当所は「とにかく働いて返せ」と簗氏をかばった高市首相は、無料送迎バス問題が浮上してから「ダサい」と切り捨てることに。簗氏の後任について岩田明子氏は当初「岸田政権で農水相を務めた宮下一郎は適任」と予想していたが、不記載議員(不記載額12万円)だったことがネックになったか?
閣僚の不祥事対応は、辞任させれば終わりではなく、首相の判断力や次の人事にも影響を及ぼす。
ジャーナリストの岩田明子氏は、簗氏の更迭が高市政権と党内力学に残した“傷”を読み解く(以下、岩田氏の寄稿)。

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「3アウト」でも切れなかった高市首相

初めてであれば、逡巡するのも仕方がない。歴代首相も幾度となく判断を誤った。10月14日に事実上、更迭された簗和生農水相のことだ。

周知のとおり、簗氏は自身を支持しない首長のいる那須烏山市と那賀川町の道路予算を「カットした」と話す音声データが流出して、渦中の人となった。26年間、政治記者を続けてきた私も耳を疑った。自身の功績をアピールする政治家はいても、懲罰的な予算カットを公言する人などお目にかかった記憶がないからだ。

さらには、公職選挙法違反が疑われる無料バス問題も浮上し、’24年の衆院選における運動員買収疑惑まで週刊文春に報じられることとなった。その違法性は検証の余地があるが、これで3アウト。チェンジは既定路線だった。

とはいえ、切るに切れなかった高市首相の気持ちは理解できる。応援演説では「私の大事なヤナちゃん」と親しみを込めて呼び、裏金事件の“不記載議員”という批判も覚悟のうえで初入閣させたのだから。

遅れた更迭が政権に残した代償

それでも遅きに失した感は拭えない。
簗氏が謝罪した10月5日の段階で、野党が問責決議案の提出に動くことは目に見えていた。問責提出で高市首相が出席する16・19日の参院予算委員会が空転すれば、消費税減税法案の採決が遅れて会期の延長は避けられない。副首都法案のために、参院自民との確執を生じさせながらも延長した先の特別国会と同じ轍を踏む可能性があったのだ。

その国会運営のミスに続く、大臣罷免という政権運営のミスは禍根を残しかねない。不安視されるのは、支持率と求心力の低下だ。第2次政権時代の安倍首相は、「(震災被害が)東北でよかった」と失言した今村雅弘復興相をわずか40分程度で更迭した。3アウトになる前に交代させれば軽傷で済んだのに、安倍路線の継承を謳い、安倍氏側近を重用してきた高市氏には同じことができなかった。決断が遅れたという事実は、高市人気に陰りを落としかねない。

来年の総裁選にも影響する。簗氏を巡る騒動で、不記載議員の登用リスクが高まってしまったからだ。入閣期待が薄れれば、不満は溜まる。旧安倍派の“高市票”を少なからず失った可能性があるのだ。


実際、簗氏の後任は“非”不記載議員の武部新氏(武田グループ=旧二階派)に決まった。実務能力に優れた「チーム・コバタカ」メンバーであり、農林水産行政に精通する即戦力だ。不記載組の不満は溜まるかもしれないが……新体制で政策実現に注力する高市政権に期待したい。

簗農水相を「3アウト」まで切れなかった高市首相。更迭が政権に残した“思わぬ代償”<岩田明子>
岩田明子
<文/岩田明子>

【岩田明子】
いわたあきこ●ジャーナリスト 1996年にNHKに入局。20年にわたって安倍元首相を取材し、「安倍氏を最も知る記者」として知られることに。’23年にフリーに転身後、『安倍晋三実録』(文藝春秋)を上梓。’26年4月にはYouTubeチャンネル「TABOO CRASH岩田明子のオフレコ部屋」を開設
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