東京都台東区の人気観光エリア・上野アメ横商店街。戦後のヤミ市にルーツを持つ商店街としては、都内で唯一残る場所だ。
JR上野駅~御徒町駅間の約500mに飲食や小売の400店あまりがひしめき、外国人観光客(インバウンド)を含む多くの人々が日々行き交っている。
そのアメ横でゴールデンウィーク中の5月5日、路上に許可なく椅子やテーブルを張り出している店舗を一斉摘発し、路上席を撤去する「アメ横クリーンアップ作戦」を警察が実施した。道路使用許可のない路上席は歩行者や緊急車両の妨げとなる懸念があるが、「路上飲みこそアメ横の楽しみ!」と感じる人が多いのも事実。一斉摘発から3ヵ月以上が過ぎた現在、アメ横の風景はどうなっているのかを、若干の私見も交えつつレポートする。

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現在のアメ横を実際に歩いてみると…

アメ横では地域商店街と警察署が月に2回の合同パトロールを行っており、今後も厳しく対応していくとのこと。だが実際にアメ横へ行ってみると、警察や商店街の試みが必ずしも上手くいっているとは言えない……というより、アメ横クリーンアップ作戦以前と全く変わらない現状が見えた。
 
上野アメ横の“一斉摘発”から3ヵ月も…警告に従わない店舗が後を絶たず「路上営業がなくならない」理由【現地レポート】
上野駅側からアメ横に入る時は、このヨドバシカメラ横のゲートをくぐる
筆者がアメ横を訪れたのは、よく晴れた7月下旬の午後6時台。最高気温37℃という昼間の酷暑にも関わらず、むしろ日中に酷暑で押さえつけられていた反動ゆえか、夜に差し掛かったアメ横は平日ながら多くの客でにぎわっていた。
 
上野アメ横の“一斉摘発”から3ヵ月も…警告に従わない店舗が後を絶たず「路上営業がなくならない」理由【現地レポート】
すこし歩くとさっそくオープンエアの席を発見
通行人を逃すまいと数多くの居酒屋や飲食店が明かりを灯しているが、その中には路上に椅子とテーブルを出している店舗が非常に多い。ひさしを伸ばしている真下を目一杯使って、路上席を設けている店舗も見かけられた。
 
上野アメ横の“一斉摘発”から3ヵ月も…警告に従わない店舗が後を絶たず「路上営業がなくならない」理由【現地レポート】
手前の椅子やテーブルが道路と同じ高さに置かれているのが分かる
飲食店の中には「自分の店の“ひさし”を伸ばしている真下ならばセーフだろう」と解釈している店舗も少なくないという。だが、台東区役所の道路管理課では道路交通法に則り、公道にテーブル・椅子・看板を設置することは認めていない。アメ横周辺はれっきとした公道(区道)である。


異国情緒あふれるエリアの実態は?

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路上席を出している店舗は中華から中東系まで多種多様
とりわけアメ横センタービルの近辺は、中華・エスニック・トルコ系など飲食店が集まって異国情緒あふれるエリアとなっている。それら店舗はオープンエアの座席を設けている場合がほとんどである。
 
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高架と高架の間にも路上の椅子・テーブルが
JR山手線などの高架と、新幹線の高架との隙間にある細い通りも、左右から路上席がせり出してかなり狭くなっていた。夜6時頃はまだ比較的歩きやすかったものの、ここも曜日や時間帯によっては路上席の客と通行人でひしめくだろう。

これら店舗のどこまでが適切な道路使用許可を取っていて、どこからが無許可なのか。そもそも許可を取っている店があるのかは、傍目には判然としない。確かなのは、このような混沌とした気配を求めてアメ横に客が訪れ、そのニーズに応えるべく店舗側も路上席で客を迎え入れているという実態だ。

「三密対策」が数年を経て仇に?

