監督から「移籍した方がいい」の言葉…丹羽大輝が「１％」の可能性を信じて移籍を選ばなかった理由 (2025年6月19日)

スペインでプレーする元日本代表ＤＦ丹羽大輝は、２０２４―２０２５年シーズン、アレナス・ゲチョの一員として４部相当リーグでリーグ優勝を果たした。自身の出場はわずか５試合。それでも「最高の１年でした」と振り返る。日本ではＧ大阪、徳島、大宮、福岡、広島、ＦＣ東京でプレーし、新たな挑戦を求めて飛び込んだスペインの地。４年目にして直面したのは、サッカー人生初の“戦力外扱い”だった。そんな状況にあらがい、戦い、そして覆した１年間を振り返った。（全４回の２回目 取材・構成 金川誉） スペインでの４シーズン目、丹羽大輝は在籍２年目となるアレナス・ゲチョで、サッカー人生初の困難に直面していた。それを痛感したのが、イバイ・ゴメス監督の言葉だった。 「キャンプが終わった時点で、はっきりと言われました。（試合に）使うことはできない。大輝のキャリアを考えても、移籍した方がいい、と」 Ｇ大阪でプロキャリアをスタートし、Ｊリーグで５クラブ、スペインで２クラブを渡り歩いてきた。長いキャリアの中で、出場機会を失ったことは今回が初めてではない。ただ、自身が試合に出ようが出まいが、常にポジティブなエネルギーをチームに与える振る舞いを続けてきた。そんな選手を重宝しない監督はいない。それはＪリーグでも、スペインに渡っても変わらなかった。 「海外では契約の問題やクラブは早くその選手を放出したい、または監督とうまくいっていない、人間的にも練習態度が悪い、とかの理由で、蚊帳の外になって練習もさせてもらえない、という状況もある、とはよく聞いていました。ただ、まさか自分がそういう状況に身を置くとは思っていませんでした。だからすごく不思議な感覚になりましたね」 当然、ゴメス監督からの“移籍の勧め”には戸惑いもあった。さらに、周囲にはざわつきが生まれる。昨季までレギュラーとしてプレーしていた丹羽が、ベンチにも入っていない状況は、すぐに他クラブの耳にも入る。他クラブからのコンタクトもあった。当然、移籍という選択肢も考えた。しかし答えは出た。 「ここは僕にとって大きなポイントだった。まだ、自分自身のことを何も知ってもらっていない。ここで移籍は違うなと。もっと知ってもらえたら、絶対に評価は変わる。監督が僕のことをどう思っていたかはわからなかったけど、きっと思っているような選手じゃないですよ、って証明したかった。あとは、僕のことを否定されるのは受け入れられる。でも今回の件は、僕を否定するだけじゃなくて、僕が今まで携わってもらった指導者、親、自分の人間性を形成してくれた人たちも否定される気がした。だから、僕は残ります、と。勝手に自分の周りの人たちの思いも背負って、シーズンをスタートした感じでしたね」 シーズンが始まっても、状況は変化しなかった。ベンチ外が続く日々。練習でも、満足にプレーはできなかった。当然、悔しさは募る。それでも、これまで感じたことがない感情がわき上がってきたことも事実だった。 「この経験も、プラスになるんじゃないか、と思っちゃったんですよね。将来、自分が指導者などのキャリアを歩む時に。本当の意味で現役生活の中で、構想外の状況に身を置かれた選手の気持ちって、経験しないと絶対わからない。初めての感情に、ちょっとワクワクしている自分もいた。普通なら、９９パーセントの選手が移籍する、という状況。でもその１パーセントから変えてやると」 絶体絶命の状況を変えるには、普通のアプローチでは足りない。そんな中で丹羽が選んだのが、「毎日の練習を試合と捉える」という考えだった。試合に出ていたシーズンでも、練習には１００パーセントで臨んでいた。しかし、やはり試合に向けてのコンディション調整、という意味合いはある。しかし、今は試合に出られない。 「だから僕にとっては、毎日の練習が試合でした。そのために全力で準備して。試合から試合に向けた中日の練習が、僕の中での試合になった。とことんやりつくしました、ハイパフォーマンスを出せるように。今までは週に１回の試合に向けて準備していたものが、逆に試合日とオフの日を除いた５日間になりました。負担は大きかったけど、やりきりました」 矢印をすべて自分に向け、すべてを捧げ、現状を変えようと戦い続けた。それでもシーズン半ば、１２月にはゴメス監督からボイスメッセージが届いた。「スペインではボイスメッセージでやりとりをよくするんです。監督からは、ここのチームが大輝に興味を持っているから、話を聞いてみたらどうだ？ というような内容でした。監督もまっすぐな人。僕のことを思って、というところもあったと思います」と語る。このころ、チームは好調を維持。当然、勝っているチームはメンバーを変えないのがセオリーだ。半年以上が経過しても、状況は変わらないように見えた。しかし、少しずつ事態は動き始めていた。（第３回に続く）