―[今野忍の政治裏読みガイド 永田町[壁耳]ノート]―

就任から1か月足らずで農水大臣交代ーー。高市政権発足から間もなく1年というところで発生した新閣僚の不祥事と事実上の更迭劇から、元朝日新聞政治部記者の今野忍氏が「いい更迭」「悪い更迭」を紐解く。

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予算カット発言はかばい、無料送迎バスで「ダサい」と切り捨て

「不適切で本当にダサい」

10月13日の衆院予算委員会で、高市総理が簗和生農水大臣の発言をこう切って捨てた。ほんの5日前は「仕事で返せ」とかばい、官邸幹部も「しのぎ切れるだろう」と強気だったのに、数日でこの変わりよう。正直、ひっくり返りそうになったよ。

でも、このときに事実上の更迭は確定していた。“ダサさ”は仕事で返上しようがない。簗さんが取り得る選択肢は「辞任」以外になくなったのだ。

この更迭劇について言いたいことは一つだ。遅すぎる。菅義偉さんが官房長官だったら、予算委が始まる前の9日の金曜日には切っていたと思う。

おさらいしておこう。簗さんは今年5月、地元・栃木の自民党の会合で、衆院選で対立候補を応援した首長がいる2市町について「道路予算は大幅にカットした」と言い放った。音声が週刊誌に出て、本人は「誤解を招いた」と撤回した。

応援しないなら予算を削る。
実際に予算を動かしたかどうかは別にして、これはもう恫喝でしょう。

ところが10月13日、もう一発きた。衆院選の出陣式で支援者をマイクロバスで無料送迎していた問題だ。有権者の送迎は公職選挙法の利益供与に当たり得る。簗さんは「バスを借りる前に選管に確認した」と答弁したけど、栃木県選挙管理委員会は「問い合わせの記録はない」「記憶もない」。聞かれていたら「差し控えたほうがいい」と答えた、とまで言う。国会答弁と選管の説明の食い違いは、失言よりずっと重い。致命傷になったのは明らかだ。

さて、ここからが本題。大臣の更迭には「いい更迭」と「悪い更迭」があるんだ。

悪い更迭の代表が、遅すぎる更迭。第1次安倍政権がまさにそれ。
「ナントカ還元水」の松岡利勝農水大臣を、安倍さんはかばい続けた。その果てに、現職大臣が命を絶つ悲劇が起きた。後任の赤城徳彦さんは顔に絆創膏を貼って会見し、これも参院選が終わるまで切れなかった。農水大臣が鬼門になって’07年の参院選は与党過半数割れとなる歴史的大敗。政権は1年で終わってしまった。

切る相手を間違えるのもダメ。小泉純一郎さんは人気絶頂の田中真紀子外相を更迭して、支持率がガクンと落ちた。民主党政権を率いた鳩山由紀夫さんは社民党の福島瑞穂さんを罷免して連立が崩れ、数日後に退陣表明した。

「いい更迭」をする総理の側には冷徹な官房長官あり

じゃあ、いい更迭とは。お手本は第2次安倍政権だ。‘14年には、政治資金問題の小渕優子さんと団扇問題の松島みどりさんを同じ日に辞めさせ、傷口を一気に塞いだ。被災地を傷つける失言には容赦なかった。
’17年の今村雅弘さんの「東北でよかった」、‘19年の桜田義孝さんの「復興以上に大事なのは」。どちらも即辞任。

当時、この対応を取材していた私に、菅さんはきっぱりこう言った。

「被災地の人を傷つけるような失言は即更迭する。安倍総理とそう決めている」

逆に、失言でも場合によってはかばった。基準がはっきりしていたんだ。

もう一つ大事なのが後任選び。去年5月、「コメは買ったことがない」の江藤拓農水大臣は、石破茂さんが続投させて交代まで3日かかった。それでも後任の小泉進次郎さんが備蓄米で流れを変えた。それにしても、また農水大臣だよ。

面白いのは、悪い更迭、いい更迭、どちらも経験したのが安倍晋三さんだってこと。安倍さんはやさしい人で、仲間を切るのが本当に苦手だった。
違ったのは、隣に誰がいたか、なんだ。第二次政権には、総理がためらっても冷徹に切る菅官房長官がいた。

菅さんは政権発足直後、閣僚たちにこうクギを刺した。

「失言や歴史認識をめぐる勝手な発言は絶対に許さない。即更迭もありうる」

その効き目か、第2次安倍内閣は617日間、一人も閣僚が代わらなかった。戦後最長の記録だ。その後も切るときは速く、後任はすぐ決めた。「辞任」報道が続く時間を、とにかく短くするためだ。

つまり、更迭のうまい下手は総理の性格じゃない。「切る役」がいるかどうかで決まるんだ。

高市総理は安倍政権をお手本にしていると言われ、今井尚哉さん、秋葉剛男さん、佐伯耕三さんといった「チーム安倍」の面々が官邸に戻ってきた。でも肝心の「切る役」は戻らなかった。


しかも、高市政権は7月、内閣情報調査室を格上げして「国家情報局」を立ち上げたばかり。なのに、地元の会合での発言も、選挙の送迎バスも、入閣前に見抜けなかった。身体検査はどうなってるの? でも、問題は情報の量じゃない。情報を見て「この人はマズい」と判断できる人がいるかどうかなんだ。

そもそも音声が出てきたのは身内の会合からだ。栃木3区は保守が割れた選挙区で、簗さんは高市旋風のなかでも小選挙区で勝てなかった。地元の「内ゲバ」のにおいもする。火種を嗅ぎつけるのも官邸幹部の仕事なんだけどね。

第1次安倍政権のように1年で沈むのか。第2次安倍政権のように長く続くのか。高市政権はいま、その分水嶺に立っている。

更迭は、総理の決断力を国民に見せる「テスト」でもある。
「ダサい」と気づけた総理なら、もっと早くに答えは出せたはず。答案を出すのが遅れれば遅れるほど、悪印象がついてしまうもんだよ。

「更迭はテスト」高市総理が決断力不足を露呈した原因と「いい更迭」を元朝日新聞政治部記者が明かす
今野忍●1975年生まれ。アクセンチュアを経て、朝日新聞記者に。'09年に政治部配属となり、菅義偉氏や岸田文雄氏の番記者などを経験。’26年に独立撮影/初沢亜利
「壁耳」とは?
政治記者が稀に行う、壁に耳を押し当てて非公開の会議・会合の内容を探る取材手法。「聴診器を使う先輩もいた」(今野氏)という

―[今野忍の政治裏読みガイド 永田町[壁耳]ノート]―

【今野忍】
1975年生まれ。アクセンチュアを経て、朝日新聞記者に。'09年に政治部配属となり、菅義偉氏や岸田文雄氏の番記者などを経験。’26年に独立
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