今年1月の箱根駅伝で、20年間続いていたシード権を逃した東洋大は、21年ぶりに箱根駅伝予選会に出場。選手はもちろん、酒井俊幸監督も初めての経験だった。

 それでも結果は、2位の中央学院大に2分01秒の大差をつけて1位となり、地力を見せつけた。

【箱根駅伝】"鉄紺の走り"は戻ったのか 東洋大が箱根予選会圧...の画像はこちら >>
 今シーズンここまでのチームについて酒井監督はこう話す。

「失ったものも多いですが、現状を真摯に受け止めつつ、新たな気づきや得られるものもあった半年だと思います。全日本の選考会が以前の6月から5月に変わったというのも影響がありますが、その分、有酸素トレーニングに入る時期がだいぶ早まりました。

 予選会があるということで、スケジュールをこれまでとは変えて早め早めにし、夏合宿の足作りの期間を明確にして合宿の日数を増やしました。今年は夏に走り込みをするよりも、実戦的な練習をすることを重視しました。だから夏の前にある程度、有酸素の量をしっかり確保できたところが昨年と大きな違いです」

 練習を積み重ねるなかで、選手層の厚みが増した手応えがあったからこそ、昨季は出雲駅伝と箱根駅伝を走った濱中尊(4年)と迎暖人(3年)を全日本大学駅伝に向けて温存する作戦を取れた。さらに、初ハーフマラソンとなった1年生3人を含めた駅伝未出走者たちにもチャンスを与える場だとも酒井監督は考えていた。

「ハーフマラソンは経験値が大事だし、緊張するなかで走れる実戦はこれ以上ない成長の場。『ここは自分の壁を越えるチャンスだし、結果を出せば本戦でも走れる機会が十分出てくるから大いにアピールして欲しい』と選手たちには話をしました」

【エース級に成長】

 そんななかで快走を見せたのが、今年はエース候補として存在感を高めている宮崎優(3年/箱根:5区区間15位)だった。スタート時の気温は17.5度だが、陽射しが強く、風も強い条件のなかで留学生たちは少し抑える走りになり、5km通過は14分40秒台と少し遅めな出だしだった。

「想定していた14分半よりは少し遅かったですが、それくらいでも留学生について行こうと思っていたので、『前田さんとふたりであげていきたい』と考えながら走っていました」と、前田和摩(東農大4年/1万m自己ベスト27分21秒52)とともに食らいついた。

 そして昭和記念公園内の起伏のあるコースに入ると、「アップダウンが得意なのは自分の強みなので、17.4kmの折り返しからビルドアップしていこうと思った」と、集団がばらついたなかで前田を離して前にいた留学生も抜き、自己記録を1分17秒更新する1時間01分05秒の4位でゴール。

 15~20kmを全体最速の14分19秒まで上げた走りを、酒井監督は「スタート位置は最前列だったので、もう初めから留学生についていくと決めていました。宮崎が行けばおそらく東農大の前田くんや他の日本人たちも来るから、そのなかで日本人トップをしっかり取るんだと言いました。取れてしまった1位ではなく、狙っていく1位にしようと話をしましたし、それを実現したのは価値があると思います」と結果を評価する。

 箱根駅伝は2年連続で5区を走っているが、今回、平地で戦える力を見せて2区候補に浮上したのは大きな収穫だ。

【箱根で走りを見たい選手たち】

 宮崎のほかにも単独で走り、結果を残したのが、1年生の時からエース候補と注目されていた松井海斗(3年/箱根:1区区間3位)と内堀勇(3年/箱根:6区区間14位)だ。

 松井は今年5月の全日本大学駅伝選考会で出場権を確実にする走りを見せたあと、大腿骨疲労骨折が判明して夏場は少し出遅れていた。それでもこの予選会では、一時、日本人集団から抜け出す意欲的な走りを見せ、チーム4番目の全体36位でゴールと健闘した。

 今回の予選会を松井は、こう振り返る。

「宮崎が留学生レベルのタイムで走ってくれたので、そこは助かったなと思います。本戦ではこの借りを逆に......。(宮崎は)チームメイトだけど、区間順位やいい順位で襷を渡して、今回の借りを返してやろうかなと思います」

 内堀について酒井監督は、「もう少し行って欲しかった」と振り返ったが、自己記録に近い1時間02分49秒でチーム3番目の全体30位と悪くない走りだった。

 さらに、主将の薄根大河(4年/箱根:10区区間6位)が「自分としては1時間2分台で走りたかったですが、駐屯地内は結構バタバタするところがあったので、しっかり声をかけて(チームメイトを)コントロールしながら走りました」と、5人の中堅グループをまとめた。

 そのグループも確実な走りで結果を残した。

駅伝未出走の馬場大翔(4年)が自己記録更新のチーム2番目の走りをしたのを筆頭に、5人全員が全体84位までの1時間03分46秒以内だったのだ。

【箱根駅伝でシードを得るために】

 ケガから復帰して予選会を走った松井は、箱根に向けてこう意欲的な姿勢を見せる。

「僕も2区を走りたい気持ちはありますが、来年のためにも復路を4年生に任せて、3年生で往路を埋めたいという気持ちもあります。3年生で往路を5番とか3番で走れば来年にもつながるので、そういう位置で走りたいと思います。

 自信のある1区も視野にはあるし、宮崎に繋いでふたりでいい流れを作りたいというのもあるけど、ほかの区間も......。3区には1年の時から走っている迎はいるけど、彼から奪えたら奪ってやろうかなという気持ちはあるし、4区でも......。どこを走っても区間5番以内とか3番以内で、チームの流れを作るような走りができるようにしていきたいと思います」

 シード校のエースたちとも戦えそうな走りを見せた宮崎と、それに刺激を受けた松井のダブルエースの形が見えてきたことで、チームはさらに活性化するはずだ。

 酒井監督もこの予選会の走りを見て、少し安堵した表情も浮かべながらも、ここからさらに気を引き締めていくようだ。

「最低でもシード権は取らなければいけないと思っていますが、やっぱりシード権が目標だとそこまでになってしまうので、やっぱり5番6番あたりは狙っていきたい。往路には経験値のある選手が残っているので、あとは山をしっかり攻略して流れに乗っていければ、本戦でもある程度やれるのではないかと思います」

 宮崎と松井のふたりが高いレベルでそろったことは、チームにとっては大きな武器になる。箱根を走った実績がある松井と宮崎を1区と2区に並べれば、迎の3区も含めてここ数年苦しんでいた前半の流れを作ることができるだろう。

 ほかのパターンだと、1区に別の選手を起用して上位でしのぐことができれば、宮崎が2区、松井をほかの勝負区間に起用して、ゲームチェンジャーとして使える可能性も出てくる。

本戦に向けては、山の克服とともに1区の起用も勝負を決める注目ポイントになるだろう。

 前回の箱根は苦しんだ東洋大だが、今年の予選会では大きくジャンプアップする可能性を見せた。他校にも前回の黒田朝日(青学大/GMO)のような突出した存在がいない状況を考えると、東洋大が"台風の目"になるかもしれない。

折山淑美●取材・文 text by Toshimi Oriyama

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