「蟻族」というのは、2009年、北京大学の博士・廉思氏が出版した書籍『蟻族―大卒生が集まって住んでいる村に関する記録』で初めて使われた新語だ。蟻族というのは中国で社会現象となっている高学歴ワーキングプア集団のことを指す。


 最近出版された廉思博士の著書『蟻族II―誰の時代』による2回目の調査の結果を見ると、「蟻族」の中で最も多い比例を占めるのはやはり大学本科生(学士)で、2009年の31.9%から2010年の49.8%になった。修士の比例は2009年の1.6%より2010年の7.2%になって、変化が最も顕著である。「蟻族」の学歴の上昇は中国の修士卒業生の就職難を示唆する(新京報 12月28日付)。

 「修士蟻族」という言葉は理解に苦しむ言葉である。修士という学歴は高学歴の代名詞である。「蟻族」は低学歴を思い浮かべる言葉として、「修士」と結びつくのは何とも強引な感じがしてならない。この「修士蟻族」という言葉の背後には社会の変遷と矛盾が潜んでいると思う。

 今までは修士という学歴によっていい職場と高収入が期待されていた。ようやく修士まで辿りついた貧しい田舎出身の学生にとっては、修士学位の獲得は幸せのスタートだとも言える。しかし、今の修士卒業生は就職難に直面している。修士の就職難は社会問題として浮き彫りにされている。「蟻族」の年齢と学歴の上昇は深刻な社会問題だといえざるを得ない。


 「就職は天に登るより難しい」という言葉には実感を感じる。2011年の大学院試験の受験生は150万人を超え、国家公務員試験の受験生は140万人を超える。地方公務員試験の受験生を入れると、その数は実に夥しいものである。就職、大学院生への進学、公務員試験合格は大学生の前に置かれている三つの選択肢である。就職難によって大学院生への進学と公務員試験合格の志願者が増えている。

 公務員試験の合格率はあまりにも低すぎて、実際には大学院生への進学が増えている。しかし3年間の修士課程を修了しても、就職の保証はない。むしろ大学本科生よりもっと難しくなる。実に悲しいことだというほかない。結果的に、博士が修士の職場を奪い、修士が本科生(学士)の職場を奪うことになる。従って、ますます多くの修士が「蟻族」の行列に加わる。今の現実は学問で運命を変えることが不可能になってしまう。
つまり、上の階層へ這い上がることを促す主力システムが故障し、誤作動を起こしている。

 なぜ博士、修士が「インフレ」になって、値下がりしたのか? 筆者はその原因は盲目的募集拡大と高学歴教育水準の低下にあると思う。大学卒業生の就職難を緩和するために大学院生の募集数を大いに増加したからである。

 大学の本科生の募集数の増加は大学生の就職難の一つの原因である。修士課程の募集数の増加も同様に修士の就職難の原因の一つである。募集数の盲目的増加を避けるべきである。大学の一部の専攻の修士課程の学生数は本科の学生数を遥かに超えている。3年間の今の修士課程の募集数は3年前の倍だ。それに伴って、教育水準の低下も生じている。募集数の盲目的増加によって、「三流教師が修士、博士を指導する」という不都合さえ起きている。修士の数が多い、しかも水準が低下している現象は就職難に繋がる。そして、修士の値下がりも当たり前のことである。


 もちろん、「修士蟻族」の存在はいろいろな社会的原因があるのは言うまでもない。しかし、ますます多くの修士が「蟻族」の行列に加わる現実だけからも社会の経済問題、教育問題を垣間見える。このような経済問題、教育問題に対して社会的な注目が必要である。そうではないと、学問無用論が氾濫して、教育そのものの価値を失ってしまう。結局は社会の発展に大きな支障が生じる。現存の大学教育における問題点を再検討して、どのように教育の価値を守っていくのかが新しい課題になっているのだと思う。(編集担当:祝斌)

【関連記事・情報】
もう一つの「80後」:中国都市部に増殖する「蟻族」(2)(2009/11/16)
もう一つの「80後」:中国都市部に増殖する「蟻族」(1)(2009/11/16)
超エリートの出家から見る、夢を喪失した中国の中産階級(2010/10/06)
中国でホワイトカラー陥落、公務員人気に潜む危ういリスク(2010/09/10)
「今後に不安」中国でインテリ・エリートの海外移民が加速(2010/08/20)
編集部おすすめ