◆米大リーグ ドジャース6―3パドレス(16日、米カリフォルニア州ロサンゼルス=ドジャースタジアム)
ドジャース・大谷翔平投手(30)の二刀流が復活した。16日(日本時間17日)の本拠地・パドレス戦に「1番・投手、DH」でフル出場。
久しぶりの感覚だった。663日ぶりにマウンドに立った大谷は、自分一人の世界にいた。月曜日としては今季最多5万3207人の観衆が、一挙手一投足を見逃すまいとした静寂の中、ノーワインドアップから左足を上げた。「打者に集中していたので、(大観衆を)あまり気にする余裕がなかった。入りすぎていたぐらいの感じだった」。157・1キロのツーシームが先頭・タティスのバットをはじく。ファウルの打球音とともに、投手・大谷が帰ってきた。
感情が高ぶり、リミッターも外れた。先頭にポテンヒットを許すなどして迎えた無死二塁。
感情豊かに、投手を堪能した。無死一、三塁からマチャドに中犠飛で失点。本塁がクロスプレーとなると、思わず「アウト!」と拳を握り、セーフの判定に「ノーノー!」とグラブを突き出した。1回28球の復帰登板は、2安打1失点。5月中旬にはキャッチボールでも禁止されていた宝刀スライダーも10球投じた。1度目の右肘手術から復帰した20年7月には1死も奪えず3安打3四球、5失点KOだったが、悪夢を振り払った。
グラブをバットに持ち替え、直後の攻撃は汗をかいたまま1番打者として打席に立った。空振り三振に倒れたが、1点を追う3回2死三塁では左中間適時二塁打で自らの黒星を消した。
長い道のりだった。投手人生をかけた2度目の右肘手術。「現実的に見れば、やはり(右肘手術は)2回目くらいまでが投手としては理想かな」。左肩手術、打者調整優先など、全てが順調に進んだわけではなかったが、投手への思いは揺らがなかった。支えたのは「打つのも投げるのも好き」という少年時代から変わらない単純な思い。「投手の日はすごく緊張する。その緊張感が恋しい」。まだキャッチボールも再開できない頃、無人のクラブハウスでグラブをつけ、シャドーピッチングをした日もあった。
投手としての復活ロードが始まった。「自分の中でいいイメージを持って、前進できる材料はいっぱいあった」と収穫を挙げ、実感を込めて言った。「本当にうれしい気持ち。いい一日だった」。二刀流で世界一。大谷にしか描けない夢へ再び歩き出した。(安藤 宏太)