1977年に少年画報社の「少年キング」で連載が開始されたマンガ『銀河鉄道999』。翌年にはテレビアニメ化され、1979年には劇場版が公開された松本零士による不朽の名作。
公開当時、邦画の配給収入1位を記録する大ヒットとなった。

この劇場版の主人公・星野鉄郎と彼に寄り添うメーテルの旅を、物語の中で呼吸する一人として体感できる展覧会が、埼玉県所沢市東所沢の角川武蔵野ミュージアム・グランドギャラリーで開催中だ。

360度に映し出される銀河空間、立体サウンドが包み込む発車シーン――観客は鉄郎とともに999へ乗り込み、“あの旅”を現実の空間で追体験する。そんな唯一無二の没入型イベントをレポートする。

◆銀河への扉が開く ― 客車に足を踏み入れた瞬間から旅は始まる
会場に入ると、そこには(999ではない)銀河鉄道の客車が置かれ、入場した瞬間から銀河への旅が始まっていた。劇中でメーテルが「見かけは安心感のある昔の大型機関車に見立ててある」と言っていたことを思い出しながら、落ち着いた雰囲気のある車内に入り座席に座ると、地球のメガロポリス・ステーションを目指す999がすぐ横を走り抜けていく。

我々もその地球に到着した999に乗り換えるべく、巨大な機械化都市の中心にあるメガロポリス・ステーションへ向かうことにした。

その道すがら見たものは……。宇宙で暮らす多くの裕福な人々は機械の身体に魂を移し替えて機械化人となり、永遠の生を謳歌し、機械の身体を手に入れられない貧しい人々は貧困と差別の中にいる時代。人間である鉄郎は、母親と共に“タダで機械の身体が手に入る”と噂のアンドロメダを目指すが、その途中、機械伯爵の“人間狩り”で母親を殺されてしまう。機械伯爵への復讐を誓う鉄郎は、改めて機械の身体を手に入れることを決意する。そんな彼の旅立ちの物語だ。


◆発車!999、銀河を駆ける ― 音と映像のイマーシブ体験
そしてイマーシブシアターへ。そこは一周の長さが約100mにも及ぶ360度の壁面と床面に合わせて、32台のプロジェクターで描き出されたメガロポリス・ステーションだった。

近未来の整然とした構内で出発の時間を待つ999。「アテンションプリーズ、アテンションプリーズ……」と出発時刻を告げるアナウンスに続き、発車を知らせるベルが鳴ると、いよいよ999が目的地・アンドロメダへ向けて走り出し、次の停車駅タイターンへ向かう。

イマーシブシアター内を右へ、左へとスピード感を持って進んでいく999。宇宙空間へと飛び立っていく躍動感が音としても、線路周辺の景色を見せる映像としても耳に、目に飛び込んでくる感覚に胸が躍る。本企画の宮下俊プロデューサーがこだわったという、この「ワクワクするような999の出発シーン」は必見だ。鉄郎と同じく観客も、ここから発車し旅の途中駅である異星の地に着地するのだ。

「数年前に制作された4Kのリマスター版の映像をお借りして、こちらで1979年当時のものを2026年版として松本先生の世界観を崩さない世界観作りをしました。イマーシブシアターのための構成では四角い部屋なのに、それを忘れさせる設計にすることが一番大変でした。ど真ん中から見ると、それが一番再現されるようになっています。ずれたとしても視聴に違和感なく耐えうるような仕組みを試行錯誤して、レンズを組み合わせるなどして最適化しました」(宮下プロデューサー)

◆星々を渡る航路 ― 鉄郎とともに感じる出会いと別れ
最初に到着したのは、土星の衛星であるタイターン。
続いて氷に包まれた冥王星、その先のトレーダー分岐点……。それらの星々で人間として生きる者、機械人となった者、さまざまな人々との出会い、別れを経験する鉄郎。

宇宙のきらめきが壁面いっぱいに広がり、氷片の光がすぐ目の前を流れる。メーテルの横顔がふと現れ、気づけば自分も同じ体験をしていた。そんな錯覚を覚えるほどの臨場感が、空間全体を包み込んでいた。

