◆世界陸上 第8日(20日、国立競技場)

 日本勢は今大会競歩で2個目のメダル獲得となった。歴史的猛暑に見舞われた大会で、日本陸上競技連盟の科学的な暑熱対策が功を奏した。

同連盟科学委員会の杉田正明委員長を筆頭に特に「暑熱順化」に注力。大舞台を前にいかなる場でも東京の温度、湿度を想定した環境を準備する取り組みを行ってきた。

 今年4月。選手には「ポイントは暑熱順化です」と通達。山西や男子マラソンで日本人最高11位となった近藤亮太らが、北海道・千歳で合宿をする際、ジムにストーブと加湿器を用いて気温30度以上、湿度70%の「ヒートルーム」を用意。バイクやトレッドミルなど、60分以上運動を課した。主に〈1〉体温を体外に逃がす機能を高める〈2〉汗から出る電解質などの成分を薄めることが目的だった。

 杉田委員長によれば、熱を持った血液は皮膚の下に潜り込み放出しようとする。暑熱順化することで、熱を効率的に体外へ放出できるようになる。また、発汗により血液の流れが悪くなれば、運ばれる体内の血液量が減るため心拍数は増加。暑熱順化をすることで体内の血液量が増え、心拍数を抑えることにもつながる。

 練習では、体重の2%以上が汗で失われるよう水分補給の仕方も工夫し、深部体温が38・5度を超える運動を60分以上行うことが一つの基準。

順化期間は10日から2週間必要で、毎日、または1日おきに行うという。「これだけ多湿な中で競技を行うのは酷な面もある」と杉田委員長。最大限の対策を積んできた。

 科学委員会では14年から選手のデータを蓄積。個々に合わせたスペシャルドリンク「トップランナー」は東京五輪でも活用された。レース3日前から行う「ウォーターローディング」は1回300ミリリットル以内を1時間に2、3回、1日に約2リットルの電解質を含む水分補給を3日間行う。体内が“満水”の状態でスタートを迎えることができるように備える。経験の蓄積と緻(ち)密な準備で選手の好成績を支えた。(大谷 翔太)

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