◆世界陸上 第8日(20日、国立競技場)

 男女の20キロ競歩が行われた。

 女子は世界陸上4回目の出場の藤井菜々子(エディオン)が1時間26分18秒の日本新記録で銅メダルを獲得した。

エディオンの元監督で8月22日に急逝した川越学さん(享年63)を思い、喪章をつけて出場。「川越さんの思いを背負って歩くことができた」藤井は日本女子競歩史上初の快挙を成し遂げた。世界陸上6回目の岡田久美子(富士通)は18位、世界陸上2回目の柳井綾音(立命大)は37位だった。

 男子は世界陸上初出場の吉川絢斗(サンベルクス)が1時間19分46秒で7位入賞。大会初日(13日)の35キロ競歩にも出場した丸尾知司(愛知製鋼)は9位。3度目の優勝を期待された山西利和(愛知製鋼)は16キロでトップに立ったが、その直後に警告3回を受けて2分間のペナルティーが響き、28位だった。

 16年リオ五輪50キロ銅メダルの荒井広宙(ひろおき)さん(37)=富士通=は男女の競歩陣の奮闘をたたえた。銅メダルを獲得した藤井を祝福し、その「勝因」については「足運びが低くなり、警告を受けやすい歩型が改善された」という技術面と「川越さんのために」というメンタル面を挙げた。

※※※※※※※※※※※※

 藤井選手は、大柄な外国人選手に比べると、小柄(身長159センチ)ですが、手足が長く、スケールの大きさでは劣りません。世界陸上では19年に7位、22年に6位の実績があり、入賞する力は持っていました。それが、今大会では、入賞争いからメダル争いができる選手にレベルアップしていました。

 昨年のパリ五輪では3回の警告による2分のペナルティーを受けて、32位に終わりました。

それから技術を見直し、足運びが低くなりました。ロス・オブ・コンタクト(どちらかの足が地面と接していなければならない)の警告を受けやすい歩型が改善されました。

 きょうは17キロを過ぎて2回目の警告を受けました。3回目の警告を受けたら、メダル獲得は絶望的となる中、順位を争うライバル選手との戦い、警告をもらわないための審判との戦いの両方に勝ち、銅メダルを獲得しました。お見事でした。おめでとうございます。

 日本人女子競歩初のメダル獲得は藤井選手の努力の成果です。そして、藤井選手を後押ししたのは、やはり、川越さんの存在だと思います。「川越さんのためにも」という思いで、気持ちが一段上がったはずです。

 応援の力も大きかった。これまで国内の競歩レースでは見たことがないほど多くの人がコースで声援を送ってくれました。その光景には私も感動しました。

選手が発奮したことは間違いないでしょう。

 18位の岡田選手は力を出し切ったと思います。最後まで彼女らしい安定した歩型でした。

 37位の柳井選手は歩型は悪くありません。まだ、大学生。これから練習を積んで、フィジカルを強くしていけば将来、楽しみです。

 男子では世界陸上初出場の吉川選手が7位入賞しました。歩型は安定しており、フィジカルも強い。今回は序盤、第2集団でレースを進めましたが、今後、世界大会でメダルを狙うためには第1集団に加わることが必要です。

 丸尾選手は1週間前の35キロでは力を出し切ってゴールしていました。翌日は全身が筋肉痛だったことでしょう。中6日で、よく回復して、9位になりました。

中盤まで先頭集団で攻める積極的なレースに覚悟を感じました。ただ、欲を言えば、8位に入賞してほしかった。惜しかったです。

 山西選手は、序盤から動きが良かった。15キロから山西らしいキレのあるスパートでトップに立ちました。その後、残念ながら3回目の警告を受けて28位に終わってしまいましたが「山西、ここにあり」と存在感は十分に示しました。

 今大会で日本の競歩はメダル二つ、入賞一つ。多くの人がコース沿道に駆けつけてくれて、競歩の醍醐(だいご)味や面白さを知ってもらえたと思います。選手はプレッシャーがあった一方、それ以上に喜びを感じたと思います。この経験を次につなげてほしい。(2016年リオ五輪男子50キロ銅メダル、富士通勤務)

編集部おすすめ