ドジャースの山本由伸選手が打者分析のためベンチで黒いノートに記帳する姿が、アメリカで話題を集めている。同国の著名司会者は、「彼は手で書く」とコメント。
最新技術で選手の動きが細部まで分析される時代に、アナログな方法を取っていることがかえって新鮮に映っているようだ。
ジャーナリストの森田浩之氏は、山本由伸選手の黒いノートがなぜ注目を集めたのか、その背景と受け止め方を考える(以下、森田氏による寄稿)。

米で「デスノート」と話題。山本由伸の“黒いノート”に見る、習...の画像はこちら >>

データ全盛だから際立つ「手書き」

ドジャース・山本由伸投手の黒いノートが、アメリカで注目されている。イニングの合間にベンチでノートを開き、真剣な顔で何かを書きつける様子は、カメラにも頻繁に捉えられている。一部のファンは日本の人気漫画を連想し、「ヤマモトはデスノートを書いている」などとネットに投稿した。

ビジネス分野の情報を発信し、SNSで33万人超のフォロワーを持つアーカシュ・グプタ氏も山本の習慣を称賛している。MLBで高度な分析システムが使われ、試合中もタブレットでデータを確認できる時代に、山本は手で書く。データが示す打者の傾向に、自ら対戦して得た情報を加えていると、グプタ氏は言う。

データ全盛の舞台だからこそ、紙とペンが際立つ。分析システムが働く様子は見えないが、選手が書き込む姿は見える。小さなノートは、巨大なシステムに囲まれても自分で考える人間の象徴にも見えてくる。情報を集めるだけではだめ、自分の頭で考え、自分の言葉で書き記すことが大切──確かに、ビジネスにも応用できそうな教訓だ。

成功者の習慣を真似れば成功できるのか

だが、ここでちょっと立ち止まってみたい。
私たちは山本がノートを書くことと、彼が優れた投手であることを知っている。しかし山本が何を書き、それを投球にどう役立てているかまでは知らない。

成功した人の習慣には、その秘密が宿っているように見えるものだ。睡眠、食事、読書、スマホの使い方。身近な習慣をまねるだけで、成功に近づけそうな気になる。山本のような球を投げられないことはわかっていても、文具店で黒いノートを買ってきたくなる。だが「手で書く」こと自体を成功の秘訣と考えるのは、話を単純化しすぎている。

その習慣が野球文化と結びつけて語られると、成功の秘訣という説明に、いっそう説得力が増すように感じられる。グプタ氏は、日本の少年たちが野球日誌をつけていることを紹介している。日本の野球文化という背景は、山本のノートを個人的な習慣以上のものに見せているかもしれない。

山本自身、ノートを書き始めたのは中学生時代のチームで決められていたからだと語っている。書き忘れると練習が増えたり、走るメニューがきつくなったという。


山本のノートから学ぶなら、注目したいのは「手で書く」という習慣だけではない。何を書き、どこを読み返し、次にどう生かすのかという使い方まで考えたい。その答えは、文具店に並ぶノートには書かれていない。

米で「デスノート」と話題。山本由伸の“黒いノート”に見る、習慣を真似るだけでなく“生かし方”に目を向けたい理由
森田浩之
<文/森田浩之>

【森田浩之】
もりたひろゆき●ジャーナリスト NHK記者、ニューズウィーク日本版副編集長を経て、ロンドンの大学院でメディア学修士を取得。帰国後にフリーランスとなり、スポーツ、メディアなどを中心テーマとして執筆している。著書に『スポーツニュースは恐い』『メディアスポーツ解体』など
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