◆スポーツ報知・記者コラム「両国発」

 そういえば、今日の先発投手って誰だっけ? 白熱した試合を観戦した後に、ふと我に返って考える。すぐに思い出すのだが、序盤の展開を忘れるくらいの接戦を見たという充実感を覚え、少しうれしくなるのは私だけではないはず。

野球は「そういえば…」が多々あるスポーツだと思う。

 4月29日の巨人―広島(東京D)。巨人の増田大輝内野手は、1点を追う9回に代走として途中出場し、好走塁で同点のホームを踏んだ。その後は中堅の守備に就き、延長12回に浅い飛球をダイビングキャッチ。流れを渡さず、甲斐のサヨナラ犠飛につなげた。スーパーサブとして難なくやってのけていたように見えたが、本職は内野手だ。なぜ外野守備が違和感なくできるのか尋ねた。

 「去年の初めからは内野用グラブでいこうって決めて、内野の延長線上だと思って守っている。外野用はグラブが長いから、みんな小指部分に指を2本入れるけど、グラブの角度がずれる。長い分、弱さを感じて捕った感覚もないし、少しの差で無理だった」

 一昨年の途中までは内野用より一回り大きい外野用グラブを使っていたが、扱いきれず平凡なフライを落とすこともあった。「外野用だったら、飛んできたらどうしよう、どうやって捕ろうかなって不安があった。内野用グラブを使っている分には何とも思わないから」。

常識にとらわれず、自分と向き合い、下した決断で不安を払拭(ふっしょく)。あのプレーの裏側には、そんな過去があったんだと目からうろこが落ちる思いだった。

 「そういえば」から始まった疑問で一つ、職人の奥義を知ることができた。(巨人担当・臼井恭香)

 ◆臼井 恭香(うすい・きょうか) 2024年入社。巨人2軍担当。趣味はボディービル観戦。

編集部おすすめ