メジャーリーグで、あの試合の裏側や日本人選手の頼れる同僚の秘話など、“サイドストーリー”に焦点を当てる「My Loving Baseball」。第5回はドジャースの期待のルーキー、ダルトン・ラッシング捕手(24)に迫った。

今季5月にメジャーデビューを果たした球団の超有望株。すでに大谷翔平投手(31)とも2試合でバッテリーを組んだが、現在は控え捕手としてメジャーでの経験を積んでいる最中だ。そんなラッシングが大谷から学んだこととは―。

 「野球とは失敗のスポーツだ」。ドジャースのルーキー、D・ラッシングは今、直面している壁を楽しんでいる。

 ラッシングは、180センチ、99キロの雄大な体格からパワフルな打撃を誇るド軍の超有望株。今季5月15日(日本時間16日)のアスレチックス戦でメジャーデビューし、いきなり2安打を放つなど評判にたがわぬ活躍を見せた。マイナーでは当然、日々試合に出場していたが、現在は打率3割2分6厘と好調な正捕手スミスを休養させる日にしか先発できない中で、自分のリズムがうまくつかめずにいる。

 「これまではフィールドで常に自分のやりたいことをやってきた。でもメジャーでは15年目のベテランだろうと1年目のルーキーだろうと、必ず顔面にパンチを食らう瞬間がある。自分は今、これまでの人生で一番多くの失敗を経験している最中。でも、それこそが野球の面白さだ」。

高レベルな環境で多くを学び、さまざまな経験を積むことが、自分の目指す姿への近道だと分かっている。「今のこの経験が5年後の自分を間違いなく助けると信じている。自分には絶対にできると100%確信している」と話す表情には、出場機会が少なくても期待に応える重圧と向き合っていく覚悟がみなぎる。

 メジャー昇格から約2か月。投手復帰を果たした大谷ともバッテリーを組んだ。6月22日(日本時間23日)のナショナルズ戦で初バッテリーを組むと、28日(同29日)のロイヤルズ戦では大谷のメジャー公式戦最速となる101・7マイル(約163・7キロ)をミットで受けた。全世界からの注目を集める大谷の“女房役”を務めてもプレッシャーはまったく感じないという。「彼はメジャーリーグでも屈指の投手。ほとんどの打者を打ち取ることができる。でも彼も自分と同じ一人の選手だ。捕手の仕事は投手のサポート。翔平でも他の投手でも自分のやるべきことは変わらない」と胸を張る。

 その大谷を日々間近で見られるのは、ドジャースにいる大きな利点の一つだ。中でもラッシングは、大谷のメンタルの強さに敬服している。

 「彼はどんな場面でも気持ちが高ぶることなく、常に冷静だ。どんな状況にも備えて準備していて、何が起きても驚かない。たとえ2打席連続で三振しても、その次の打席でホームランを打つことができる。常に平常心を保つことができるのは、野球において非常に価値がある」

 その上で、ラッシングに聞いた。これまでとは違う控え捕手としての日々を送る中で、心の平静を保つ秘訣(ひけつ)とは。

 「なぜ自分はここにいるのか、ここに来るために、どれだけのことをしてきたかを考える。それによって自分がこのクラブハウスにいるべき人間だ、という自信を持つことができるんだ」

 ひたむきに自らの道を切り開こうとするラッシングの言葉と姿勢には、若くして自分を信じる誇りが感じられた。(村山みち通信員)

 ◆ダルトン・ラッシング(Dalton Rushing)2001年2月21日、米テネシー州生まれ。24歳。ルイスビル大から22年アマチュアドラフト2巡目(全体40位)でドジャース入団。

25年5月15日(日本時間16日)のアスレチックス戦でメジャーデビュー。同17日にはカーショーの復帰登板でも先発マスクをかぶった。メジャー通算23試合で打率2割3分1厘、1本塁打、10打点。180センチ、99キロ。右投左打。

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