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コロナ禍が衰えていない頃は路上席も必要だったが……
アメ横の路上を不法に占拠する椅子とテーブルの問題については、既に複数メディアで経緯が報道されている。簡潔に整理すると以下のとおりだ。

ことの起こりは、2020年以降のコロナ禍であった。当時はいわゆる「三密」への対応へ追われる飲食店を支援するため、路上営業の基準が一時緩和される。屋外に座席数を広げるスタイルは、三密のうち「密閉」と「密接」を避けるために都合が良かったのだ。

しかし、路上営業はコロナ禍の収束後も続いた。日本へ再びインバウンドが押し寄せるようになり、アメ横の客も回復していくにつれ、一部店舗による不法な道路占拠が深刻化。
110番通報や住民・町会からの苦情も日増しに増えていく。商店街の人々はパトロール時に注意喚起を続けるものの、従わない店舗も多々。時には通りの左右から座席が張り出し、通行幅が2m未満になっている所もあったという。

「看板にぶつかった」など苦情の110番は、2025年には43件、2026年は5月までで21件。警視庁からの指導や警告も半年間で約1,500件に及ぶ。5月のアメ横クリーンアップ作戦も、このような状況を強引にでも改善するためのものだ。

だが、警視庁・商店街の努力にも関わらず、今も路上席を出し続ける店舗は多い。パトロールや警察の巡回時だけ片付ける「いたちごっこ」状態が続いているという。背後にあるのは「摘発は一時的なもの」「周りの店もやっているし、自分の店もいいだろう」という意識だと言われている。

一方、警察の取り締まりを受けて改善した店からは「警察へ真面目に対応した店が不利益を被り、ルールを破る店ばかり得をするのは不公平。全店へ平等に厳しく対応してほしい」といった声も聞かれているのだとか。アメ横の居酒屋に足繁く通う人々からも「路上席が無くなるのは寂しい、残したほうが良い」「安全上の問題があるなら仕方がない、ダメなものはダメと対応すべき」など反応はさまざま。
アメ横を巡ってコンセンサスがまとまるのは、当分先になりそうだ。

「外国人経営の店舗が原因!」というのは早計

上野アメ横の“一斉摘発”から3ヵ月も…警告に従わない店舗が後を絶たず「路上営業がなくならない」理由【現地レポート】
アメ横は「ガチ中華」系の飲食店や食料品店も豊富
路上席の撤去や摘発が行われてもなお、アメ横の路上席がなくならないのはなぜなのか。思いつきやすい理由のひとつは、コロナ禍以前からの十数年でアメ横の商店やオーナーが大きく入れ替わり、商店街の文化や規則と融和しきっていない新しい店舗が増えたことだろう。 
 
とりわけ中国・東南アジア・インド・中東など外国人経営の飲食店が十数年で大きく増えた点は、普通に商店街内を歩いているだけで実感できるはずだ。「飲食店の半分以上が外国人の経営になった」という声もあり、現在のアメ横は新大久保や高田馬場のような多国籍エリアへ変貌している。

上野アメ横の“一斉摘発”から3ヵ月も…警告に従わない店舗が後を絶たず「路上営業がなくならない」理由【現地レポート】
現在のアメ横になるずっと以前から営業しているカットフルーツ屋
「90年代までは屋台で香具師(やし)が焼く大阪焼の屋台、パイナップルの串刺し、お菓子のたたき売り程度で、飲食は極めて弱かった。それがここにきて急速に拡大し、15年前からケバブや焼き小龍包が人気を博し、海鮮丼屋も繁盛しだした。物販のアメ横から飲食のアメ横に移行しつつある」

(『上野アンダーグラウンド』より抜粋 ※漢数字をアラビア数字に書き換え)

これら店舗の全てが意図的にルール破りをしているとはさすがに思えないが、路上席が当たり前な本国のスタイルを、そのまま日本へ持ち込んでいることも考えられる。筆者自身も何度かベトナムのホーチミン市やハノイへ一人旅に行ったことがあるが、現地でありふれた存在だった路上のカフェ・屋台と、現在の上野アメ横が被って見えるのだ。

上野アメ横の“一斉摘発”から3ヵ月も…警告に従わない店舗が後を絶たず「路上営業がなくならない」理由【現地レポート】
ベトナム・ホーチミン市の路上カフェの様子(※筆者撮影)
だが、上記の理由だけでは新大久保や高田馬場でなく、アメ横にだけ路上席が多いことの説明がつかない。そもそも和風の居酒屋のなかにも、路上席を出している店舗はたくさんあるのだ。

