―[東大卒作家・布施川天馬の教育キャリア通信]―

 みなさんは、この夏休みにどこかへ旅行されましたか? 私は出張で大阪と京都に行ったついでに、少しだけ観光させてもらいました。
 恥ずかしながら、大学生になるまで新幹線に乗ったことが無く、家族旅行の機会もなかったものですから、来年30歳になるというのにどこに行っても「こんなところがあったのか!」と驚きの連続です。


 後悔はないものの、「毎年家族で海外旅行!」なんて話を聞くと羨ましくなる時も。

 それに、私見ですが、大学生はやたら旅行したがります。「来月からアメリカ短期留学!」とか「NPOの活動でバングラデシュに1か月!」とか、簡単に言ってのけます。

 株式会社カルペ・ディエムが行う「東大生アンケート」では、回答者として登録された550人以上(2026年8月27日現在)の現役東大生・東大院生にアンケートを実施しています。

 8月実施のアンケートでは、夏休みに関する質問が実施されました。中でも「夏休みに自己投資として最もお金を使いたいものは何ですか?」という質問に対して 309人の東大生のうち106人が「旅行・体験」と回答しています。

「語学学習」(28名)を留学とみなすならば東大生の43%、ほぼ半数が移動にお金を払う計算に。

 やはり、旅行にはそれだけの価値があるのでしょうか? 今回は現役東大生を含む様々な大学生のホンネを聞いてきました。

東大生300人に聞いた「夏休みに一番お金を使いたいもの」、約...の画像はこちら >>

ラオスで危機一髪

 現役東大生のAさんと現役慶應生のBさんは、仕事を通じて知り合った仲ですがプライベートでも大の仲良し。

 取材に応じてくれた彼らですが、なんと「いま、ラオスにいるんでちょっと遅い時間でもいいですか?」とのこと。

 結局、予定よりも1時間半も遅れての取材となったのですが、現地の世界遺産を見に行った帰りに、バイクが故障してあやうく異国の荒野で立ち往生しかけたのだとか。

「近くにいる現地の方と話したら、なんとか修理工場へ案内してもらえました」とこともなげに話す彼らですが、海外を訪れる良さがこの体験には詰まっているのだそう。

「海外って、本当に日本とまるきり環境が違いますよね。
先日訪れたベトナムではぼったくり価格で物を売りつけようとする人に囲まれましたし、物乞いらしき人もかなり見かけました。

 生きるために必死だからこそ、ですよね。恥ずかしながら、日本では全く経験したことが無い感覚でした。『明日も生きている』と当たり前に言えることが、どれほど幸せなのかよく実感できた気がします」(Bさん)

「海外って、何の保証もないんです。今日だって、バイクが壊れちゃったからと、もじもじしているだけだったら、僕たちはまだあの暗闇の中に取り残されていたでしょう。

 最寄りの町まで数十キロはある場所だったから、死んでもおかしくなかった。

 だからこそ、今日を生きて明日を迎えるためには、自分から生きるための行動をとらないといけない。そうすると、世界に詳しくなるタイミングが来るんですね。

 実際に、今日僕らは沢山のラオス人と話しましたが、そうすると泣いたり笑ったり怒ったり、色々な姿を見られます。この時になってようやく『あ、ラオスに住んでいる人も、俺たちと一緒なんだ』って気付けた気がするんです」(Aさん)

 外国人移民が増えつつある日本だからこそ、排斥ではなく積極的に交流して「お互いが人である」と確認するフェーズが必要だ、と認識できたのだそうです。

国内でも”異邦人”になれる

 一方で、海外でなくとも経験は可能だと声を上げるのは現役早稲田生のCさん。

「僕は、海外経験もありますが、最近は国内を中心に回っています。日本を知ってから、海外に出たいと思うので。


 それに、意外と日本の中でも知らない文化や言葉ってあるんです。先日は、友だちの案内で宮崎県に行ってきました。で、同じ日本語を話しているはずなのに、言葉が通じない体験をしたんです。

