いつ、どこで災害によって日常が断ち切られてもおかしくない日本で、常に「生き抜く力」が試される。そこで稀代の変わり者・東出昌大が読者に代わってライフライン断ちを実践! 見えてきたのは防災用品のリストだけでは測れない人間の弱さと、生きる力の正体だった。

東出昌大「電気、ガス、水道、スマホ全部断ち」被災想定生活を直...の画像はこちら >>

あえて「被災想定生活」を送っておけば家族が守れる

「断ったライフラインはスマホと水道、電気、ガス。あとスーパーも使えないですね」

 そう事もなげに語る東出昌大の元を取材班が訪れたのは、季節外れの台風が近づいていた6月某日。9月25日に発売される彼の初単著『誰が為にか書く~東京から離れた山暮らし日記~』の原稿確認と、実践中の「被災想定生活」を取材するためだった。

 案内された築200年の古民家内は電気をつけていないのに、採り込まれた自然光で思いのほか明るい。入口すぐには文化竈が据えられ、昼食用の塩漬け野生肉を食べる東出を柔らかく照らしている。

「いま日本全国各地でさまざまな災害が起きてるじゃないですか? 電気、ガス、水道が全部止まって、日常が突然壊されるといった報道が連日流れてきて。じゃあ、いまあるライフラインを断ったらどうなるのか、試してみたくなったんです。それに実際災害が起きたとき、事前に経験があれば家族を守れる。どこまでが生活に直結した問題かを体で理解することが大切なんです。今回やってみてわかったのは本当に水ですね」

確保するだけでは無意味。水をどう運び、使うかも

 東出の暮らす地域では、山中の湧き水を利用できる。それでも、水場まで山道を行き、汲んだ水を運び、飲用、調理、トイレ用など配分を考えなければならない。

「災害時に水があるか、ないかだけじゃない。
安全に確保して、必要な場所まで運べるかまで含めて考えなければならない。車は、もともと残っているガソリンだけが使え、給油できない設定で挑んだんですけど、それでも車を出したのは、ほぼ水汲みでしたね」

 そして、食料の確保も被災時には重要な問題。当たり前のように使えていた冷蔵庫は使えず、中身は傷んでいく。そこで、東出が実践したのは肉の塩漬けだった。獲った猪や鹿の肉を塩で保存し、食べる際には薄く切って水で塩を抜く。その水も捨てず、肉の筋や野菜、ヨモギなどと一緒に鍋へ入れ、スープに。水も食材も無駄にしない。

「みんな『備蓄が!』と言うけど、備蓄ってまずは知識だなと思いました。そして、実体験が必要。長期保存に塩漬けという知識があったうえで、この肉は3週間塩漬けにしても食べられるとわかれば、もっと有効ですよね」

 本来、湧き水の飲用も食料の保存も公的な衛生基準に従うべきものだ。「そんな水と肉を食べても大丈夫ですか?」と心配する取材班に、東出は「被災下ですから」と笑う。

「身体は思った以上に賢い。
塩辛いと身体が感じたら塩抜きをもっとすればいいし、口に入れてビリビリするなら、それは身体に毒。そういうものは食わなければいい。ネットに落ちている数字や基準だけで判断するんじゃなくて、その場その場で自分の五感と相談し合いながらやっていく。すべての生き物がそうだし、それでいいんじゃないかなあ」

東出昌大「電気、ガス、水道、スマホ全部断ち」被災想定生活を直撃!塩漬け肉と湧き水で気づいた“人間の弱さ”
山で獲った猪や鹿の肉を捌き、塩漬けで保存して食料に


人間の弱さを知ることで生きる力が身につく

東出昌大「電気、ガス、水道、スマホ全部断ち」被災想定生活を直撃!塩漬け肉と湧き水で気づいた“人間の弱さ”
被災想定生活に備えて備蓄された食料
 一見すると、東出の暮らしは、何でも一人でこなす屈強なサバイバル生活に見える。だが、今回の被災想定生活で「自分の力ではどうにもできないこと」と尋ねると、彼はむしろ、人間という生き物の弱さについて語り始めた。