ヤミ市時代から受け継がれる上野の商文化

背景にあるのは、やはりアメ横の出自が戦後のヤミ市に由来しており、今なお往時の混沌とした雰囲気を、どことなく商店街内に漂わせていることだろう。「他ではダメでも、アメ横だったら許される」というような空気感が、店舗と客との間で今なお共有されているのかも知れない(もちろん法律的には、アメ横でもダメなのだが……)。
うがった見方をすれば、アメ横では利用客と店舗側が一種の「共犯関係」になっているとも言える。

そもそも飲食店の椅子・テーブルに限らず、看板や商品棚を路上まで張り出している店舗は、アメ横ではごく一般的な風景である。さほど広くない一帯に狭小店舗が密集しているがゆえに、座席や商品陳列を店内だけに収めてしまうと、どうしても外部ディスプレイの面で支障が出てしまうのだ。

上野アメ横の“一斉摘発”から3ヵ月も…警告に従わない店舗が後を絶たず「路上営業がなくならない」理由【現地レポート】
飲食店の座席に限らず、商品も路上に溢れ出すのがアメ横
「確かに上野署のいうことは分かりますが、しかし、警察に決められた線通りにやっていると、商品が死んじゃうんですよ。通路に出すことで商品に活気が出るし、店と商品に魅力が出るんです。行儀よくやっていると、店の雰囲気だけでなく、街の雰囲気までおかしくなっちゃうんです」
(『ヤングでよみがえる アメ横商店街 超繁盛の秘密』より抜粋)

「道路と店内に商品があふれ、販売員も道路に出て、通行客から肩をぶつけられたり足を踏んづけられたりしながら商売をする、あの混雑とエネルギーが充満するアジア的混とんとでもいうべき景観こそが、アメ横の魅力だからである」
(同上)
 
上野アメ横の“一斉摘発”から3ヵ月も…警告に従わない店舗が後を絶たず「路上営業がなくならない」理由【現地レポート】
本格的に客が増える前にアメ横をあとにした
上記の文章は90年代半ばに書かれたものだが、このような清濁あわせた店舗のエネルギッシュさが、30年以上経った現在もアメ横に客を引き寄せている。だが、そうした旧来の商文化が、現代の法規やマナーと衝突していることも否めない。安全の観点から路上を不法占拠する座席に対処するのは必要だが、それでアメ横自体の活力が削がれてしまうことも避けたいところだ。

<TEXT/デヤブロウ>

【参考書籍 ※敬称略】
島田隆司『ヤングでよみがえる アメ横商店街 超繁盛の秘密』実業之日本社(1994年)
本橋信宏『上野アンダーグラウンド』新潮社(2024年)

【参照ニュースサイト】
歓楽街を変貌させた「外国人経営者たち」東京都・上野・湯島・御徒町 混沌のディープタウンを歩く(FRIDAY DIGITAL)
【現場ルポ】「ひさしの下ならセーフ」? 一斉摘発後も商魂たくましすぎる上野アメ横 路上営業の実態(〃)
アメ横周辺で「路上営業の一斉摘発」歩行者の通行妨げる飲食店も 半年で1500件近く指導や警告も改善せず(TBS NEWS DIG)
「トラックで机も椅子も全部持って行った」東京・アメ横でついに一斉摘発…“違法路上営業”摘発後、現地で見た激変の光景(集英社オンライン)
“アメ横”の路上はみ出し営業 取り締まり後も道ふさぐ机と椅子 巡回中は“引っ込め”やり過ごす 改善した店「不平等」訴え(FNNプライムオンライン)

―[東京“不法占拠”をめぐる旅]―

【デヤブロウ】
東京都在住。2024年にフリーランスとして独立し、ライター業およびイラスト業で活動中。ライターとしては「Yahoo!ニュース」「macaroni」「All Aboutニュース」などの媒体で、東京都内の飲食店・美術館・博物館・イベント・ほか見所の紹介記事を執筆。プライベートでも都内歩きが趣味で、とりわけ週2~3回の銭湯&サウナ通いが心のオアシス。
好きなエリアは浅草~上野近辺、池袋周辺、中野~高円寺辺りなど。X(旧Twitter):@Dejavu_Raw
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