が起きて、稲葉もまた膝を叩きながらクルクルと回転し、その姿からは内側の暗闇を一気に解放するかのようなカタルシスが感じられた。
「お仕事は大丈夫ですか?」とにこやかにオーディエンスに語りかけつつ、「いろんな会場でコンサートをやってるんですけど、まだこんなスタイルがあったのかって、人間ってすごいなと思いました」と話し、5曲目の「YELLOW」からは稲葉も立ち上がって、イントロの時点で手拍子が起こる。音量こそ小さいものの、パフォーマンスの熱量自体は高く、その盛り上がりはまるで通常のライブのような雰囲気で、ラストに控えめなジャンプを決めるとフロアは大歓声に包まれた。そして、「すごく素敵な時間なので、他の人にはやらせないでください」と笑うと、最後に演奏されたのは「羽」。ウッドベースとピアノによるイントロとともにメンバーを紹介し、「我々はこの夏ずっとツアーをやってきましたけど、ツアーの後にこんな素敵な時間が待っているとは思いませんでした」と日本語と英語の両方で語ると、途中からリズムが4つ打ちへと変化し、再びフロアには手拍子が溢れ、ラストは”君を忘れない”のシャウトでライブが締め括られた。
9/30(月)23時~
総合テレビでレギュラー放送スタート
【#tinydeskconcertsJAPAN 】
/
初回アーティスト#稲葉浩志 収録後インタビュー
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本番直後の想い
レジェンドが感じた「不安」と「楽しさ」
最強のツアーメンバーとのパフォーマンス
お楽しみに!#TinyDeskhttps://t.co/bZI6C2gd80 pic.twitter.com/qLX5ZEdQEx— NHK MUSIC (@nhk_musicjp) September 27, 2024
収録後の囲み取材で、「日本人の音楽を世界に届ける」ことについて問われた稲葉は「特別な重責は持ってないですけど、今は英語じゃなくても、自分たちの言語で音源を作って、それを届けることが昔よりもスムーズというか、可能性が広がっているので、自分たちもそういうものの一部として見つけてもらって、面白がってもらえれば最高ですね」と答えた。なお、「羽」のオリジナル音源にはBzよりも先に世界に進出して、アルバムがビルボードトップ100に入り、モトリー・クルーのオープニングとして日本人アーティストとして初めてマディソン・スクエア・ガーデンに立ったLOUDNESSの高崎晃がギターで参加している。”全てはスタイル 飛び方次第 代わりは誰にもやらすな””違う場所見てみましょう まるで知らないことだらけ”と歌う「羽」は、これから日本を飛び立って世界で活躍するすべてのアーティストへのエールのようにも聴こえた。
NPRスタッフが語る『tiny desk concerts JAPAN』
稲葉のライブの収録後、本国アメリカより見学に訪れていたNPRのキース・ジェンキンス氏とゴードン・シン氏に話を聞くことができた。
—まずは今日の収録をご覧になった感想を聞かせてください。
キース:素晴らしかったです。確固たる地位を築いたアーティストでありながら、『tiny desk』の美学を理解した稲葉さんだからこそ成し遂げられたのだと思います。
ゴードン:稲葉さん率いるバンドのエネルギーが全方面から伝わってきました。みなさんも肌で感じたかと思います。私たちは彼らのリハーサルも見学していましたが、本番のパフォーマンスが始まった途端、エネルギーのスイッチが入ったと確信しました。彼は音楽でコミュニケーションを取り、オーディエンスを楽しませ、強いつながりを築いていると感じました。誰もが「私にだけ話しかけてくれている」ような感覚に包まれたのではないでしょうか。素晴らしかったです。NHKチームに祝福を送ります。
—実際の収録に立ち会ったのは今回が2回目とのことですが、これまでの日本版の過去回の中で特に印象的だった回、アーティストがいれば教えてください。
キース:実際にライブを観たことも影響していますが、正直な意見として、藤井さんは世界中のアーティストと比較しても群を抜いて素晴らしかったです。私たちのプラットフォームの複雑さを逆手にとって、最大限に使いこなしていました。彼のパフォーマンスは世界中の人々と共鳴したことでしょう。それから回を重ねるにつれて感じたのは、映像や音響プロダクションの進化です。私たちが始めたばかりの頃を少しばかり思い出させてくれました。誰かがオフィスにやってきてはギターを演奏するだけだったものが繰り返しの中で成長していき、ある時、ふと「これが『tiny desk』だ」と気づいたのです。NHKは私たちと同じプロセスを辿りながら、同時に加速させ、あっという間に形にしました。今日のパフォーマンスは、まさにそれらすべての結実を象徴していたのではないでしょうか。稲葉さん自身が楽しんでいたことも一つの大きな要因でしょうね。完璧な例でした。
ゴードン:私たちはすべてのアーティストに称賛を送りたいと思っています。
—日本版に先立って、昨年10月からは『Tiny Desk Korea』がスタートしています。アジアの音楽の魅力、可能性についてはどう思われていますか?
