◆世界陸上 第8日(20日、国立競技場)

 男子20キロ競歩は19、22年大会王者で世界記録保持者の山西利和(29)=愛知製鋼=が14キロ付近まで先頭を快歩も、警告を3度受け、まさかの28位に終わった。

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 悪夢は14キロ付近で待っていた。

先頭集団でレースを進めた山西は、他選手が給水を取った隙をついて前に出て勢いよく先頭に躍り出た。その直後だ。両足が同時に地面から離れる歩型違反で3枚目のレッドカードを受けた。気付かず歩いたが16キロ過ぎでペナルティーゾーンに誘導され、2分間の待機を強いられると28位まで後退。そこで2大会ぶりの金メダルの夢はついえた。

 前半からレースを支配したが、12キロ付近で1枚目のレッドカードを受けた。それでも、優勝候補筆頭は日本人初となる3度目の金メダルへギアを上げた。14キロ付近で再び審判の目に留まり2、3枚目が立て続けに出されて脱落。京大卒の頭脳派ウォーカーは「何ていう感情か分からない。今日はいけるかなという勘違いが全ての元凶だった。感覚と見え方が合ってなかったかな」と敗因を分析した。

 王座復権へ、もがき続けてきた。

V3を狙った前回23年のブダペスト大会は24位に沈んだ。昨夏のパリ五輪は代表さえも逃した。それでも、逃げずに苦手だった厚底シューズに対応するなど進化につなげ、今年2月の日本選手権で1時間16分10秒の世界新記録で4大会ぶりに優勝。苦しい2年間を経て「経験を深みとして、新たな部分の表現として形にできれば」と自国開催の大一番に臨んだが、結果には結びつかなかった。

 今後の競技人生についての明言は避けた。「自由にやらせてもらっている以上、結果は出さなきゃいけない。こういう結果で、次もう一回やらせてくださいとはなかなか難しい」と山西。日本競歩界をけん引してきたエースは、大きな分岐点に立たされた。(松末 守司)

 ◆競歩の違反 「ベント・ニー」(接地で膝が曲がる)、「ロス・オブ・コンタクト」(両足が同時に浮く)の2つがある。累積3度の警告で、ペナルティーゾーン待機(20キロなら2分、50キロは5分)。4度目は失格となる。マラソンが膝をクッションにして走るのに対し、競歩はルール上、膝を伸ばすため、でん部や腰回りで衝撃を吸収して推進力を生む。

接地も走りは爪先から入るが、競歩はかかとから。谷井氏は「上半身と下半身の連動は必須。でん部や太ももの筋肉で自分の体を支える力が不可欠になる」と解説。

 ◆山西 利和(やまにし・としかず)1996年2月15日、京都・長岡京市生まれ。29歳。京大を経て18年愛知製鋼入社。中学1年で陸上長距離を始め、競歩は堀川高1年から。13年世界ユース選手権1万メートル競歩優勝。18年アジア大会20キロ競歩銀メダル。世陸は同種目で19年、22年に日本人初の2大会連続制覇。21年東京五輪銅。今年2月の日本選手権を1時間16分10秒の世界新記録で制し、東京世陸代表に内定。

好物は魚。趣味は読書で推理小説好き。164センチ、54キロ。

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