今月28日。イースタン・リーグ最終戦となったロッテ戦(Gタウン)の試合前、巨人ベンチに見慣れない貼り紙があった。

よく見ると新聞記事をコピーしたもので、横には赤ペンで「テキサス新聞」と記してあった。

 記事の内容としては、投手の球速が高速化するなど急激に進化する中で、打者が投球を捉える確率を高めるためには詰まることを恐れなくなり、バットを折りながらでも内野と外野の間に落ちる安打が増えている―というもの。その意識で打席に立つ選手のコメントも紹介されていた。“テキサスヒット”と呼ばれる安打だが、この技術は貼り紙を行った矢野謙次2軍打撃チーフコーチが継続して指導してきた内容と合致する。

 矢野コーチは言う。

 「『詰まってもいいよ』と伝えることで何がいいかというと、その意識を持つだけで崩されなくなる。(体が)前に出にくく、崩されにくくてバットが内から出てくる。芯できれいに打とうとすると(体が)前に行きやすい。最近は日本の投手もボールが動くでしょ?動くボールに対して芯で打っていたら一生ゴロになる。でも『詰まっていいや』という意識があると、当たって内野の後ろとか、ちゃんと当たればホームランとか外野の頭を越えたりする」

 実際にファーム担当として2軍戦を取材していると、ベンチからよく「テキサス!」という声が響いてくる。“詰まってもいい”という意識を1年間、伝え続けてきた。

 実はこの紙面、球団関係者が偶然持っていたものだった。

紙面を見た矢野コーチはすぐにコピーを取り、ベンチや食堂など選手の目に留まる場所に貼り出した。28日の試合では8回にティマが中前適時打を放ったが、バットの先で変化球をしぶとく拾って外野の前に落ちる、まさにテキサスヒットだった。「いろいろな角度から刺激を与えて、阿部さん(阿部監督)が言う“気づき”に深みを出す。そういう狙いがある」。矢野コーチは、そう狙いを明かしてくれた。

 今季2年ぶりのリーグ優勝を果たした2軍は、打率(2割6分4厘)、打点(542)、得点(576)などでイースタン・リーグトップに立った。「理想の形で打ちたい」という打者の欲を捨てる“技術”を武器に、来月4日には中日とのファーム日本選手権(サンマリン宮崎)で16年以来9度目のファーム日本一を目指す。(ファーム担当キャップ・小島 和之)

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