ゴードン:アジア人アーティストたちのポテンシャルは無限大であり、それは大変喜ばしいことだと思っています。韓国の音楽やカルチャーの人気の波に乗りスタートさせた『Tiny Desk Korea』は、『tiny desk』をグローバルにローンチする絶好の機会でもあり、戦略的に進められました。グローバル展開はNPRにとっても新しいプロジェクトでしたので、確実に成功させる必要があったのです。今や韓国人アーティストの人気は計り知れません。韓国語というだけで注目されるのですから。私は韓国系アメリカ人なのですが、近年アメリカでは韓国にルーツを持たなくても、韓国の音楽が好きだからという理由で僕より流暢な韓国語を話す人が多くいます。この状況には驚くばかりであると同時に、もっと韓国語を勉強しなきゃと周囲からプレッシャーをかけられている心地です(笑)。それはさておき、アーティスト自身を上手く昇華した演出や作品のクオリティが人々の共感を呼び、ファンとの結びつきを築き上げているのは誰の目にも明らかでしょう。そういった芸術的センスと表現から、可能性は無限大だと思っています。
—今後の『tiny desk concerts JAPAN』にはどのような発展を期待していますか?
キース:世界中に日本人アーティストを広めるだけではなく、今までにないコンサートのスタイルを提示するという点においても、『tiny desk concerts JAPAN』を成功させたいと思っていて、ここで成功の鍵になるのは、近年の音楽業界から失われつつある「親密さ」だと思っています。きれいに処理されたサウンド、大きなスタジアムでのライブが目立ち、小さなクラブは年々少なくなっています。私たちの取り組みが何かムーブメントを起こす着火剤になれば、それは光栄なことです。もう一つ、『tiny desk』は新たな発見を追求していくというより、継続的なプロジェクトだと私たちは捉えています。日本人アーティストで言うと、これまでに上原ひろみ、Cornelius、おとぼけビ~バ~にアメリカの『tiny desk』でパフォーマンスを披露していただきました。私たちはかねてより日本人アーティストを発信をしてきましたが、今回大きな転機となったのはNHKとのパートナーシップで、共通の美学を掲げ、道を共にする彼らとパートナーを組むことは容易な決断でした。今後は日本の『tiny desk concerts JAPAN』とアメリカの『tiny desk concerts』という異なる二つのプラットフォームを通して、さらなる音楽体験を発信していきたいと考えています。
◎放送予定
<総合>
9月30日(月)23:00~23:29
<NHK WORLD JAPAN (国際放送)>
9月30日(月)0:10~、5:10~、12:30~、18:30~
※アプリでもご覧いただけます。ダウンロードサイト https://www3.nhk.or.jp/nhkworld/en/app
tiny desk concerts JAPAN
https://www3.nhk.or.jp/nhkworld/en/shows/tinydeskconcerts/
『tiny desk concerts』とは、アメリカの公共放送NPR(National Public Radio)が2008年にインターネットでスタートさせた音楽コンテンツ。アーティストたちは文字通り「NPRオフィスの小さな机」でパフォーマンスをし、その斬新なコンセプトから生まれたオーガニックなサウンドと親密な雰囲気で瞬く間に全米の人気コンテンツに成長。パンデミックを経てその人気が全世界に飛び火すると、今やそのラインナップにはテイラー・スウィフトからBTSに至る世界のビッグネームがずらりと並び、日本のアーティストにとっても憧れのプラットフォームとなっている。
そのNPRからライセンス供与を受け、NHKが日本のアーティストで制作をスタートさせたのが『tiny desk concerts JAPAN』。NHK総合/NHK WORLD JAPANで3月に放送された日本版の初回には、日産スタジアムで行われた先日のライブも記憶に新しい藤井 風が登場し、そのパフォーマンスは国内外から大きな注目を集め、YouTubeのNPR公式チャンネルで公開されたパフォーマンス動画はすでに1000万回再生を突破した。その後、5月から国際放送でレギュラー放送がスタートすると、KIRINJI、君島大空、yama、チャラン・ポ・ランタンと、それぞれ独自の個性を持つアーティストが出演し、評判を呼んできた。
