―[その判決に異議あり!]―

’20年、警視庁公安部が大川原化工機の噴霧乾燥機を「生物兵器への転用が可能」として社長ら3人を逮捕・起訴するも、後に無理筋な冤罪事件と明らかになる。今回、勾留中にがんが判明し死亡した元顧問の遺族が保釈を認めなかった裁判官37人の責任を問う。

“白ブリーフ判事”こと元裁判官の岡口基一氏は、「大川原化工機冤罪事件国賠訴訟」について独自の見解を述べる(以下、岡口氏の寄稿)。

裁判官はなぜ保釈を認めなかったか? 冤罪で殺された被告遺族の無念晴らす

無実だったのにがんでも保釈されず…遺族が裁判官37人を訴えた...の画像はこちら >>
 勾留中の被告人に悪性の進行がんが見つかったにもかかわらず、裁判官が頑なに保釈を認めなかったことで、治療が遅れ、被告人は死亡。ところがその後、無実が明らかに……。

 大川原化工機冤罪事件では、裁判所による謝罪や検証、再発防止策の検討が行われると誰もが思っていた。だが、そうした対応が一切なかったため、問題を明らかにしようと、遺族が訴えを提起せざるを得なくなったのが、今回取り上げる訴訟だ。

 本来なら、国家が自ら検証すべきなのに、それをしないため、被害者側が裁判を起こさなければならない。この国では、そういうことが本当に多い。

 もっとも、今回の裁判はそう簡単なものではない。裁判所は、明白な法令違反がない限り、自分たちの違法を認めようとしないからだ。裁判所職員が内部でパワハラを受けても、それを裁判に持ち込もうとしないのは、認められるとは思っていないからである。この訴訟で遺族は、保釈却下の判断に関与した37人の裁判官について、その判断はいずれも違法だと主張するようである。ただ、そのうち、がんの発覚前に関与した裁判官については、結果として無実の人間の身柄拘束を続ける判断をしたとはいえても、その違法性が認められることは、まずないであろう。

 では、がんの発覚後も保釈を認めなかった裁判官たちはどうか。
その中には、まだ実務経験の浅い判事補もいる。そういう「後輩」裁判官に責任を負わせることを、「先輩」裁判官たちはためらうはずだ。

 もしかすると、その判事補は、被告人が入院を必要とするなら、別の制度である「勾留の執行停止」によるべきだと考えたのかもしれない。もっとも、この制度では重い疾病には十分対応できない。仮に判事補がそれを知らなかったとすれば、裁判官の教育不足という裁判所全体の問題であって、その判事補一人に責任を負わせにくい。

一・二審でどのような審理がされるかがポイント

 以前、取り上げた広島地検男性検事自殺事件では、検察はパワハラの疑いがある次席検察官の証人尋問などの手続に入らせないようにするため、多額の血税を使ってカネで解決した。しかし、裁判所はそんなことをする必要すらない。保釈しなかった裁判官の尋問を避けたければ、それをしないと自分で判断すれば足りるからだ。その代わりに、遺族本人の尋問は何時間でも認めるだろう。ガス抜きのために。

 裁判官社会には、他の裁判官の判断を尊重し、それを批判したり口出ししたりしない、という基本ルールがある。それが、どの裁判官の心にも染みついている。
しかも、今の裁判所は「刑事組」の力が強く、最高裁長官も刑事出身者が続いている。そんな中で、民事裁判官が、自分の専門外でもある刑事分野における裁判官の判断を、公然と批判できるだろうか。

 この裁判で、最高裁の出すであろう結論は見えている。そのため、一・二審でどのような審理がされるかがポイントである。進行がんが判明したのに保釈を認めなかったのはなぜか? それだけでも検証する審理が必要だろう。そんな勇気ある民事裁判官が、下級審に一人でもいることを願わずにいられない。

<文/岡口基一>

―[その判決に異議あり!]―

【岡口基一】
おかぐち・きいち◎元裁判官 1966年生まれ、東大法学部卒。1991年に司法試験合格。大阪・東京・仙台高裁などで判事を務める。旧Twitterを通じて実名で情報発信を続けていたが、「これからも、エ ロ エ ロ ツイートがんばるね」といった発言や上半身裸に白ブリーフ一丁の自身の画像を投稿し物議を醸す。その後、あるツイートを巡って弾劾裁判にかけられ、制度開始以来8人目の罷免となった。著書『要件事実マニュアル』は法曹界のロングセラー
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