 ちょっと訛りが強い方だと、あっという間においていかれてしまうんですね。最初は友人に通訳してもらいました。でも、ちょっとなれると『あ、こういうイントネーションかな?』『この言い回しって、こういう意味かな?』とわかってくる。そうすると、一気に現地人に溶け込めるような気がしてくるんです。

 これって、コミュニケーション能力を高めるのに非常に役立つ気がします」(Cさん)

 方々を飛び回るハードルもありますが、確かに「知らない街」で暮らしてみると、たとえ日本国内でもあっという間に「余所者」へなれるでしょう。

「余所者」から「新人」にランクアップするためには、お互い歩み寄る努力が必須。これを学ぶだけなら、海外でなくても足りそうです。

人生を変えた研修旅行

 現役東大院生のDさんは、「旅行のおかげで人生が変わった」と振り返りました。

「もともと、僕は東大に来るつもりがなかったんです。でも、高校の課題で出た探究活動の延長で研究していたら、それが評価されて、ある時理化学研究所を見学する機会を頂けました。


 その研修プログラムの中に、東大見学もあったんですね。『まぁ、関係ないから適当に済ませよう』と思ってぶらついたら、ちょうど講演会が開かれていた。これが、なんと当時読んでいた本の著者の先生だったんです。

 心の底から感激しました。まさか、行きの新幹線の中で読んでいた本の先生から、直々に話を聞けるなんて思わなかったので。

 結局、今私が東大の院でやっていることも、その時先生が話されたテーマに近しいものです。研修旅行のおかげで、今の僕があるんです」(Dさん)

 旅行が人生を変える!というと極端かもしれませんが、確かに「普段出会えない人と出会える」こと自体が、貴重な経験。だからこそ、大学生になって見識を広げたい学生たちは、先を争うように飛行機へ乗り込んでいくのかもしれません。

非日常の中で何を考えるかが大切

 ただ、現役東大生のEさんは、この旅行熱に懐疑的。

「正直、数日滞在した程度では現地のことなんて何もわかりませんよ。Short動画を観て時間を浪費するなら旅行したほうが、なんて言いますが、時間を潰すことが目的になっているなら、動画も旅行も変わりません。

 大事なのは『旅行先で何をするか』であって、『なんかよくわからないけど、体験って大事らしいから旅行しておこうかな』くらいのノリでどこかに行っても、ただ時間と金を無駄にするだけなんじゃないですか?

 もしかすると、払った金を惜しむがあまり、無意識に『いい体験をした!』と信じ込みたいだけなのかもしれませんね」(Eさん)

 手厳しい意見ですが、確かに一理あります。
旅行それ自体が体験として価値を生むのではなく、あくまで「非日常の中で何を考えるか」にこそ、宝が眠っているのでしょう。

 となれば、我先にと地元を飛び出すための航空券を買う必要はなく、日ごろの勉強と思考トレーニングが重要と言えそうです。

 体験格差が騒がれて久しいですが、「格差解消のためには旅行!」と短絡的な回答をしても格差は縮まりません。

 大それたことより、まずは手近なところからスモールスケールで始めるのがよさそうです。

<取材・文/布施川天馬>

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【布施川天馬】
著述家、教育ライター。 教育メディア「未来図」副編集長。一般財団法人「ドラゴン桜財団」評議員。 1997年生まれ。世帯年収300万円台の家庭に生まれながらも、効率的な勉強法を編み出し、一浪の末東大合格を果たす。著書に最小コストで結果を出すノウハウを体系化した『東大式節約勉強法』、膨大な範囲と量の受験勉強をする中で気がついた「コスパを極限まで高める時間の使い方」を解説した『東大式時間術』など。株式会社カルペ・ディエムにて、お金と時間をかけない「省エネスタイルの勉強法」などを伝える。MENSA会員。
(Xアカウント:@Temma_Fusegawa)
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