◆第107回全国高校野球選手権千葉大会 ▽2回戦 佐倉10―2千葉工=8回コールド=(12日・袖ケ浦市営)

 千葉では、長嶋茂雄さん(享年89)の母校・佐倉が8回コールドで大勝発進。天国のミスターに白星をささげた。

「4番サード」の継承者、斎藤慶明内野手(3年)が8回に中越え2点三塁打を放つなど、ユニホームの内側に喪章をつけて臨んだナインは全力プレーで夏1勝をもぎ取った。13日には沖縄で決勝が行われ、今夏で初の甲子園出場校が決まる。

 強い風が吹いた。佐倉の4番・斎藤はダイヤモンドを駆けた。4点リードの8回1死二、三塁。いつも通りに素手でバットを握ると、強く振り抜いた。打球は風に乗ってセンターの頭上を越える。三塁打で2者が生還だ。火のついた打線はこの回4点。16安打10点でコールド発進し、ナインは胸を張って勝利の校歌を歌った。

 「4番として一本出したい気持ちが強かった。素手は昔からずっとです」。

斎藤は佐倉市の出身。小4から小6まで、市内の長嶋茂雄記念岩名球場で行われたミスターの野球教室に参加した。「長嶋さんの後ろで写真を撮ったんです。すごいオーラでした」

 2年の冬、投手から三塁手に転向。今年4月には4番に昇格し「4番サード」を担う。父・恵司さん(53)から「長嶋さんと同じだね」と言われ、発奮した。「黙々と練習していました。電車を一本早くして朝練したり、夜遅くに素振りをしていました」と恵司さん。長嶋さんも大事にした素振りの成果を、夏の初戦で発揮した。

 6月3日朝。ナインに衝撃が走った。長嶋さんが天国に旅立った。

当日は試験期間中。練習再開の5日、奥村武広監督(62)は三塁付近に部員を集めた。長嶋さんが高校時代、ノックを受けた場所だ。偉大なOBの功績を説明した後、言った。「今後もずっと空の上から見てくれているはずだ。恥ずかしくない野球をやろう。長嶋さんのように明るく、気合を入れてやろう」。三塁ベースを囲み、黙とうをささげた。選手たちの胸が、熱くなった。

 この日もミスターと戦った。ベンチ入りメンバーはユニホームの内側に、控え部員は袖に喪章をつけた。「雲の上からでも、お力を貸してもらえないかなと」と奥村監督。

5回と8回の4点は、ともに追い風に乗って打球が伸びた。指揮官は「長嶋さんの風じゃないですけど、運んでくれたのかな」と空を見上げた。

 まず1勝。斎藤が「一戦必勝で勝ち進み、ベスト16を目指したい」と語れば、奥村監督も「一生懸命やり切ることで応援してくださる方…長嶋さんにも届けられると思う」と力を込めた。ともに戦う熱い夏。激戦区に、季節外れのサクラを咲かせる。(加藤 弘士)

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