音楽コンテンツの未来を守る著作権エージェント「NexTone...の画像はこちら >>

テレビやインターネット・CD・映画・カラオケ・レンタルなど音楽を使用するメディアの発展により、音楽は私たちの日常生活の隅々まで広く浸透している。

さらに近年のインターネットやデジタル技術の進化、アーティストの「サブスク解禁」といった音楽配信の変化に伴い、音楽の利用方法はますます細分化され、複雑になってきている。

そのような中、著作権者自らが全ての利用者と交渉し著作権使用料を受領することは極めて困難である。そこで著作権管理事業者が著作権者に代わって音楽作品の権利管理を行うのが、株式会社NexTone(以下、NexTone)だ。

そして同社は、2020年2月25日に東京証券取引所マザーズ市場への新規上場が承認され、2020年3月30日に上場を果たす。

本記事では、有価証券報告書を元に同社のこれまでの成長を紐解いていく。

音楽の権利を中心としたふたつの主要事業

同社は、2016年2月1日に株式会社イーライセンスと株式会社ジャパン・ライツ・クリアランスの合併・事業統合により発足した企業。

以降2017年3月末まで、合併前の2社それぞれの作品委託契約並びに利用許諾契約に基づき、2事業本部制による管理業務を行っていたが、2017年4月1日より契約約款、使用料規程などを整え、管理体制やシステムを完全統合した新生”NexTone”としての新たなるスタートを切った。

「権利者に選ばれ、利用者から支持される著作権管理事業者となる」ことを目指し、公平・公正かつ透明性の高い著作権使用料の徴収・分配を行うこと、権利者の裁量により著作物利用に対し迅速かつ柔軟に対応すること、最新のテクノロジーを活用した効率的な管理・運営を行っている。

同社は大きくふたつの事業をおこなっている。ひとつ目が「著作権等管理事業」。この事業は、著作権管理業務とデジタルコンテンツディストリビューション業務にわかれている。ふたつ目が「キャスティング事業」である。

①著作権等管理事業
・著作権管理業務
音楽分野における著作物である「詞」と「曲」の管理を行う業務。
・デジタルコンテンツディストリビューション業務
著作物を録音・編集した音源マスターである原盤を権利者からライセンスし、国内外の販売先の音楽配信サービスを通してユーザーに音楽を届ける業務。
②キャスティング事業
キャスティング・コンサルティングとして、アーティスト稼働やライブへのユーザー招待、楽曲タイアップ等に関わる様々な音楽コンテンツの権利処理を行い、企業キャンペーンや各サービスでの音楽コンテンツを中心に利用促進をコーディネートする事業。

その他事業として、音楽・映像などエンタテインメント業界のコンテンツビジネスに関する印税契約管理、及び許諾・配信管理、印税計算や関係権利者への分配などのバックエンド業務に特化したシステム開発なども行っている。

NexToneの成長を生み出すビジネスモデル

NexToneが行う事業のビジネスモデルは以下の通りである。

音楽コンテンツの未来を守る著作権エージェント「NexTone」のIPOサマリー

売上高の8割を占める著作権等管理事業のビジネスモデルに関して詳しく説明する。

著作権管理業務において、著作権を保有する著作権者は、自ら著作権の管理方法を選択する権利を保有しているが、権利管理効率や著作権料徴収精度の高さから、音楽分野においては著作権管理事業者に作品を登録・管理することが一般的となっている。

また、利用者からの視点で見ても、使用する都度、数多くの著作権者から使用許諾を得ることは、大変困難な作業であり、著作権管理事業者が集中して著作物を管理することにより、定められた手続きと支払いを行いさえすれば自由に作品を利用できる環境となっている。

続いて、デジタルコンテンツディストリビューション業務では、著作権を管理する作品が含まれる原盤をより多くのユーザーに販売することで、原盤の使用料を受領している。

同時に著作権使用料も発生するため、自らコンテンツ流通プラットフォームを構築し、販売を促進することにより、著作権使用料の増大を狙うことができる。

さらに、YouTubeにおけるコンテンツマネージメントによる動画広告収益の一部も受領している。

楽曲利用促進による事業成長

NexToneの事業成長を支えているのはやはり売上高の8割を占める著作権等管理事業である。

以下の事業別売上高推移の図を見てほしい。第19期連結会計年度 (2018年4月1日 – 2019年3月31日)と第20期第3四半期連結累計期間 (2019年4月1日 – 2019年12月31日)での売上高を比較すると、実際に著作権等管理事業の成長が見受けられる。