彼らから受け取った言葉や触れた思いによって成長していく様を、ライブ感を持って味わいながら旅路に没入していく。

その体験のなかで、我々は再び「機械の体とは」「生きることとは」と鉄郎と共に思考しはじめる。そして彼、そして我々が導きだす“答え”はーー。

旅の最後には、ゴダイゴの名曲「銀河鉄道999(THE GALAXY EXPRESS 999)」が流れ、物語の余韻をより強く体感させた。

◆言葉が胸に降り注ぐ ― 「言葉の回廊」で心が共鳴する
そんなイマーシブシアターで過ごす時間の後には「言葉の回廊」(第2会場)が観客を迎える。物語の中で鉄郎が口にした言葉、そして彼を奮起させ、成長させた人々の言葉たちは40年以上も前に紡がれたとは思えないほど、現在を生きる我々にも強く響く力を持っている。ひとつひとつの言葉が胸に染み入り、思わず足を止めて見入ってしまう。
機械の力を身近に感じる時代であり、争いも絶えない現代に通じる力強い言葉が散りばめられていた。

◆創り手の視点に潜る ― 「物語の裏側へ」で知る制作の熱
その回廊の先には、物語の裏側をテーマにした展示室「物語の裏側へ」(第3会場)が続く。本展示の音楽を制作した川井憲次、映像制作のクリエイター、プロデューサーの紹介や作品への思い、そして劇場版『銀河鉄道999』の当時の制作秘話や物語を紐解く展示に加え、鉄郎とメーテルが座っていた客車の座席など、作品『銀河鉄道999』のファンはもちろん、初めて触れた人々にも改めて作品への興味を引くことは間違いないこの3番目の部屋。

鉄郎の中に在る暖かい血の通った心が世界を動かしていくことを改めて感じさせた。鉄郎と過ごす展示から、彼の旅は今も続いていると思わせた。

◆「999」が問いかける ― 限りある命をどう生きるか
「『永遠に生きることだけが幸せじゃない。限りある命だから人は精一杯がんばるし、思いやりや優しさがそこに生まれるんだと気がついた』という鉄郎の言葉。その言葉はまさに今の時代だからこそ響くのではないか」と語った宮下プロデューサー。1979年に公開された劇場版を巨大スクリーンで追体験するだけではなく、映画の外にあった空間や世界へと意識を広げたいという思いが原動力となったという。「イマーシブシアターで物語に“干渉する”のではなく、そこに“存在する”という状況を作りたい、と新たな機材、新たなシステムを構築し、これまでのイマーシブイベントとは全く違う奥行、無限に広がる宇宙空間を成立させるために試行錯誤した」と話す。メーテルや鉄郎が目にした空間や時間、感じたであろう孤独や希望をも空間に定着させた、まさにイマーシブを超越した体験だ。

「『銀河鉄道999』の根底にあるのは不変的なメッセージとしての愛と勇気と友情の物語。
今はそうしたものを斜に構えて見てしまう風潮にありますが、鉄郎のセリフにあるように限りある命の時間を精一杯生きるという、この映画のテーマとしての人を思いやるという気持ちも詰まっている映画なので、イベントをきっかけにぜひストーリーやキャラクターのバックグラウンドにも触れてもらいたいです」(宮下プロデューサー)

劇場版に触れた世代にとっては“鉄郎と共に在った青春の日”が蘇り、若い世代には新しいコンテンツとして普遍的なテーマを超体感型コンテンツとして楽しんだ上で、劇場版の鉄郎の旅を全編に渡って共にしたくなるはず。そんな時間をこのイベントで体感してほしい。

◆角川武蔵野ミュージアムにはオリジナルグッズの販売ショップやマンガ・ラノベ図書館も
また一階の角川武蔵野ミュージアムオリジナルグッズを館内「ロックミュージアムショップ」には展覧会パンフレット、オリジナルグッズも販売。サコッシュに入った防犯グッズなど興味深いものが並んでいるので、ファンなら嬉しいところ。ぜひ、体験とともに持ち帰りたい。

なお、角川武蔵野ミュージアムは1階のグランドギャラリーのみならず、他フロアにはギャラリーや2万5000冊を超える蔵書を誇る図書館、マンガ・ラノベ図書館などもある。ここでの体験は知識欲を満たす珠玉の滞在時間となるはず。「知の巨人」と称された松岡正剛氏が初代館長を務め、現在の館長である池上彰氏をして「知の怪人」と呼ばれる荒俣宏氏が博物部門のアドバイザリーボードを務める、まさに「知の殿堂」とも呼べる施設も楽しみたい。

■銀河鉄道 999 THE GALAXY EXPERIENCE あの旅は、まだ続いている。
開催期間:2026年4月25日(土)~2026年10月26日(月)
休館日:毎週火曜日、6月1日(月)~5日(金)
※5月5日(火・祝)、8月11日(火・祝)、9月22日(火・祝)は開館
営業時間:10:00~18:00(最終入館は17:30)
会場:角川武蔵野ミュージアム 1階 グランドギャラリー
住所:埼玉県所沢市東所沢和田3-31-3 ところざわサクラタウン内
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