「ちょっと壮大な話になっちゃうかもしれないんですけど、やっぱり人間はめちゃくちゃ弱いから、集団を作ったんだと思うんです」

 その言葉の背景には、ある朝に撃った、今年生まれの小さな鹿の姿があった。東出は鹿を手に提げて山を下りながら、以前「生きる意味がわからない」とこぼした後輩を思い出したという。生まれたばかりの鹿は、生きる意味など考えることもなく、身一つで懸命に生きていた。一方、人間はさまざまな道具や社会に守られながら、それでも生きる意味を見失うことがある。

「野生動物って、まったくの素っ裸で日々生きようとしていて、強い。僕らは服を着て、電車や自転車、私なら鉄砲と、いろいろな道具に頼っている。人間って、あらゆるものがないと生きていけない。それは、人同士で付き合わないと生きていけない、ということも含めてなんですよね」

 災害時こそ自分の弱さを知り、道具を使い、人に教えを乞い、足りないものを補う力こそが重要というわけだ。


「便利さは否定しません。でも、不便だから足るを知ることができる。山暮らしをしたおかげで先人に教えを乞う素直さも、食べ物や知恵を分け合う関係もできました。ただ浪費するより、不便って美しいんじゃないかなって、最近は思いますね」

 ライフラインを断ったことで見えてきたものは、防災という枠を超え、東出が山暮らしの中で考え続けてきた「どう生きるか」という問いにも繋がっている。

東出昌大「電気、ガス、水道、スマホ全部断ち」被災想定生活を直撃!塩漬け肉と湧き水で気づいた“人間の弱さ”
塩漬け肉の保存力を力説する東出さん(動画より引用)

普段から何が必要で何が不要かを知っておく

 9月25日発売の著書『誰が為にか書く~東京から離れた山暮らし日記~』でも東出は狩猟、自然、家族だけでなく、山暮らしの共同体について経験したことが綴られている。そこに書かれているのは、都会を捨てて自然へ帰れという単純な主張ではない。便利さや正しさに答えを預けず、自分の身体で感じ、迷いながら考えようとする姿勢だ。

「山で起きた出来事を言葉にし、整理し、忘れないように残しただけなんですけどね。私は単純に学がないし、ノリで書いている部分があって。猟友会のオッチャンたちのトレースではないですけど、状況とかを思い出して、文章にすることによって整理しました。この日常を忘れてしまわないように、みたいな」

東出昌大「電気、ガス、水道、スマホ全部断ち」被災想定生活を直撃!塩漬け肉と湧き水で気づいた“人間の弱さ”
『誰が為にか書く~東京から離れた山暮らし日記~』(扶桑社)
 狩猟を始め、山へ移住し、土木、水道管、伐木などそれまで知らなかったことを次々に経験した。

「この田舎暮らしの数年は無我夢中で、知らないことばかり。
でも新しい経験がいっぱいあったから、本を書けました。被災想定生活もそう。新しい経験を通じて、自身の弱さや失敗を通過したから伝えられる。東京にいたら書けない。『悪名高き東出』がいろいろあった末に書けた話で、良しにつけ悪しにつけ、素直に書いたとは思います」

 災害時の「生き抜く力」と日常を「生きる力」は、別ものではない。自分にとって何が必要で、何が無くても生きていけるのか。平時から知っておけば、日常が崩れても、自分の足で生き抜けるのかもしれない。

<取材・文/SPA!編集部 写真提供/東出昌大>

東出昌大
1988年、埼玉県生まれ。’12年に映画『桐島、部活やめるってよ』で俳優デビュー。現在は東京を離れ、北関東の山間部を拠点に狩猟を行い、半自給自足の生活を送る。9月25日、著書『誰が為にか書く~東京から離れた山暮らし日記~』(扶桑社刊)発売予定
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