◆テニス ▽全米オープン(3日、米国・ニューヨーク)

 2018、20年優勝で、世界ランキング24位、第23シードの大坂なおみ(27)=フリー=が、同13位の第11シードのカロリナ・ムホバ(29)=チェコ=を6―4、7―6で退け、準決勝に進んだ。4大大会での4強進出は23年7月の女児出産後は初めてで、全米では2度目の優勝を果たした20年大会以来。

昨年2回戦で敗れた相手にストレート勝ちで雪辱した。準決勝(日本時間5日午前)では決勝進出をかけ、同9位で第8シード、今年ウィンブルドンで準優勝したアマンダ・アニシモバ(24)=米国=と対戦する。

 世界最大の2万人以上が入るセンターコートが、静まりかえった。大坂とムホバのシューズが、コートをこする音だけが響く。大坂に訪れた2度目のマッチポイント。17本のラリーの末、ムホバのフォアがアウトになると、思わず大坂は左手で目頭を押さえた。

 23年7月に交際相手だった人気ラッパーのコーデーさんとの間に長女・シャイちゃんが生まれ産休へ。24年1月に復帰したが、世界の4強の舞台に戻ってくるまで長い道のりだった。4大大会で4回戦(16強)にさえ進めなかった。「(出産後)初めてのベスト4よ。オー・マイゴッド! 夢が現実になったみたい」

 昨年の2回戦で敗れた相手に雪辱だ。今年の全豪2回戦で勝っていたが、それもフルセットだった。

「とても難しい試合だった。でも、(自分が)泣いてないのが驚き」。その分、関係者席で声援を送った母の環(たまき)さんが、涙を見せた。

 勝敗を分けたのは、第1セットの4―4からの大坂のプレーだ。それまで、お互いにサービスゲームをキープし続けた。大坂はサービスゲームで15―30とリードを許し、このゲームを失えばセットを先行されるピンチだった。

 「焦ってウィナー(決定打)を狙わないようにと自分に言い聞かせていた」。ミスを減らし、安定性を重視した新スタイルが危機を救った。速度を落としコースをついたサービスエース。相手がミスを誘ったドロップショットに対し、強打ではなく、深くコート隅にコントロールした。3ポイントを連取し、5―4とリード。重圧をかけ、続く相手のサービスゲームを破り先行した。

 大坂は過去、ムホバからネットプレーや多彩な球種でかく乱され、ミスを誘われた。ドロップショットや逆回転のスライスで、前後上下に体の軸を動かされ、心身ともに削られた。しかし、5月から続けてきた新スタイルで、その揺さぶりに気持ちを切らすことなく、自らを律することで乗り越えた。

 大坂は、準々決勝に進んだ過去4度の4大大会はすべて優勝。準々決勝以降は12試合無敗の無双状態で、13試合目となったこの日も勝利を積み重ねた。全米3度目の栄冠に向け残り2勝。V率100%の無敵ロードを、安定したプレーで進んでいく。

 決勝進出をかけた次戦は、アニシモバが相手だ。過去、2戦全敗。ともに2022年の4大大会の対戦で、全豪3回戦はフルセット、全仏1回戦はストレートで敗れている。アニシモバは、ジュニア時代から才能は折り紙付き。17歳で出場した19年全仏で4強入りし、世界の注目を集めた。

しかし、けがや燃え尽き症候群で、一時はツアーから離れた。今年2月にカタールで自身3度目のツアー優勝を飾ると、7月のウィンブルドンでは、自身初の4大大会決勝に進んだ。切れ味の鋭いショットが武器。低い弾道で、球がバウンドしてから滑る。大坂は、その返球を焦ってミスするのが、過去の負けパターンだった。しかし、新スタイルのプレーならミスを減らせ、逆に相手を振り回すことが可能だ。(吉松 忠弘)

 ―試合の戦略は。

 「チャンスが来るまで粘ろうと思った。焦ってウィナー(決定打)を狙わないようにと自分に言い聞かせていた」

 ―4大大会で上位進出ができない時期に感じたことは。

 「思っていた以上にテニスが好きだと学んだ。大変だったが、ここまでの道のりを大切に思っている」

 ―母になって変わったことは。

 「ほかのママ選手に多くを学んだ。

皆、復帰してから結果をすぐに出しているので肩身が狭かった。でも、今回で、少し肩の荷を下ろせる」

 ―次のアニシモバの印象は。

 「とても才能のある選手の一人。どこに打ってくるか分からない。対戦表で誰も彼女の名前と並びたくないと思う」

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