そして、9月から『tiny desk concerts JAPAN』がNHK総合でのレギュラー放送を開始するにあたり、最初の出演者となったのが稲葉浩志。言わずと知れた日本を代表するトップアーティスト・Bzのボーカリストであり、デビュー35周年を過ぎた今も止まることなく走り続け、ソロとしても今年リリースの最新作『只者』まで6枚のアルバムを発表。9月23日に還暦の誕生日を迎えた今も衰えることを知らないパワフルな歌声を聴かせ、リスナーとアーティスト双方からのリスペクトを受け続けている。
また、『tiny desk concerts JAPAN』には「日本のアーティストを世界に発信する」という目的もあり、その意味でも稲葉の起用はぴったりだ。Bzとしては2007年に日本・アジア圏のミュージシャンとして初めてハリウッド・ロック・ウォークに殿堂入りを果たし、エアロスミスやリンキン・パークといった海外の大物ミュージシャンとも交流。その実績は申し分なく、記念すべき『tiny desk concerts JAPAN』のNHK総合初回放送にこれ以上の人選はないと言っていいだろう。
では、ここからは実際の収録の模様をレポートしていこう。
※以下、ネタバレあり
【#tinydeskconcertsJAPAN 】
総合で放送開始!
レギュラー初回アーティストは…
#稲葉浩志
日本音楽界のレジェンド 降臨。
唯一無二のヴォーカルを届ける
9/30(月)23:00~NHK総合
9/30(月)0:10~他 NHK WORLD‐JAPAN※日曜深夜https://t.co/DOgC22tej5 pic.twitter.com/aGI5xb0I9b— NHK MUSIC (@nhk_musicjp) September 23, 2024
舞台はNHKエンターテインメント番組のフロアの一角に作られた、幅3メートル×奥行き3.4メートルの小さなスペース。収録開始の時間が近づくにつれて徐々にオーディエンス(NHK職員)が集まり、最終的にその数はざっと見で150人くらいはいただろうか。収録の前には番組のチーフ・プロデューサーから「私たちは『tiny desk concerts』を『ライブ・ドキュメント』と呼んでいます。ここで起きる一部始終を撮って、世界で放送しています。ということはつまり、観客のみなさんも出演者ということになります」との言葉が伝えられた。
いよいよ収録の時間となり、稲葉とサポートメンバーの登場に拍手と歓声が起こると、簡単なサウンドチェックを済ませ、再びチーフ・プロデューサーからの挨拶が。「この番組はすでに国際放送で放送させてもらっているのですが、9月からは総合テレビでスタートします。その第一回目に、このスーパースターが来てくださいました。しかも、この番組のためだけにアレンジを組み立ててくれた、スペシャルなセットリストです」「それでは改めて、スタートをコールしたいと思います。『tiny desk concerts JAPAN』、稲葉浩志!」。
1曲目を飾ったのは、1997年発表の初のソロアルバム『マグマ』に収録されている「眠れないのは誰のせい」。稲葉は6月から8月まで全国ツアー「Koshi Inaba LIVE 2024 ~enⅣ~」を行っていて、この日のサポートであるDURAN(Gt)、徳永暁人(Ba)、サム・ポマンティ(Key)、シェーン・ガラース(Dr)の4人はツアーにも参加していたメンバー(なお、DURANは藤井 風の回にも参加しているので、早くも『tiny desk』2度目の出演となった)。しかし、「眠れないのは誰のせい」は「enⅣ」では一度も演奏されておらず、まさに『tiny desk』のためのスペシャルな一曲だと言えよう。
徳永の弾くウッドベースのループを基調としたリズムに乗って、稲葉は両手を胸の前で組んで歌い始める。『tiny desk』の音響面の一番の特徴は「マイクを使わない」ということであり、生声での歌唱、モニターも一切なしという環境は当然通常のライブとは大きく異なるもの。最初はそのフィーリングを確認するように歌い、その意味でももともと音数の少ない「眠れないのは誰のせい」は意味のある選曲だったのだろう。徐々にファルセットも絡めながらより自由に歌われたその歌声は、決してパワフルなだけではなく、非常に繊細でありながら、その上でやはりずしりとした太さと芯を感じさせる。この歌声を生で、数メートルの距離で聴くことができるというのは、なんとも贅沢な体験だ。
