◆世界陸上 第8日(20日、国立競技場)

 女子20キロ競歩で4大会連続代表の藤井菜々子(26)=エディオン=が、1時間26分18秒の日本新記録で日本女子競歩界初の銅メダルを獲得した。エディオンの元監督で8月22日に脳卒中のため、急逝した川越学さん(享年63)を思い、左胸に喪章を着けて出場。

天国からの後押しを受け、4位と同タイムの大接戦を制して悲願の表彰台に立った。

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 強い思いが体を突き動かした。両手を広げてゴールラインを越えた藤井は「メダルを目指して本気で取り組んできたことが今日結果につながって、本当に、純粋にうれしい」と満開の笑顔を輝かせた。最後の直線で4位のトレス(エクアドル)が猛追したが、ギリギリまで「気がつかなかった」という集中力。日本新にも、ゴール後、カメラマンに言われて気付き「まさか日本記録とは」と目を丸くした。

 大会前の練習から好調で、自信があった。スタート時の気温21度、湿度91%。涼しい環境で中盤以降、ハイペースになったが「余裕があった」と先頭集団に食らいついた。約10キロで少し離れたが「動きが固まってきたので、のびのび歩きたいと思った」と冷静に歩型チェックする落ち着きよう。2枚の警告を受けても心を乱さず慎重に歩き続けた。日本女子が初出場した1987年ローマ大会から38年で初のメダル。日本女子最多3度目の入賞。

「すごく成長した」とかみしめた。

 背中を押されていた。8月22日に急逝した恩師の川越さんは「お父さんみたいな存在」。この日は左胸に喪章を着け、ともに4度目の世界陸上を完歩。「きっと川越さんも、私がへこむよりも、元気に歩いている姿を見守ってくださる」。前を向き、今大会前も強度を落とさずに練習に没頭。大会前はいつも「大丈夫だから」と優しく声をかけてくれた川越さん。「それが今回ないことが本当に心細かった」と明かすが、レース中は「絶対に見守ってくれている」と何度も喪章に目を向けた。

 昨年のパリ五輪は左股関節痛に、歩型違反が響いて32位に沈んだ。今季も5月に左膝を痛めて約3週間、練習できなかったが「パリみたいな思いをしたくない」と悔しさを糧に練習を積んだ。「ずっと男子がメダルを取っていて、他国の選手に『なんで女子は弱いの?』と言われ、責任を感じていた」。34年ぶりの東京開催で日本競歩界の歴史を動かした26歳。

「次は金メダルへと歩いて行きたい」と28年ロサンゼルス五輪の頂点も視界に入れた。(手島 莉子)

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