27年前のインタビュー記事と黄ばんだノートを引っ張り出してきて、2000勝達成に合わせた原稿を用意したのは、わずか20日前のことだった。

 家内と結婚する直前だったこと、カメラマンと明石の会社へおうかがいしたこと…。

社長室の窓から見えた明石海峡大橋。「橋りょう部品の製作、加工は、うち(株式会社きしろ)がやっているんです」松本さんは誇らしげに本業を語ってくれた。そんな思い出に浸る間もなく、訃報(ふほう)に接することになった。

 ジョッキー時代に“ターフの魔術師”と呼ばれた武邦彦さんの大ファンだった。そんな武邦さんが調教師として、松本オーナーの所有馬であるメイショウレグナムで95年の小倉大賞典を優勝。鞍上には、もちろん武豊。メイショウで手にした初の重賞タイトルに武邦さんが感極まった。「号泣しましてね。“タケクニ、涙の重賞制覇”。ことあるごとに、僕はずっと冷やかしているんです」

 9年前の8月15日。武邦さんの告別式で、弔辞を読んだのは松本さんだった。「天国ではお酒が飲み放題らしいですね」悲しみのなか、精いっぱいの優しさで語りかけた。

松本さんらしさだった。天国での再会は、メイショウタバルの宝塚記念の話題で持ちきりだろうか。武豊、石橋守のコンビで、松本さんがこよなく愛した阪神競馬場で手にした最後のタイトルに、2人だけの時間をかみしめているのかもしれない。(吉田 哲也)

編集部おすすめ