「こんな素敵な時間が待っているとは」
2曲目も同じく『マグマ』に収録の「くちびる」で、原曲はワウギターの効いたロックナンバーだが、この日はエレピとともにしっとりとしたアレンジで聴かせ、サビ前の吐息が生々しくセクシー。「オフィスでやるということで、昨日下見に来たんですけど……ガチオフィスですね。こんなにNHKの人に見られることもないので、圧倒的な圧を感じます(笑)」と和やかなトークを交えつつ、3曲目はミドルバラードの「BLEED」。稲葉はアコギを弾き、DURANもテレキャスターを指で弾いている。
また、間奏では徳永とシェーンがお互いを見ながら笑顔で演奏し、一回限りの特別なセッションを楽しんでいることが伝わってくる。
【#tinydeskconcertsJAPAN 】
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総合テレビ レギュラー初回に
日本音楽界のレジェンド #稲葉浩志 登場
最強のツアーメンバーを率いての
パフォーマンスをお楽しみに!
9/30(月)23:00~NHK総合https://t.co/xwzMz8Mv3a#TinyDesk
くちびる 一部を先行公開 pic.twitter.com/aFKCfUZV5r— NHK MUSIC (@nhk_musicjp) September 27, 2024
イントロで稲葉がブルースハープを演奏した「ブラックホール」は、自らを「何者でもない普通の人=只者」と自覚し、自身の内面と向き合って制作された『只者』を象徴する一曲。”暗闇を見つめた 穴があくほど””本当のところ私は 何にでもなれたはずなんだよ ただ迷子になったそれだけのこと”と、目を瞑り、手を組んで歌う姿はまさに自らの内側をジッと見つめているかのようであり、息をするのも忘れるような緊迫した空気が流れる。しかし、曲のラストでは一気にテンポアップし、場内には手拍子が起きて、稲葉もまた膝を叩きながらクルクルと回転し、その姿からは内側の暗闇を一気に解放するかのようなカタルシスが感じられた。
「お仕事は大丈夫ですか?」とにこやかにオーディエンスに語りかけつつ、「いろんな会場でコンサートをやってるんですけど、まだこんなスタイルがあったのかって、人間ってすごいなと思いました」と話し、5曲目の「YELLOW」からは稲葉も立ち上がって、イントロの時点で手拍子が起こる。音量こそ小さいものの、パフォーマンスの熱量自体は高く、その盛り上がりはまるで通常のライブのような雰囲気で、ラストに控えめなジャンプを決めるとフロアは大歓声に包まれた。そして、「すごく素敵な時間なので、他の人にはやらせないでください」と笑うと、最後に演奏されたのは「羽」。ウッドベースとピアノによるイントロとともにメンバーを紹介し、「我々はこの夏ずっとツアーをやってきましたけど、ツアーの後にこんな素敵な時間が待っているとは思いませんでした」と日本語と英語の両方で語ると、途中からリズムが4つ打ちへと変化し、再びフロアには手拍子が溢れ、ラストは”君を忘れない”のシャウトでライブが締め括られた。
9/30(月)23時~
総合テレビでレギュラー放送スタート
【#tinydeskconcertsJAPAN 】
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初回アーティスト#稲葉浩志 収録後インタビュー
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本番直後の想い
レジェンドが感じた「不安」と「楽しさ」
最強のツアーメンバーとのパフォーマンス
お楽しみに!#TinyDeskhttps://t.co/bZI6C2gd80 pic.twitter.com/qLX5ZEdQEx— NHK MUSIC (@nhk_musicjp) September 27, 2024
