男子飛び込み日本代表で、7月の世界選手権(シンガポール)の混合団体で銅メダルを獲得した坂井丞(しょう、33)と、現役時代に夏季五輪日本勢最多タイ6大会出場の寺内健コーチ(45)=ともにミキハウス=は、かつてのシンクロペアから現在は“師弟”関係となり、競技に取り組む。このほど、大阪・八尾市内のミキハウス本社で本紙のインタビューに応じ、五輪への思いなどを語った。

(取材・構成=森脇 瑠香)

 ―7月に坂井が世界大会でメダルを初獲得した

 坂井(以下坂)「高校2年生で初めて世界選手権に出て、(32歳で)ようやくメダルを取れた。うれしさは実感しています」

 寺内(以下寺)「日本の飛び込みの水準が上がっている。自分たちがつくってきた道のりの中で、強化が進んでいる。ものすごく誇らしい結果だなと感じました」

 ―世界の大舞台を経験したからこそ思うこともある

 寺「五輪になるとメダルを取る取らないで、より大規模な区分けがされる。坂井は世界選手権でそれが体験できた。ターニングポイントになると思う」

 坂「あいさつ回りしたりだとか、いつも空港に着いたらそのまま帰るのが、(メダリストは)取材があって。こっち側に来られたなと感じました」

 ―寺内氏が23年に現役引退。ペアから師弟になった

 坂「東京五輪後、すごく苦しい時期があり、パリ五輪に行けなかったら、引退も考えていた。寺内さんがコーチになって、順風満帆に進んでいる。ずっと一緒に戦ってきた仲でもある。ここまではいけるよねっていう判断とか、他のコーチよりはしやすいかなと」

 寺「まだ2年のひよっこ指導者です(笑)。でも、自分がやってきたことは間違いじゃなかったと思わせてくれる演技を坂井がしてくれる。

感謝です」

 ―坂井は神奈川が拠点。試合2週間前に関西に来て、月の半分を一緒に過ごす

 寺「坂井は30歳を超えているから、ある意味、駆け足で伝えている。2年前までトップ選手としてやっていたので、頭の中は鮮度がいいまま残っている。2人の飛び込みが似てるからシンクロを組んで五輪でも戦った。彼が苦しんでる部分を自分に落とし込んで、脳内で演技し、提案をできるだけ多く出している」

 坂「助走から水の中に入るまで大ざっぱで見ていたものをコマ送りで見るように変わった。一つ一つ大切にすることで、寺内さんの美しい演技を意識している。コーチとしての寺内さん? 厳しくないと言っていいのかな(笑)」

 寺「練習メニューで厳しいものを課している時もあるけど、会話のなかで厳しいとかはない。いや、こちらが思っているだけで、分からないですね(笑)」

 ―飛び込み界をけん引していく覚悟も学んだ

 坂「玉井陸斗が(昨夏17歳でパリ五輪銀)メダルを取って、中心になりつつあるけど、全部を背負わせるのもかわいそう。自分が引っ張っていかないといけないし、言葉だけじゃなくて姿勢でどう見せるかは、寺内さんがやってきてくれた」

 ―寺内が現役時に獲得できなかった五輪メダルに、坂井もまた挑み続ける

 坂「4年に一度の五輪でどう戦うかは、選手同士の時からお互い言わなくても分かっていたこと。そこに向けてやるのは変わらない」

 寺「大きな目標より、小さい目標の積み重ね。地道に進んでいった後に、3年後(28年ロサンゼルス五輪)、7年後(32年ブリスベン五輪)につながると思う。選手の目標を達成させてあげることに尽きます」

 ◆坂井 丞(さかい・しょう)1992年8月22日、神奈川・相模原市生まれ。

33歳。飛び込み選手の両親の影響で幼少期から競技を始める。麻布大渕野辺高(現麻布大付高)3年時の2010年、日本選手権で3メートル板飛び込みと高飛び込みの2冠。13年、世界選手権板飛び込み8位。日体大から15年、ミキハウス入社。16年リオから五輪3大会連続出場。今年7月、世界選手権混合団体で銅メダル獲得。171センチ、58キロ。

 ◆寺内 健(てらうち・けん)1980年8月7日、兵庫・宝塚市生まれ。45歳。小5で競技を始める。94年、当時史上最年少13歳で日本選手権高飛び込み優勝。

2001年、世界選手権板飛び込み銅メダル。五輪は96年アトランタ大会で初出場するなど6大会に出場し、00年シドニーで高飛び込み5位、21年東京でシンクロ板飛び込み5位。23年、日本選手権シンクロ板飛び込み優勝で引退。現在はミキハウスコーチ。現役時代は170センチ、68キロ。

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