俳優の細田佳央太(24)が4か月間の猛特訓を経て「人はなぜラブレターを書くのか」(石井裕也監督)でボクサー役に初挑戦した。2000年の日比谷線脱線事故で命を落とした高校生ボクサーで、24年後に手紙を送った寺田ナズナ(綾瀬はるか)の初恋相手・富久信介役。

文武両道を体現した実在の人物を演じることにプレッシャーを感じたが、「ボクシングのトレーニングに打ち込むことが、心の支えになった」と振り返った。(有野 博幸)

 2025年度前期のNHK連続テレビ小説「あんぱん」(今田美桜主演)の豪ちゃん役で注目された細田が、高校生ボクサーを演じた。ほぼ同時期の撮影で「NHKで朝ドラの撮影を終えて、ジムに通う毎日でした」。トレーナーから提示された練習メニューの2倍をガムシャラにこなした。

 器用なタイプではないことを自覚している。「0か100しかできない性格なんです。実在の人物を演じる責任を感じたし、『4か月では時間が足りない』と焦りながらも、ボクシングに打ち込むことで、そのプレッシャーから意識をそらすことができた。普通のメンタルだったら、心が折れていたかもしれない」。後に世界チャンピオンとなる川嶋勝重を演じた菅田将暉(33)はボクシング経験者。本物のボクサーを思わせる迫力にも刺激を受けた。

 石井監督とは19年公開の初主演映画「町田くんの世界」以来、7年ぶりのタッグとなった。「明確なビジョンがあって、状況判断がとてつもなく的確な監督。

現場の誰もが絶対的な信頼を寄せるカリスマ」。待ち望んだ再タッグが実現し、「7年間で成長した姿を見せなければ。しっかりしないといけない」と奮起した。

 信介は通学の電車で高校時代のナズナ(當真あみ)と顔を合わせながらも、言葉を交わすことはない。青春時代ならではの、もどかしさが観客の心をくすぐる。「スマホがない時代。人とのコミュニケーションが簡単じゃなかったと思う。だからこそ、その不器用さを目だけのお芝居で表現して、人としての愛らしさを見せられたら」と意識した。思春期の男子になりきり「目線での演技の方がしっくり来て、言葉を交わす方が難しいこともあった」と振り返った。

 口数の少ない信介は17歳の若さで突然、この世を去り、「もっと話しておけば、良かったのに…」と思わせる。「それは、どの登場人物にも当てはまることですね。今を生きている我々だからこそ、話せることがある、と思ってもらえれば、うれしいです」。

人と人との出会いと別れを描き、「時間が経過しても、人の思いは残り、つながって鮮度が落ちることはない」という前向きなメッセージが映画に込められている。

 朝ドラ放送後も精力的に活動している。現在は舞台「岸辺のアルバム」(東京芸術劇場シアターイーストで26日まで)、TBS系日曜劇場「GIFT」(日曜・後9時)に出演中だ。日頃から「俳優以前に会話ができる人でありたい。演技でも実際の日常生活でも会話がコミュニケーションの基本。当たり前のことをおろそかにせず、会話を大切にしていきたい」と心掛けている。

 一本気に役者業に向き合う24歳。さらなる飛躍が期待されるが、明確な理想像はあえて意識しない方針。伸びしろは無限大だ。

 ◆「人はなぜラブレターを書くのか」 2020年5月10日付のスポーツ報知で、元プロボクシングWBC・WBA世界ミニマム級王者の大橋ジム・大橋秀行会長が見知らぬ女性からメッセージを受けたことを紹介した。それは00年に東京・中目黒駅で起きた日比谷線脱線事故で命を落としたジムの教え子・富久信介さん(享年17)に、思いを寄せていた女性が20年の時を経て送ったものだった。記事を読んだ石井監督は、映画化を決意。

劇中では事故から24年後の設定として綾瀬はるか(41)が手紙を送る寺田ナズナ役を演じた。

 ◆細田 佳央太(ほそだ・かなた)2001年12月12日、東京都生まれ。24歳。4歳から子役として芸能活動を始め、14年の「もういちど 家族落語」で映画デビュー。19年の「町田くんの世界」で1000人以上の中からオーディションで選ばれ、映画初主演。21年のTBS系ドラマ「ドラゴン桜」で注目され、現在は同「GIFT」に車いすラグビー選手役で出演中。173センチ。血液型A。

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