収録後の囲み取材で、「日本人の音楽を世界に届ける」ことについて問われた稲葉は「特別な重責は持ってないですけど、今は英語じゃなくても、自分たちの言語で音源を作って、それを届けることが昔よりもスムーズというか、可能性が広がっているので、自分たちもそういうものの一部として見つけてもらって、面白がってもらえれば最高ですね」と答えた。なお、「羽」のオリジナル音源にはBzよりも先に世界に進出して、アルバムがビルボードトップ100に入り、モトリー・クルーのオープニングとして日本人アーティストとして初めてマディソン・スクエア・ガーデンに立ったLOUDNESSの高崎晃がギターで参加している。”全てはスタイル 飛び方次第 代わりは誰にもやらすな””違う場所見てみましょう まるで知らないことだらけ”と歌う「羽」は、これから日本を飛び立って世界で活躍するすべてのアーティストへのエールのようにも聴こえた。
NPRスタッフが語る『tiny desk concerts JAPAN』
稲葉のライブの収録後、本国アメリカより見学に訪れていたNPRのキース・ジェンキンス氏とゴードン・シン氏に話を聞くことができた。
2人は藤井 風が出演した初回に続いて、2回目の見学だったとのこと。日本版に対する印象やアジアの音楽シーンについてなど、短い時間ながらNPRのスタンスが明確に伝わってくる対話となった。
—まずは今日の収録をご覧になった感想を聞かせてください。
キース:素晴らしかったです。確固たる地位を築いたアーティストでありながら、『tiny desk』の美学を理解した稲葉さんだからこそ成し遂げられたのだと思います。
ゴードン:稲葉さん率いるバンドのエネルギーが全方面から伝わってきました。みなさんも肌で感じたかと思います。私たちは彼らのリハーサルも見学していましたが、本番のパフォーマンスが始まった途端、エネルギーのスイッチが入ったと確信しました。彼は音楽でコミュニケーションを取り、オーディエンスを楽しませ、強いつながりを築いていると感じました。誰もが「私にだけ話しかけてくれている」ような感覚に包まれたのではないでしょうか。素晴らしかったです。NHKチームに祝福を送ります。
—実際の収録に立ち会ったのは今回が2回目とのことですが、これまでの日本版の過去回の中で特に印象的だった回、アーティストがいれば教えてください。
キース:実際にライブを観たことも影響していますが、正直な意見として、藤井さんは世界中のアーティストと比較しても群を抜いて素晴らしかったです。私たちのプラットフォームの複雑さを逆手にとって、最大限に使いこなしていました。彼のパフォーマンスは世界中の人々と共鳴したことでしょう。それから回を重ねるにつれて感じたのは、映像や音響プロダクションの進化です。私たちが始めたばかりの頃を少しばかり思い出させてくれました。誰かがオフィスにやってきてはギターを演奏するだけだったものが繰り返しの中で成長していき、ある時、ふと「これが『tiny desk』だ」と気づいたのです。NHKは私たちと同じプロセスを辿りながら、同時に加速させ、あっという間に形にしました。今日のパフォーマンスは、まさにそれらすべての結実を象徴していたのではないでしょうか。稲葉さん自身が楽しんでいたことも一つの大きな要因でしょうね。完璧な例でした。
ゴードン:私たちはすべてのアーティストに称賛を送りたいと思っています。
有名であろうがなかろうが、それが各々の表現としての形ですから。『tiny desk』にやってきて音楽を披露してくれるすべてのアーティストを尊重しています。なので、良し悪しを決めたくはありません。藤井さんが例に挙がったのは、やはり実際にパフォーマンスを観たことが大きく影響しています。というのも、彼自身の音楽を演奏する喜びが直接伝わってきたのです。つまり『tiny desk』を唯一無二な存在にしているのは、『tiny desk』にやってきたアーティスト自身が音楽を楽しむ、その経験なのです。今や名だたるアーティストを筆頭にたくさんのアーティストが『tiny desk』で演奏することをバケットリストに入れています。その理由は、やはり音楽表現の喜びを実感できる特別な場所だからでしょう。
—日本版に先立って、昨年10月からは『Tiny Desk Korea』がスタートしています。アジアの音楽の魅力、可能性についてはどう思われていますか?