音楽コンテンツの未来を守る著作権エージェント「NexTone」のIPOサマリー

その要因として著作権等管理業務における管理作品数の増加が挙げられる。管理できる楽曲が増えれば増えるほど収入が増えるので、成長に寄与していると言えるだろう。

音楽コンテンツの未来を守る著作権エージェント「NexTone」のIPOサマリー

このように管理作品が伸びているのは、管理手数料の低さにあると考えられる。音楽分野の唯一の著作権管理団体として、使用料の徴収など管理業務を一手に担ってきた一般社団法人日本音楽著作権協会(以下、JASRAC)と比較するとその差は明らかである。

音楽コンテンツの未来を守る著作権エージェント「NexTone」のIPOサマリー

NexTone管理手数料実施料率 , JASRAC管理手数料届出・実施料率を参考に作成

管理するコンテンツによって管理手数料が違うものの、JASRACよりNexToneのほうが、管理手数料を抑えられることがわかる。

事業成長における、もうひとつの要因として、デジタルコンテンツディストリビューション業務、キャスティング事業、その他事業を合わせた楽曲利用促進に関する売上が向上していることにある。

楽曲利用促進とは、音楽配信プラットフォームへの配信やクライアント企業のプロモーションに楽曲を利用してもらうことを示す。

音楽コンテンツの未来を守る著作権エージェント「NexTone」のIPOサマリー

2019年3期の利用促進関連売上高は、有価証券報告書に具体的な金額の記載はないが、2015年3期の金額から約3倍伸びているという。

売上と利益共に好調を維持

音楽コンテンツの未来を守る著作権エージェント「NexTone」のIPOサマリー

合併しNexToneとなるまでの歴史が長いことと、有価証券報告書に記載されている経営指標が15期目ということもあり、すでに黒字化を達成している。

その後、NexToneとなった17期目の決算以降も売上高・純利益共に安定した成長をとげている。

安全性と成長性を兼ね備える財務状況

B/Sと主要経営指標から作成した、財務状況を示した図が以下になる。

音楽コンテンツの未来を守る著作権エージェント「NexTone」のIPOサマリー

図から、まず流動比率、自己資本比率が高く、安全性に長けていることがわかる。流動比率は150%を超えていれば優良、自己資本比率は40%を超えていれば、倒産しにくいと言われている。

直近上場したビザスクの安全性指標を見てみると、流動比率が174%、自己資本比率が17%となっており、NexToneのほうが自己資本比率が高く、自立した経営ができていると言える。

成長性において、売上高成長率と当期純利益伸び率も申し分なく、IPO後の成長も見込めるだろう。

コンテンツホルダー・タレント事務所からの調達が目立つ

有価証券報告書におけるⅠの部によると2015年以降の調達が記載されている。2015年から上場に至るまで、3回の調達を行っており、合計約4.8億円の資金を集めている。

音楽コンテンツの未来を守る著作権エージェント「NexTone」のIPOサマリー

3回の第三者割当増資の引受先を見ると、株式会社アミューズやエイベックス・ミュージック・パブリッシング株式会社、株式会社ソニー・ミュージックエンタテインメントといったコンテンツホルダーやタレント事務所からの調達が目立つ。

NexToneと引受先企業との親和性が高く、主力事業である「著作権等管理事業(著作権管理業務)」の管理作品の11.4%は、エイベックス・グループの管理作品が占めている状況となっている。

想定時価総額と主要株主

今回の公募価格は仮条件の上限となる1,700円である。調達金額(吸収金額)は約18億円(想定発行価格:1,700円 × OA含む公募・売出し株式数:1,064,500株)、想定時価総額は52.3億円(想定発行価格:1,700円 × 上場時発行済み株式総数:3,079,000株)となっている。

音楽コンテンツの未来を守る著作権エージェント「NexTone」のIPOサマリー

大株主を見てみると、事業会社で占められている。NexTone代表取締役である阿南雅浩氏の株式保有率は1.34%と直近上場した企業と比較しても低い割合となっている。

エイベックス株式会社(以下、エイベックス)の100%子会社であるエイベックス・ミュージック・パブリッシング株式会社が同社の発行済株式の29.2%を保有しており、エイベックスは同社の「その他の関係会社」に該当している。

株式公開に際してエイベックス・ミュージック・パブリッシング株式会社が保有する株式の一部の売出しを予定していることから、同社はエイベックスの持分法適用関連会社から外れる予定だ。

強みを生かした今後の中長期戦略

著作権等管理事業が着実に成長曲線を描くように経営資源を投入し、中長期的に「演奏権」を含め、 全支分権・利用形態への早期参入と海外徴収の実現を目指していくという。

今後、同社の強みであるデジタルコンテンツディストリビューション業務、キャスティング事業、音楽出版事業、システム関連事業から発展させ、音楽権利ビジネスに係るあらゆるサービスを提供する著作権エージェントとなることを目指していく。

※本記事のグラフ、表は新規上場申請のための有価証券報告書Ⅰの部を参考