目指すは“春の日本一”を決める決勝大会

 3月1日と2日の両日、『JA全農杯2025 全国小学生選抜サッカーIN東北』が福島県相馬市の相馬光陽サッカー場にて開催された。

 東北6県それぞれの4種委員会から推薦された2チームずつ、計12チームの(大会開催時)3~5年生が参加。
5月3~5日に、神奈川県横浜市で開催される『JA全農チビリンピック2025 JA全農杯全国小学生選抜サッカー決勝大会』の東北地区予選も兼ねており、集まった12チームは優勝と決勝大会出場(上位2チーム)を目指して戦った。

 試合は8人制、12分×3ピリオドで行われ、第1ピリオドと第2ピリオドで選手を全員入れ替え、第3ピリオドは自由に交代ができる。小学生年代は多くの選手に出場機会を与えることが重要となるため、より多くの選手がプレー経験を積める試合方式が採用されている。

 1日の予選リーグでは、3チームずつの4グループに分かれ、総当たりで対戦し、各グループの上位2チームが2日からの決勝トーナメントに進出。決勝に進出した2チームが5月の決勝大会に出場する。グループ3位のチームや、準々決勝で敗れたチームもフレンドリーマッチが行われ、多くの子どもたちに実戦の機会が与えられた。

岩手県勢の躍進

 予選リーグ、決勝トーナメントで熱い戦いが繰り広げられるなか、決勝に駒を進めたのは初優勝を狙う岩手県のRENUOVENS OGASA FCジュニア(以下レノヴェンス・オガサ)。予選リーグはベガルタ仙台ジュニア(宮城県)に1-2で敗れたが、スポルティフ秋田(秋田県)に3-0で勝利し、Cグループ2位に。決勝トーナメントでは準々決勝でBr.ViBola(青森県)に1-0で勝利。準決勝ではモンテディオ山形ジュニア庄内(山形県)と0-0で迎えたPK戦を3-2で制し、初めての決勝進出と全国への切符を勝ち取った。

 もう1チームの決勝進出チームも岩手県のFC Grows(以下FCグロース)。昨年は準決勝でPK戦により敗退したチームが今年は初の全国行きを決めた。
予選リーグは昨年の決勝大会出場チームのバンディッツいわきジュニア(福島県)に3-1で勝利し、Br.ViBolaとは0-0で引き分けてBグループ2位。決勝トーナメント準々決勝では昨年まで5大会連続決勝大会出場のベガルタ仙台ジュニアに1-0で勝利。準決勝ではモンテディオ山形ジュニア村山(山形)に第1ピリオドで先制されるも、第2ピリオドで同点に追いつき、第3ピリオド終盤で逆転する劇的勝利(2-1)を挙げての決勝進出となった。

 レノヴェンス・オガサとFCグロースの岩手県勢対決となった決勝戦。第1ピリオドはレノヴェンス・オガサが相手陣内に攻め込む時間が長くなる。すると10分、ゴールから15メートルほど離れたところで直接FKのチャンスを得る。キッカーはキャプテン谷琉生(5年)。「練習をしてきたので、ここは自分が絶対に決めるという気持ちでした」と、早いタイミングで蹴ったFKが美しい弧を描いてゴールに突き刺さり、レノヴェンス・オガサが先制に成功し、1-0で第1ピリオドを終えた。

 続く第2ピリオドはFCグロースが反撃に出る。キャプテンの佐々木直哉(5年)がしっかりボールを収めて多くの決定機をつくり出すも、レノヴェンス・オガサは「(佐々木に対して)1人が必ず行くことで、そこで周りからもどんどん奪いに行けました(谷琉生)」と振り返った通り、体を張った守備を披露。このピリオドではゴールは生まれず、1-0のまま第3ピリオドに突入した。

 第3ピリオドは互いに激しくゴールを目指す展開に。
そして7分、勝負を決めるゴールを挙げたのはまたもレノヴェンス・オガサの谷琉生だった。うまくフリーになるポジションでボールを受けて「ここだという時に足を振り抜きました」と、技ありのシュートを決めて2-0とリードを広げる。FCグロースも最後まで諦めずにゴールを目指したが、レノヴェンス・オガサは柳沢桜太(5年)や藤村櫻史郎(5年)らの粘り強い守備対応でゴールを許さず試合は終了。レノヴェンス・オガサが初優勝を飾った。

積み上げた力の結実

 優勝と初の全国出場を決めたレノヴェンス・オガサの中村司監督は「(盛岡では)雪の上と体育館でしかやっていなくて疲れもあった。3試合目ということで、楽しんでやりなさいっていう話はしました」と、のびのびと試合に臨ませ、技術力の高さをうかがわせるFKとシュートで勝利を引き寄せた。

 「キックの部分は重要視してトレーニングしています」と語る中村監督は、チーム活動の他にもストライカースクールを開講し、シュート技術やキックの質にこだわりを見せている。「テクニックって止める、蹴る、運ぶだと思うんですが、その中でもキックを大切にしたい。キックと言っても、ショートからミドル、ロング、浮き球、あとは変化したボールとか、そういうものをけっこう粗末にしているような感覚があったので、トレーニングから毎日ロングのグラウンダーのボールとか、その日のテーマを与えてやっている」。そうした指導が実っての栄冠となった。

 決勝で2得点のキャプテン谷琉生については「双子で兄の谷玲生(5年)もいて、お父さんもサッカーしているので、お父さんともトレーニングしている(中村監督)」と、家族ぐるみでの取り組みを明かす。シュート技術やポジショニングの良さが光った谷琉生も、「(シュートは)コントロールを意識しています。
ポジションどりはサッカーノートとかに書いて見直している。そこで振り返りをして修正しています」と努力を欠かさない。決勝大会に向けても「全国でもシュートを決め切ってチームを勝利に導きたいです」と意気込む。

 準優勝での初の全国を決めたFCグロースの佐々木豪臣監督は「子どもたちには『一戦一戦を決勝戦のように戦え』と言って、準々決勝、準決勝で勝てたのは、すごく子どもたちの自信にもなりますし、チームにとっても大きな収穫になります」と、ベガルタ仙台やモンテディオ山形といったJリーグのアカデミーチームを倒して決勝進出できたことを喜んだ。

 持ち味は後方からしっかりパスをつなぐサッカー。「決勝は決定力が足りませんでしたが、その形はかなり出せました。逆に準々決勝と準決勝は、自分たちのサッカーが出せたかと言ったら少し足りなかった。相手の良さをしのぐ時間帯が多かったので、ベガルタさんやモンテさん相手にも、自分たちがもっと主導権を握ってボール動かしてゴールを決められるように成長させていきたい」と反省の弁。むしろ勝った試合で出た課題を克服し、強豪チーム相手にもつなぐサッカーを見せようと意欲を語る。キャプテンの佐々木も「グロースのつなぐサッカーを全国に広めていきたい」と、決勝大会に向けて意気込んだ。

 春の訪れを感じさせる暖かさはありつつも強風が吹く中での大会だったが、どのチームの選手たちも勝利を目指して全力プレーを見せてくれた。共に岩手県勢の東北代表レノヴェンス・オガサとFCグロースの両チームが、決勝大会でも積み上げてきたスタイルを発揮してくれることを期待したい。
また、今大会でプレーした全ての選手たちが、この大会での収穫と課題を糧に、大きく成長してくれることを願っている。

取材・文=小林健志
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