今年6月、50歳を迎えると同時に引退を表明しているアイドルがいる。「乙ナティック浪漫ス」の鈴瑚(りんご)さん(@Ringo_Ringorin)だ。
アイドルとしてのスタートは38歳と遅咲きながら、ライブでは多くのファンを魅了してきた。そんな彼女の半生にスポットを当てた。
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バンド活動と大人AKBへの挑戦

――まさに今月、ライブアイドルを引退されるとのこと、お疲れ様でした。アイドルを目指すことになったのは、どのような経緯でしょう。

鈴瑚:ありがとうございます。ライブアイドルは引退しますが、ラジオやタレントとしての活動は継続します。実は学生時代はバンド活動に没頭していて、「アイドルになりたい」と思ったことはありませんでした。とにかくアルバイトをやってライブハウスで演奏して……みたいな女子高生で、学校のイベントもそっちのけで音楽をやっていました。

2005年、30歳を直前に私はカフェバーを経営するのですが、その常連さんにアイドルオーディションを勧められたのがきっかけです。「大人AKB」というグループでした。ただ当時は内心「30代でアイドルなんて、なって良いものなの?」という気持ちがありました。大人AKBのオーディションは1次審査は受かり、2次審査で敗退しました。

――アイドルというのは、どういうイメージでしたか。


鈴瑚:若くて可愛くて、雲の上にいる存在というか……少なくとも自分がなることを想像したことはなかったですね。ただ、確かに「音楽をやり残した」という思いはあったんです。

――やり残した音楽をやりたいと思ったのはなんででしょう。

鈴瑚:2011年に東日本大震災があって、福島県に嫁いだ友人がいたことから、私は東京に住んでいたけど心理的には身近でした。おおげさにいえば、死生観みたいなものがガラリと変わったんです。カフェバーは軌道に乗っていましたが、なんとなくそのときから「店を閉めて、夢を追ってみよう」とは考えていたと思います。

複雑な家庭環境と亡き母親への想い

――踏み込んだことですが、鈴瑚さんは一度も結婚されていませんよね。あまり恋愛や結婚には興味がなかったのでしょうか。

鈴瑚:興味がないわけではないんです。ただ、そのあたりは、生育歴も関係するかもしれません。私はきょうだいが上にも下にもいますが、父親が異なるんです。母は非常に恋多き女で、3回結婚をしました。小学生くらいからそんな母に対して、どこか冷めた目で見ている自分がいました。
でも、本当は「甘えたい」という気持ちも確かにあったんですよね。

――複雑な家庭環境ですね。

鈴瑚:母が3回も結婚したこと以外は、さほど問題のある家庭ではなかったんです。ただ多感な時期にはそれが受け入れられないことがありますよね。父の異なる姉と話したとき、「ニュースで取り上げられるようなネグレクトや虐待などの家庭もあるなかで、うちはそういうことはなかったよね」という話になりました。男性との間に子どもを作っては結婚して……という奔放さはありますが、きちんと産んで育てた人でもありましたから。

――お母様との関係で後悔していることもある。

鈴瑚:母は私が18歳のとき、高校を卒業するちょっと前にくも膜下出血になってしまいました。幸い、そこでは一命を取り留めましたが、麻痺は残り、以前のようにスムーズな会話ができなくなりました。先ほどお話した通り、私はアルバイトとライブハウスを行ったり来たりしていて、よくできた学生ではなかったものですから、母から咎められてばかりでした。そのたびに「うるせー!」とか反発して、心から憎んでいたわけではないものの、素早くなれなかったのは悔やまれますね。その後、母は他界しました。
母に介護が必要な状態になってからは、自分も経済面など現実的なことに追われれる日々になりました。そうした事情もあり、年頃の女の子にしては、あまり恋愛のようなウキウキするイベントが少なかったのかもしれません。

対話を通じて生まれるファンとの絆

50歳最年長地下アイドルを直撃。「いつまでやってんの?」の批判を実力で黙らせた、奇跡のルックスと壮絶な半生
38歳でのデビューから12年、惜しまれつつ引退する
――今月50歳、「最年長アイドル」を名乗られています。年齢に関することで中傷されたりしませんか。

鈴瑚:もちろん、ないことはないですよ。SNSでコメントが寄せられたり、DMが送られてきたり……。ただ意外と、目についた場合はこちらからコメントを返すと、「そういうつもりで言ったんじゃないんです、すみません汗」みたいな反応になることも多くて、意外と理解してもらえるもんだなぁなんて思っています。

ライブはいろいろな地下アイドルがタイムテーブルを組んでパフォーマンスをしますが、「いい年していつまでやってんの?」と話しかけてきた別グループのファンに応対したことがあります。そのあとライブを見てもらったら、「さっきはごめん、あんなにいいパフォーマンスをすると思わなくて……」とおっしゃっていて、それから律儀に通ってくれたこともあります。話してみると結構わかってもらえるんですよね。

――寛大ですね。

鈴瑚:自分が何か言われるのはまったく辛くないんです。ただ、応援してくれるオタクの人たちが「なんで熟女アイドルなんて推してるの?」と直接言われたり、奇異の目で見られるのは、申し訳ない気持ちになります。
だからこそ、きっちりライブで魅力を伝えられるように努力してきたつもりです。

――いわゆるオタクの方たちとの絆も深い。

鈴瑚:そうですね。私は真剣に、アイドルとオタクの関係性ほど誠意があるものも少ないと考えているんです。恋愛も最初の半年、1年は特別扱いをしてくれたりしますが、やがて日常に埋没しますよね。アイドルのライブのために、オタクは時間とお金を使って毎回足を運んでくれるんです。この関係性はとてもピュアなものです。

オタクの皆さんに支えられてここまできた身としては、あんなに純粋な人たちは少ないと言い切れるし、逆に自分たちも彼らに恥じないように魅せるパフォーマンスをしたいと思ってきました。

ミドル世代の夢を支える次のステージ

――引退後の展望をお聞かせください。

鈴瑚:これまでの活動で学んだことを生かして、ライブの運営をお手伝いすることが1つです。それからもう 1つは、私と同じようにミドルエイジでアイドルやシンガー、モデルなどを志望する女性のためのサポートをしたいと考えています。特に芸能界は魑魅魍魎の世界で、夢を食い物にする大人がたくさんいます。
私は、必要な費用からかけ離れた金額を請求しない、まっとうなアカデミーを開講しようと考えているんです。ある程度の年齢がいっていても芸能界を目指せる環境を整えられたら、それが私なりのこの業界への恩返しになると思っています。

=====

言ってみれば鈴瑚さんの母親は「母親らしくない母親」。それでも鈴瑚さんは愛情の痕跡をみつけ、亡き母親を慕う。人の欠点よりも美点に目がいくことは、アイドルとしての資質であり、彼女の無限の包容力を培ううえで大切な性質だっただろう。アイドルもファンも、いろいろな人がいていい。鈴瑚さんの自由な発想の根底に、すべての人への愛情をみた。

<取材・文/黒島暁生>

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【黒島暁生】
ライター、エッセイスト。可視化されにくいマイノリティに寄り添い、活字化することをライフワークとする。『潮』『サンデー毎日』『週刊金曜日』などでも執筆中。Twitter:@kuroshimaaki
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