ゴードン:アジア人アーティストたちのポテンシャルは無限大であり、それは大変喜ばしいことだと思っています。韓国の音楽やカルチャーの人気の波に乗りスタートさせた『Tiny Desk Korea』は、『tiny desk』をグローバルにローンチする絶好の機会でもあり、戦略的に進められました。グローバル展開はNPRにとっても新しいプロジェクトでしたので、確実に成功させる必要があったのです。今や韓国人アーティストの人気は計り知れません。韓国語というだけで注目されるのですから。私は韓国系アメリカ人なのですが、近年アメリカでは韓国にルーツを持たなくても、韓国の音楽が好きだからという理由で僕より流暢な韓国語を話す人が多くいます。この状況には驚くばかりであると同時に、もっと韓国語を勉強しなきゃと周囲からプレッシャーをかけられている心地です(笑)。それはさておき、アーティスト自身を上手く昇華した演出や作品のクオリティが人々の共感を呼び、ファンとの結びつきを築き上げているのは誰の目にも明らかでしょう。そういった芸術的センスと表現から、可能性は無限大だと思っています。
—今後の『tiny desk concerts JAPAN』にはどのような発展を期待していますか?
キース:世界中に日本人アーティストを広めるだけではなく、今までにないコンサートのスタイルを提示するという点においても、『tiny desk concerts JAPAN』を成功させたいと思っていて、ここで成功の鍵になるのは、近年の音楽業界から失われつつある「親密さ」だと思っています。きれいに処理されたサウンド、大きなスタジアムでのライブが目立ち、小さなクラブは年々少なくなっています。私たちの取り組みが何かムーブメントを起こす着火剤になれば、それは光栄なことです。もう一つ、『tiny desk』は新たな発見を追求していくというより、継続的なプロジェクトだと私たちは捉えています。日本人アーティストで言うと、これまでに上原ひろみ、Cornelius、おとぼけビ~バ~にアメリカの『tiny desk』でパフォーマンスを披露していただきました。私たちはかねてより日本人アーティストを発信をしてきましたが、今回大きな転機となったのはNHKとのパートナーシップで、共通の美学を掲げ、道を共にする彼らとパートナーを組むことは容易な決断でした。今後は日本の『tiny desk concerts JAPAN』とアメリカの『tiny desk concerts』という異なる二つのプラットフォームを通して、さらなる音楽体験を発信していきたいと考えています。
◎放送予定
<総合>
9月30日(月)23:00~23:29
<NHK WORLD JAPAN (国際放送)>
9月30日(月)0:10~、5:10~、12:30~、18:30~
※アプリでもご覧いただけます。ダウンロードサイト https://www3.nhk.or.jp/nhkworld/en/app
tiny desk concerts JAPAN
https://www3.nhk.or.jp/nhkworld/en/shows/tinydeskconcerts/
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