第七十三回「カタカナ英語で唄う勝新太郎はとてもキュートでチャーミング」

第七十三回「カタカナ英語で唄う勝新太郎はとてもキュートでチャーミング」
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 カラオケスナックなどに行ったら、英語の歌を格好良く唄ってみたいと思うことはあるけれど、唄っている人を見ると、なんだか気持ちが萎えてきてしまったことはありませんか? その人が、やたら得意げだったりすると、さらにげんなりします。昔は(今でも?)「マイウェイ」を英語で唄っているおじさんなどが、そのような類だったように思います。  以前、ジャマイカから、日本に来たという青年がいて、彼に、ボブ・マーリーの「ノー・ウーマン・ノー・クライ」を唄って欲しいと頼んだものの、なんだかモジモジしていて、あまり唄いたくなさそうでしたが、強引に唄ってもらったら、ものすごく下手で、大変ショックを受けました。なぜなら、ジャマイカ人は、みな歌が上手で、「ノー・ウーマン・ノークライ」を簡単に唄いこなせると思っていたからなのです。しかし、今から思えばこれは、ジャマイカ人だから「ノー・ウーマン・ノークライ」はOKだろうなんて、単なる偏見だったのかもしれません。すみません。でも、下手なりにも、懸命に「ノー・ウーマン・ノークライ」を唄ってくれた彼に、わたしは最後、感動していたのです。このように、自信はないけど、頑張っている姿というのは、何事でも好感が持てるものです。  一方で、カラオケで得意げに英語の歌を唄う人(とくに、おっさん)に関しての問題ですが、たいして上手でもないのに得意げというのが駄目な気もするのです。「どうだ英語だぞ」といった感じが、嫌味にも見えてくる。  そんなこんなで今回紹介したいのは、勝新太郎のアルバム『夜を歌う+8』です。このアルバムは、勝新が、いろいろな英語の曲を唄っています(日本語の歌もあります)。勝新の歌は、自信がなさそうではないけれど、自信満々でもないところが良いです。特に英語の歌は自信満々になりきれない感じが漂っていて、とてもチャーミングです。聞くところによると、勝新は英語の歌を録音するとき、歌詞をぜんぶカタカナにしてもらって、それを見ながら唄っていたそうです。 「マイウェイ」を英語で得意げに唄うおじさんは、カタカナ英語で唄う勝新のキュートさに、到底太刀打ちできないけれど、このアルバムをお手本にしてみれば、少しは嫌味がなくなるかもしれません。  とにかくここで唄う勝新の「サニー」(日本語も混じる)がとんでもなく素晴らしい。「アンチェインマイハート」(日本語も混じる)も良いです。そしてビートルズの「イエスタデイ」も唄っているのですが、これは全部英語で頑張っていますが、ザ・カタカナを追っている感じの歌い方で、最高なのです。さらに最後のほうは、カタカナ追って唄うのすら面倒になっている雰囲気も出てきてたまりません。 戌井昭人(いぬいあきと)1971年東京生まれ。作家。パフォーマンス集団「鉄割アルバトロスケット」で脚本担当。2008年『鮒のためいき』で小説家としてデビュー。2009年『まずいスープ』、2011年『ぴんぞろ』、2012年『ひっ』、2013年『すっぽん心中』、2014年『どろにやいと』が芥川賞候補になるがいずれも落選。『すっぽん心中』は川端康成賞になる。2016年には『のろい男 俳優・亀岡拓次』が第38回野間文芸新人賞を受賞。
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