◆JERA セ・リーグ 巨人4×―3DeNA(3日・東京ドーム)
巨人がDeNAにサヨナラ勝ちし、連敗を3で止めて2位に再浮上した。1点リードの9回にマルティネスが2登板連続の同点アーチを浴びたが、その裏に途中出場の若林楽人外野手(27)が中越えへ接戦に終止符を打つ二塁打を放った。
現役時代の指揮官さながらの絶叫が、東京Dの大声援と重なった。若林は汗とウォーターシャワーの水がしたたる髪をぬぐいながらお立ち台へ上がると、開口一番「最高でーす!」。3月28日の開幕・ヤクルト戦(東京D)以来今季2度目、昨年6月の加入から1年1か月あまりで早くも、3度目となる劇打。令和のサヨナラ男が、現役時代に13本のサヨナラ安打を残し「サヨナラ慎ちゃん」と呼ばれた阿部監督を「全員が助けられました」と喜ばせた。
左翼の守備に入って途中出場した9回に、守護神・マルティネスが同点ソロを被弾。裏の攻撃で2死二塁となり、出番が回ってきた。「今日はここで決めないとダメだと。本当に集中してアドレナリンを全部、出して行きました」
カウント2―2からバットを短く持ち、内角147キロ直球を前進守備の中越えへ運んだ。
6月中旬に左大腿(だいたい)二頭筋筋損傷で離脱し、G球場で1か月半のリハビリ。「和真さんもいたのでいい勉強ができると見ながら、聞きながら」と、同時期に左肘のじん帯損傷から復活を目指していた主砲が最高の教材となった。岡本の助言を「ヒント」に、バットのトップを投手側に傾けて振り出す好調時のフォームに回帰。「試合に出てない時間こそ、実績を残してる人たちに聞いて引き出しを作ることを大事にしてました」と、打者としての深みを増して1軍に戻ってきた。
徳を積む男を、野球の神様は見ている。グラウンドの右翼守備位置付近に落ちていた小さなゴミを拾ってから練習へ。中学時代の指導者から「それが当たり前と教わってきた」と、10年以上続けてきた原点だ。お立ち台でインタービュアー役を務めた少年に「どうやったらプロ野球選手になれますか」と問われると「運だと思います。
岡本がファームで89日ぶりに実戦復帰。後半戦の8試合で平均4・3点と好調な打線に、主砲が戻ってくる日が間近に迫っている。「すごい緊張感の中でプレーしたい。最後まで本当に戦力になりたいと思ってます」と若林。ひりつく秋を迎えるべく、勝負強い男が打線を支える。(内田 拓希)
◆巨人のサヨナラ男 巨人のサヨナラ安打は王貞治の15本がトップで、長嶋茂雄の14本が続く。現在の首脳陣も多く上位に名を連ねており、13本の阿部監督は「サヨナラ慎ちゃん」と呼ばれた=写真・12年8月19日=。亀井打撃コーチは9本で、17年6月18日ロッテ戦では、前打者のマギーが3打席連続で敬遠されたあとに涙のサヨナラ弾。「これで最後ダメだったら命を取られると思って…」のセリフは語り草だ。この日、途中出場の若林を9番に入れるよう進言した二岡ヘッド兼打撃チーフコーチも8度記録している。
◇清水隆行Point
若林の劇打はきっちりと切り替えることができたことに尽きる。2ボールから、外角のボールからボールになるフォークを2球追いかけるように空振りした。強く振れるカウントとは言え、少し強引さがあるように感じたが、追い込まれてから、逆方向の意識を強めていたのだろう。これが1軍復帰してから3打席目で、重圧がかかる場面。力みも入り、心身のコントロールが難しい状況だったはずだが、それをはね返すメンタルの強さが、1シーズン2度のサヨナラ打につながっていると思う。(野球評論家・清水 隆行)