◆世界陸上 第8日(20日、国立競技場)

 陸上男子競歩の山西利和(29)、丸尾知司(33)の所属する愛知製鋼に2021年に入部したのが諏方元郁(すわ・もとふみ、25)だ。競歩世界トップクラスの選手と高いレベルで鍛錬して5年目。

心身共に成長を遂げている。世界陸上代表として活躍する偉大な先輩2人から学ぶこと、入部当初から現在の思いなどを語った。(取材・構成=手島 莉子)

 世界トップレベルの競歩選手が集う環境で、さらなる飛躍を狙う選手がいる。2021年1月から愛知製鋼に入部した諏方は「どうすればこの2人に近づけるのか」と山西、丸尾という偉大な先輩の背中を追い、日々模索し、工夫して練習しながら成長を続けている。

 中学入学から陸上の長距離を始め、高校3年生から競歩の道へ。その年の17年全国高校総体は5000メートルで決勝進出を果たすなど短期間で大きく成長を遂げ、卒業後も地元・新潟で林業の仕事をフルタイムでこなしながら、たった1人で競技を続けた。「長い距離の練習は平日の仕事終わりではできないので休日にします。1人だと給水ボトルの準備も大変です」。冬は雪が降るため外での練習は難しく「1周200メートルの体育館でずっと歩いていました。20キロやろうとすると100周です」

 メンタル的にもきつい練習を「淡々と。毎日継続して練習していました」。地道に努力を重ねたことで、大会で好記録を出した2021年に愛知製鋼からスカウトを受けた。

1人での練習でも大きく伸びた記録、今後の伸び率やポテンシャルが、同チームの目に留まり、入部を決めた。

 当時、19年世界陸上で金メダルを獲得していた山西や、競歩界のベテラン丸尾ら憧れていた選手の所属するチーム。最初は「なじめるのかな」と不安もあった。ただ、世界トップレベルの選手と練習を共にできる、今までにないハイレベルな環境。積極的にアドバイスも求めるように努めた。

 これまで1人で練習してきたこともあり、諏方は自身の練習を「点だった」と振り返る。2人の練習を見ると「見据えているものが明確だからこそ、そこに対してのアプローチの仕方に迷いがない」と気がついた。「2人は目標に向けて線となる練習をしています。来週、これをやるから今週はこの段階とか。自分の練習が、どれだけ一喜一憂していたというか、点の練習だったかって一番思いました」。一つ一つの練習の意味を考えながら体を動かすように意識。「練習の質が上がった」。

より充実したトレーニングが積めるようになった。

 2人から学んだことは、競技についてだけではない。これまで「陸上は個人でやるものだし、個人で強化していくもの」と捉えていた諏方。ただ2人のサポートしてくれる方々への姿勢を見て「応援してくださる方、コーチ陣、ライバル。そういうところへの感謝が足りていなかった。そこだけは忘れちゃいけないっていうところを、すごく強く教えていただいた」。より〝チーム〟への意識は強くなり、周りに思いを持って競技に取り組むようになった。

 諏方の長所は「淡々とペースを刻んでいくこと」で、継続することは「生きざまみたいなところがあります」と笑顔で話す。プレッシャーがかかる状況でも冷静に自身を分析して着実に積み上げる。「ジャンプアップとか覚醒みたいな言葉は自分は似合わないですが、淡々と、着実に進んでいきます」。今後も先輩たちの背中を追いながら、一歩一歩を踏みしめて成長していくつもりだ。

 先輩2人は東京世界陸上で力強く戦った。

さらなる刺激を受け、諏方はまた強くなって新シーズンへ向かう。直近の目標は来年のアジア大会(名古屋)代表入りで、将来的には「代表でメダルを取れるような選手になっていきたい。あとは、他の選手たちのこともしっかり見てあげられるような、優しい選手になりたい」と言葉に力を込めた。

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